上 下
2 / 21

第2話 マラソン大会

しおりを挟む
 マラソン大会当日。
 一年生男子はスタート位置についてください、と放送が流れた。
 奏汰と祐羽も位置につく。
 走る順番は、男子の次に女子だ。
 男子は三キロ、女子は二キロ。校門を出て学校の周辺をぐるっと回り、学校に戻ってきたグラウンドがゴール地点となっている。

「祐羽、調子はどう?」

「ん、まぁまぁかな~」

「祐羽には、負けたくないな」

「俺も、奏汰には負けてられないな」

 と、会話を交わす。良きライバル同士だ。
 もうすぐスタートの合図がなる。


「一年生男子、よーい、パンッ」

 ピストルの音を合図に少年たちは勢いよく飛び出していく。奏汰も祐羽も運動はできる方なので先頭集団で走る。

「奏くーん、祐羽くーんがんばれー!!」

 冬菜がぴょんぴょん飛び跳ねながら、声援を送る。その声を聞いた奏汰はやる気MAXだ。

「奏汰も、祐羽も、ファイトー!!!」

 美鈴も負けじと声援を送る。
 学校から走っている人の姿は見えなくなっていった。




 距離も中盤にさしかかった頃、奏汰と祐羽は並んで走っていた。曲がり角にさしかかったときに祐羽がスピードをあげ奏汰を追い抜く。大きな物音がした。奏汰は驚き急いで祐羽のもとに駆けつける。

「祐羽?!!!?」

 祐羽は、走ってきた自転車と衝突し、頭を打ったのか意識がない。奏汰は祐羽をおぶった。
 奏汰は急いで自転車の人の連絡先を聞き、すぐさま学校に向かった。

「死んではないか……世話の焼けるやつだ。」

 と、奏汰はつぶやいた。祐羽は奏汰より少し背が高くおぶって歩くのは、結構しんどかった。が、そんなことを言っている場合ではない。学校に戻ると冬菜と美鈴が驚いた顔をして走ってくる。

「わ、私保健の先生呼んでくる!」

 冬菜が走って保健の先生を呼びに行った。

「いったいどうしたの?」

「自転車とぶつかって、倒れたんだ」

 美鈴が青い顔をする。
 もうすぐ、1年生女子のスタート時間も近い。

「私、走らないで祐羽が目を覚ますか見てる」

 と、美鈴が言う。

「ダメだ、走らなかったら、ペナルティだぞ。あとあと大変なことになる。俺が見てるから大丈夫」

 と、奏汰は冬菜に目線で一緒にスタート位置に行けと目配せする。

「行こう、みずちゃん」

 冬菜に手を引かれしぶしぶ、保健室を去っていった。

「1年生女子、スタート位置についてください。」

 こうなったら、さっさとゴールして祐羽のところに行こうと思う美鈴。隣で見てた冬菜にもそのやる気が伝わってきた。

「1年生女子、よーい、パンッ」

ピストルの合図で、飛び出していく。冬菜は転ばないように転ばないようにと思いながら、精一杯走った。






 美鈴は、一番乗りで学校に戻ってきた。そして、フラフラになった足を懸命に持ち上げながら保健室に駆け込んだ。

「奏汰、祐羽は?!」

「まだ、目は覚まさないけど、大丈夫だろうって、先生が」

「そう……ならよかった」

「美鈴、ちょっと祐羽のこと頼んだ」

 気を利かせ、奏汰が保健室を出て行った。
 眠っている祐羽と二人きりになった美鈴。胸がドキドキすると同時に心配で胸が弾けそうになる。



 祐羽は悪夢を見ているのか、うなされているように見える。



「……あ、すか……」

(あすかって誰?彼女?好きな人?誰誰誰誰誰??)
 
 苦しそうな顔をしてつぶやく祐羽を見ながら、美鈴は "あすか" が何のことなのか、気になって仕方がない。祐羽とは中学が違う。思えば、祐羽は自分のことを話さない。特に中学の話はしたことがない。


 冬菜もゴールして、冬菜と奏汰が保健室に戻ってきた。

「祐羽!?!!」

 三人同時に声を上げる。祐羽が目を覚ました。

「あれ」

「お前、自転車とぶつかったろ?それで......」

「あぁ、悪りぃ迷惑かけた」

 と言って祐羽が笑顔を作った。冬菜と、奏汰もひとまずホッとして喜んだ。
 ただ美鈴だけが、晴れない表情をしていた。











しおりを挟む

処理中です...