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意地悪なお義母様が呪われてしまいました
第二話
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ウィリアムを見送ってからしばらく日が経った夜の寝室。
「はぁ……」
今日もジルダから叱責を受けまくり、一人ベッドの上で座り込むミレイユの口から溜息が漏れる。
聖女の力を期待されてフォレスター家に嫁いできたにも関わらず、役に立てないどころかジルダから叱られてばかり。
帰ってきたウィリアムに気遣われても、お返しに聖女の力で疲れを癒してやることすら出来ない。
己の不甲斐なさに落胆するミレイユが、嘆息気味にふと窓の外を見遣ると満天の星空が輝いていた。
「ウィリアム様も、同じ空を見てるのかな」
そんな毎日を過ごすミレイユだったが、ジルダからどれだけ蔑まれても涙を流すことはなかった。それは決して彼女が変に鈍感だからではない――。
苦悩な生活を送りながらもミレイユには、誰にも邪魔されたくない“日課“がある。それは――礼拝堂への参拝だ。
ウィリアムと結婚する三年前、聖女として強い力を持っていた母を流行りの病で失ってしまった。
『ミレイユ……みんなの幸せが、あなたに幸せを呼ぶのよ』
最期にそんな言葉を残した母が息を引き取った翌日から今日に至るまで、ミレイユは礼拝堂でのお祈りを一日たりとも欠かせたことはない。
「お母様、みんなが幸せになれるよう……私にお力をお貸しください」
しかしどれだけ手を合わせて祈っても、聖女の力が宿ることは叶わなかった。それでも祈るだけで、心の底から滲み出る『お義母様は意地悪だ』という、嫌な感情が洗い流される気がした。
本当に悪い人なんていない。そう見えてしまうのは自分の心が汚れているからだ。
ミレイユは母からそう教わったことを、信じてやまなかった――。
ある日。
ついにジルダが、毎朝馬車で礼拝堂へ向かうミレイユに対し、執事のエンリコにキツく目を釣り上げて怒りを露わにした。
「――あの女、いい加減にしないとタダじゃすまなさないわよ。ロクに私の要求もこなせないクセに、よくあんな呑気に無駄な参拝などしていられるものね」
エンリコは余りに陰惨な表情を浮かべるジルダに対し、“飛び火したら自殺したくなるかも“と思うほどの戦慄を覚えたが。
「お言葉ですがジルダ様。ミレイユ様の参拝は、もしや聖女になるための“儀式“なのではないでしょうか? あまり抑制するべきではないかと……」
と、恐る恐る進言してみる。ところがジルダは扇で口元を隠すと、エンリコへ自分に近寄るよう目で合図を送った。
「何が儀式よ。そもそもあいつは“偽物”じゃないか。ウィリアムはあの女から言葉巧みに騙されたのよ。むしろ、そんな悪魔みたいな女は即刻退治する必要があるわ――」
ジルダは昔から黒く美しい髪と美貌で、多くの男性達から絶賛を浴びていた。しかし愛する息子が可憐なミレイユと結ばれてからというもの、その姿は今や見る影もない。
そんなジルダは密かに「確か地下室の奥深くに『呪術書』が眠っていたはずだから、それを持って来なさい」とエンリコに命じた。
良からぬことを企むジルダの不敵な笑みを見たエンリコが『どうしてこんなことに……』と、心中で悲痛を嘆く――。
エンリコから見たミレイユは、正直ジルダにそこまで責められるほど酷くない。
むしろミレイユの立ち振る舞いや所作は、社交界などの席でも他家からとても良い評判を得ている。たまに抜けているところもあるが、それも至って愛嬌の範疇である。
だが、ジルダがミレイユに要求していることは理想が高過ぎて、もはやそれを満足にこなせる者などこの世にいない。
他の従者達も『あり得ないな』と言いたげな顔で二人の様子を見ながらも、心中では分かっているのだ。
こんなのは、ただジルダ様がミレイユ様に嫉妬しているだけじゃないか――と。
