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*** 171 対ノーブ王国 ***
しおりを挟む2ヶ月ほど前にニセ世界樹で兵7万5000を捕獲してやったノーブ王国が、南東の出城に使者を送って来た。
出城の城門前の窓口でなにやら口上を言ってたけど、要は捕虜になった将兵を返せということらしい。
返さなければ、精鋭軍15万をもってこの国に攻め込むぞとか威勢のいいこと喚いてたんだ。
でも、窓口のアダムブラザーに、「この件につきましては、我がガイア国の代表代行は、直接ノーブ王としか交渉しませんって看板に書いてありませんでしたか?」ってカルーくあしらわれちゃったもんだからさ。
激昂した使者の将軍が命じて暴れ始めた兵士が、また500人もタイホされちゃったんだわ。
タイホを免れた馬番たちは慌てて帰って行ってたよ。
それでまた2カ月後ぐらいに、ノーブ王からの親書を持って出城に使者が来た。
その親書には、ノーブ王国とガイア国出城の中間にある高原の最高地点の広場に於いて、30日後の正午にガイア国代表とノーブ王の会見を行いたいという提案が書かれていたんだ。
双方護衛の兵を30名に制限して。
それから俺は多少の準備を始めた。
まずは土の精霊たちが整備した道の周辺の再整備だ。
ノーブ国との中間地点では、切り通しの道の途中の広場を大きくして、会見場所を整備する。
ついでに左右の崖の上もヒトが歩けるように綺麗に整えてやったんだ。
準備で最も難航したのは護衛兵の選抜だったよ。
もーみんな自分がついて行くって聞かないんだわ。
最後は俺の独断で、4つの種族の29名に決めた。
ああ、俺の副官はフェミーナだ。
種族を決めた後の人選は各種族に任せたんだけどさ。
族長やら大族長やらが自ら志願してタイヘンだったわぁ。
会見当日の朝、俺と護衛たちは会見場所に転移した。
広場の中央には向かい合った形で玉座を2つ、そこから斜め後方に副官用の椅子、さらに20メートルほど離れた後方には、護衛たちの椅子も用意してある。
約束の正午まであと1時間ほどになった。
(なあアダム。
ノーブ王たちはこちらに向かっているか?)
(はい。全員騎馬にてこちらに向かっています。
正午にはこの場に到着するでしょう)
(ふむ。時間ぐらいは守れるやつらだったか。
それから周囲の状況はどうなってる?)
(はい。切り通しの崖の左右に弓兵5000が静かに向かって来ています。
それから道の後方3キロ地点の窪地に伏兵5000。
更にはその後方5キロに騎馬兵2万程。
そしてその後方5キロには主力軍と見られる軍勢8万が配置につこうとしていますね)
(そうか。
この場で俺を弓矢で殺して、そのままガイア国に侵攻するつもりか……
ったくヒト族の支配層はロクな連中じゃないな。
それじゃあノーブ王が到着するまでに、崖の上の弓兵から順に収容所に転移させておいてくれ。
ああ、馬も糧食も一緒にな。
全員転移にどれぐらいの時間がかかる?)
(おおよそ30秒も頂ければ)
(はは、お前も進化したもんだな。それじゃあ頼んだぞ)
(はい)
正午ちょうどにノーブ王一行が到着した。
全員騎乗して全身鎧に身を包んでいる。
ああ、馬の体もかなりの部分、鉄板で覆ってあるな。
崖の上の弓兵の矢で自分たちが傷つかないようにしているんだろう。
お、御丁寧に馬の後ろにでっかい盾まで持って来てるか……
へへ、この様子は遥か上空の『カメラの魔道具』でガイア国全体に生中継されてるからな。
ちょっとだけ緊張するぜ……
「そちがガイア国とやらの代表か……」
「ああ、俺はガイア国代表代行のサトル神だ。
代表はシスティフィーナ神なので、神域にいてここには来ていない。
まあ俺は全権を委譲された代表代行だ」
「わしがノーブ王である」
「それじゃあ立ち話もなんだから、お互い席に着こうぜ」
双方が席に着いたが、副官以外の護衛は立ったままだ。
ノーブ王国側の護衛は、いつでも盾を頭上にかざせるように手で持っている。
対して俺の護衛たちは革の軽鎧を身につけて、小さな剣を持っているだけだ。
ノーブ王が興味深げに俺を見つめている。
「ふむ、若いの。
その若さで新たな国を立ち上げたのか……」
「まあな。
だが統治能力には年齢は関係無いんじゃないか?」
俺の口のきき方が癇に障ったんだろう。
副官が気色ばんだが、ノーブ王がそれを片手で制する。
「それで、そちはどれほどの軍勢を持っているというのじゃ。
雑兵では無く精鋭軍は何万おる?」
「うーん、うちは軍隊を持っていないからなぁ。
戦える奴を集めても、せいぜい3000人ぐらいじゃないか?」
「その程度の戦力でよくも国なぞ立ち上げたものよ」
「でもさ。
その程度の国に7万5000もの兵を捕虜にされたのって、アンタの国だぞ」
ノーブ王の護衛たちが額に青筋を立てて剣の柄に手をやった。
「ふふ、流石に若いだけあって威勢だけはいいよの」
「そっちはじじいだけあって、理解力に欠けるようだな」
あはは、護衛たちの剣にかけた手がぷるぷるしとるわ。
ノーブ王はまた俺の目を穴のあくほど見つめた。
全身から覇王のオーラが立ち昇る。
「すぐに我が国の兵7万5000を引き渡せ。
さらに世界樹の地も明け渡すのじゃ。
さすればお前も殺さず、お前の国は滅ぼさずにおいてやろう……」
「それじゃあ、兵1人につき大金貨10枚、合計大金貨75万枚を支払え。
それから今後一切のガイア国への武力行使をしないと誓え。
世界樹に近づくことも許さん」
ノーブ王が笑った。
あー、実にやらしい笑い方だな。
あれだけの戦い方を考案した男だから多少の興味は持っていたけど、コイツはダメだな。
E階梯なんか0.1しか無いし……
「はは、我が国の国家予算の10年分を寄こせと申すか。
そちは若過ぎてまだ理解してはおらんようだの。
己の意を通す手段は、唯一力のみなのだ。
要は軍勢の質と量だけなのだ。
たかが数千の兵力で、将兵25万を有する我が国に逆らうとは……
その代償は高くつくぞ……」
「同じことはお前にも言えるんじゃないか?」
ノーブ王が副官を振り返った。
すぐに副官が合図を出す。
それを見て、後方に控えていた護衛の内の1名が弓に太い矢をつがえて上方に向けた。
ああ、あの矢は鏑矢だな。
笛がついていて、放つと大きな音が出るようになっているやつだ。
戦場での連絡用の矢だろう。
同時に護衛たちが盾を頭上に掲げた。
後ろの護衛が4人ほど駈け寄って来て、ノーブ王の頭上にも盾をかざす。
(サトルさま。
すでに弓兵も含めたノーブ兵11万の捕獲は完了しております……)
(御苦労さん)
ノーブ王や護衛たちはにやにやしながらこちらを見ている。
でも……
いくら待っても何も起きないんで、皆怪訝な顔になり始めた。
副官が慌ててまた合図を出す。
それでまた鏑矢が続けて何本も飛んだが、何も起こらない。
「あー、せっかく準備していたのに気の毒なんだがなぁ。
弓兵5000は既に捕獲してあるぞぉ。
それからその後方3キロ地点の窪地にいる伏兵5000。
更にはその後方5キロの騎兵2万、そしてその後方5キロの主力軍8万も捕獲した。
これで合計俺が捕獲したノーブ王国の将兵は、合計18万5000になるか……
だから捕虜返還の代金も大金貨185万枚になっちゃったぞぉ」
「だ、誰か後方と崖の上に物見に行けっ!」
あはは、副官が焦って喚き始めたわ。
「動くな!
今敵と面する兵を減らしてなんとする!
それではお前たちノーブ王国の最精鋭の力を見せてやれっ!」
護衛たちが全員抜剣して俺に剣を向けた。
「それではこちらも精鋭兵を紹介してやるよ。
オーガ兵前へ!」
ヒト化と『変身』によって2メートル弱の姿になっていたオーガたち5人が前へ出て来た。
先頭はもちろんオーガ・キングだ。
あー、キングの嬉しそうな顔ったら……
「せっかくだからお前たちの真の姿をお見せしてやってくれや」
「「「「「 御意っ! 」」」」」
うっわ~、久しぶりに見たけど素のオーガ・キングって迫力あるよなあ。
身長3メートル50、体重600キロだもんなおい。
しかもこれ、たぶん体脂肪率1%以下だろうに……
満面の笑みを浮かべたキングが前に出て来た。
あー、腕を左右に振りながら、脇の下でかぽーんかぽーんとか音出してるよ。
アンタはプロレスラーか……
その後ろのオーガ・ジェネラルたちの迫力もハンパ無いしな。
ノーブ王国の護衛兵たちが硬直した。
「それじゃあ次はミノタウロス兵、真の姿をお見せしろ」
「「「「「 ははっ! 」」」」」
う~ん、こいつらも迫力あるよなあ……
身長体重はみんなオーガ・キング並みだし、側等部から生えてる角は1メートル近いし。
胸板なんか前から見ても横から見ても、幅が変わらんもんな。
まるで樽だわ。
どう考えてもこんな連中と喧嘩したくないよなぁ……
ノーブ兵たちが思わず半歩下がった。
「それじゃあフェンリル兵、前へ」
わはは、全員体長6メートルから8メートルの狼姿になって、ぐるるるとか言いながら牙剥いとるわ。こいつらマジ怖いよ。
あっ、つ、つられてフェミーナまで変身しとる!
お、お前は変身するとき一瞬裸が見えるから、変身禁止を申し渡していただろうが!