そう思っても、ジルダに逆らえないエンリコは渋々と地下室への階段を降りて行った――。
「はぁ……」
今日もジルダから叱責を受けまくり、一人ベッドの上で座り込むミレイユの口から溜息が漏れる。
聖女の力を期待されてフォレスター家に嫁いできたにも関わらず、役に立てないどころかジルダから叱られてばかり。
帰ってきたウィリアムに気遣われても、お返しに聖女の力で疲れを癒してやることすら出来ない。
己の不甲斐なさに落胆するミレイユが、嘆息気味にふと窓の外を見遣ると満天の星空が輝いていた。
「ウィリアム様も、同じ空を見てるのかな」
そんな毎日を過ごすミレイユだったが、ジルダからどれだけ蔑まれても涙を流すことはなかった。それは決して彼女が変に鈍感だからではない――。
苦悩な生活を送りながらもミレイユには、誰にも邪魔されたくない“日課“がある。それは――礼拝堂への参拝だ。
ウィリアムと結婚する三年前、聖女として強い力を持っていた母を流行りの病で失ってしまった。
『ミレイユ……みんなの幸せが、あなたに幸せを呼ぶのよ』
最期にそんな言葉を残した母が息を引き取った翌日から今日に至るまで、ミレイユは礼拝堂でのお祈りを一日たりとも欠かせたことはない。
「お母様、みんなが幸せになれるよう……私にお力をお貸しください」
しかしどれだけ手を合わせて祈っても、聖女の力が宿ることは叶わなかった。それでも祈るだけで、心の底から滲み出る『お義母様は意地悪だ』という、嫌な感情が洗い流される気がした。
本当に悪い人なんていない。そう見えてしまうのは自分の心が汚れているからだ。
ミレイユは母からそう教わったことを、信じてやまなかった――。
ある日。
ついにジルダが、毎朝馬車で礼拝堂へ向かうミレイユに対し、執事のエンリコにキツく目を釣り上げて怒りを露わにした。
「――あの女、いい加減にしないとタダじゃすまなさないわよ。ロクに私の要求もこなせないクセに、よくあんな呑気に無駄な参拝などしていられるものね」
エンリコは余りに陰惨な表情を浮かべるジルダに対し、“飛び火したら自殺したくなるかも“と思うほどの戦慄を覚えたが。
「お言葉ですがジルダ様。ミレイユ様の参拝は、もしや聖女になるための“儀式“なのではないでしょうか? あまり抑制するべきではないかと……」
と、恐る恐る進言してみる。ところがジルダは扇で口元を隠すと、エンリコへ自分に近寄るよう目で合図を送った。
「何が儀式よ。そもそもあいつは“偽物”じゃないか。ウィリアムはあの女から言葉巧みに騙されたのよ。むしろ、そんな悪魔みたいな女は即刻退治する必要があるわ――」
ジルダは昔から黒く美しい髪と美貌で、多くの男性達から絶賛を浴びていた。しかし愛する息子が可憐なミレイユと結ばれてからというもの、その姿は今や見る影もない。
そんなジルダは密かに「確か地下室の奥深くに『呪術書』が眠っていたはずだから、それを持って来なさい」とエンリコに命じた。
良からぬことを企むジルダの不敵な笑みを見たエンリコが『どうしてこんなことに……』と、心中で悲痛を嘆く――。
エンリコから見たミレイユは、正直ジルダにそこまで責められるほど酷くない。
むしろミレイユの立ち振る舞いや所作は、社交界などの席でも他家からとても良い評判を得ている。たまに抜けているところもあるが、それも至って愛嬌の範疇である。
だが、ジルダがミレイユに要求していることは理想が高過ぎて、もはやそれを満足にこなせる者などこの世にいない。
他の従者達も『あり得ないな』と言いたげな顔で二人の様子を見ながらも、心中では分かっているのだ。
こんなのは、ただジルダ様がミレイユ様に嫉妬しているだけじゃないか――と。
そう思っても、ジルダに逆らえないエンリコは渋々と地下室への階段を降りて行った――。
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