お前の裸を見てもいいのは俺だけだ!
ノーブ王国兵士のほとんどが腰を抜かした。
「よし、次はベヒーモス兵前へ!」
中央にベヒラン族長、左右に2人ずつのベヒモニュートがベヒーモスに変身した。
あー、やっぱすごいわ。
ベヒラン族長って、体長15メートル、体重30トンだもんな。
完全に恐竜か怪獣だぞ。
「「「「「 ぶごおぉぉぉぉぉぉぉぉ~っ! 」」」」」
おお、さすがに吼え声も迫力あるなぁ。
あ、なんかじゃーじゃー音がする……
あっ、く、臭ぇっ!
ノーブ王の副官の奴、前から後ろから体の中身全部出しとるっ!
俺は慌てて風魔法で匂いが俺まで届かないようにした。
「そ、それでは最後はドラゴン兵だ」
10人のドラゴニュートたちが素早く散った。
その場で真の姿になると、みんなを潰しちゃうからな。
ノーブ側から見て右手に氷龍が5体、左手に焔龍が5体出現する。
「「 ギャース! 」」
「「「「「 ギャギャギャギャース!!! 」」」」」
まー、みんな体長30メートルクラスで、体高も15メートルだからなあ。
あ、氷龍も焔龍も上向いて口開けてブレス放った!
おー、ぶっとい冷凍ブレスとこれも極太の火焔ブレスが上空を乱舞しとる……
き、綺麗だね。
あらあら、ノーブ王国の護衛さん達みんな倒れちゃってるよ。
はは、半分以上が気絶しとるわ……
「それじゃあノーブ王さんや。
1対1の戦いを30回やるかい?
それともメンドクサイから30対30の戦いにするかい?
それとも俺とタイマンでも張るかい?」
俺は自分の上空に直径300メートルの白い大火球を出現させた。
まだ意識のあった連中がそれを呆然と眺めている。
俺はそのプラズマの大火球をゆっくりと動かして、左右の切り通しの崖を蒸発させて行ったんだ。
はは、これで切り通しじゃあなくって、単なる丘になったか。
まあ一応全員絶対フィールドで覆ってやってるよ。
そうしないとみんなも蒸発しちゃうからなぁ。
「ま、ままま、待てぇっ!
こ、これがお主らの戦力だというのかぁっ!」
おー、流石は戦闘大国ノーブ王国の王だわ。
失禁も失神もせずにまだ喋れるんか。
でもまあ、滝のように脂汗を流してるけどな……
「そうだけどなにか?」
「…………」
「ふふふ、でも私たちが束になってかかっても、サトル神さまにはまるで敵わないのよ♡」
うーん、フェミーナ、フェンリル姿でもドヤ顔してるのがわかるぞ……
「ということでノーブ王さんよ。
やるのかやらんのかはっきりしてくれや……
何も言わんのならこっちから仕掛けるぞ?」
「ま、待てっ!」
「おいおい、この期に及んで命令形で喋んのかよ……
お前はもっと他に言い方を知らんのか?」
「ま、待って…… く、下さい……」
「まあいいか、それじゃあお前のお漏らし護衛たちは全員捕虜にさせてもらう。
ああ、馬も装備も没収だ。
お前はそこの臭っさい副官と歩いて帰れや。
そうそう、今回俺をハメようとした件については、明日賠償金を頂戴することとする。
それじゃあ頑張って歩いて国まで帰れ……」
それでまあ俺たちも帰ろうとしたんだけどさ。
なんかみんな戦う気満々で、アドレナリンを持て余してたんだ。
特にオーガ・キングとフェンリーが。
だから仕方が無いから2人で模擬戦やるの許可することになっちまったんだよ。
まあどっちにも命の加護は掛けてあるから死んでも生き返るからなぁ。
でも、2人が戦ってるの見て、他の全員もすっげぇ興奮してアドレナリン発散出来たんだ。
やっぱり格闘技って、観客も感情移入して闘争本能の発露が出来るんだな。
本人たちも大満足して、模擬戦後は双方ボロボロのまま笑顔で握手してたし……
こうした模擬戦、これからTV番組にでもしてみるか。
まあ、格闘技っていうよりは特撮映画の怪獣大決戦みたいだけどなぁ……
よし、それっぽいコスチュームもつけよう!
翌日俺はノーブ王国の王城に転移した。
さて賠償金を支払って貰いますかね……
まずは城の中の金銀財宝武器防具を全部頂いてと……
まあ、飢えるのも可哀想だから食料は少し残してやるか……
それで中身をほとんど根こそぎ奪われた城を、俺はまた全部砂に変えて帰ったんだ。
この『砂化』の魔法もマジ便利だよなあ。
まあこれで当面ノーブ王国も侵略戦争は出来んだろ……
2カ月後ぐらいに城に辿りつくだろうノーブ王も、さぞかしびっくりしてくれることだろうな。
くくくっ。
あ、そうだ、その様子も録画して特別番組にするか……
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