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第6話 恋の悩み

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 今朝、奏汰は冬菜のおでこに手を当てたとたん振り払われたショックで一日中ぼーっとしていた。
 冬菜とは一言も話せずに過ぎた。その日の放課後。


「桐乃くん、これ先生から頼まれたやつ、はい」

 クラスの女子が先生からもらった書類を持ってきた。笑顔でお礼を言い受け取る。

「なんか、桐乃くんいつもの元気なさそうに見える。」

「え、そうかな~。何ともないと思うけど」

 図星をつかれ、返す言葉もなく笑顔でごまかす。

「そう、ならいいけど。じゃあね桐乃くんまたね」

「おう、また」

 奏汰は手を振ってクラスの女子を見送る。気のせいかもしれないが後ろの方から冬菜の視線がずっとこっちを向いていたような気がした。奏汰は冬菜の方は見れずに教室を出た。教室の前で大きなため息をついていると祐羽が歩いてくる。

「どうした、奏汰。元気なさそうだな」

「ちょっといろいろな~」

「カバンとってくるから待ってて」

 そのまま2人は帰り道にバーガーショップへ行き、奏汰は今朝の出来事を祐羽に話した。

「へー、冬ちゃんがね~。奏汰のこと好きになっちゃったとか?」

「い、いまさらそんなことあるか?」

 奏汰は冬菜が自分のことを好きだなんて考えはしたことがなかった。

「ないかね~。冬ちゃんも大人になってるってことじゃん」

「俺のこと好きだったら、それはそれは素晴らしく嬉しいけど、そうじゃなかったら」

 奏汰は、ハァっと大きなため息をつき、頭を抱える。

「俺以外の男好きになったり、俺のこと嫌いになったらしてたら本当にどうしよう。祐羽」

「祐羽って言われても、冬ちゃんに聞いてみるしかないかもね。電話でもしたら?朝はごめんって」

「……そうするか」

 祐羽は、憔悴しょうすいしきった奏汰を励ましながら「じゃあな」といって奏汰と別れた。



*****

 奏汰は家に帰り、スマホを握りしめて冬菜に電話をすることをためらっていた。15分くらい経っただろうか、震える指で画面をタッチした。画面に通話画面が出て慌ててスマホを耳に当てる。
 心臓の音がどんどん大きくなっていく。

「……もしもし?奏くん?」

 冬菜の声を聞いて、一瞬呼吸が止まった。大きく息を吐いて落ち着いて答える。

「あのさ、朝のことごめんな」

「だ、大丈夫だよ!わ、私こそいきなり手叩いちゃったりしてごめん」

 冬菜も朝のことを気にしてるのか、少しぎこちなく話している。

「……冬菜怒ってない?」

「怒ってないよ!怒ってない!!」

「そう……よかった」

 奏汰は安心して、今まで緊張していた体の力が一気に抜けるような気がした。

「じゃあ、いきなり電話かけてごめん。また明日学校で」

「……あのさ、奏くん……」

「ん?」

「……やっぱり、なんでもない!!うん、また明日ね!!」



 冬菜が何かを言いかけたのがすごく気になったが、冬菜が話し終えたら電話をすぐに切ってしまったので聞き返すことは出来なかった。とりあえず、奏汰はホッとした。でもやっぱり冬菜の様子が少し変なことが気になった。十年近く冬菜と一緒にいる奏汰だったが、今までこんな冬菜は見たことがなかった。
 二人とも大人になった。


「ずっとこのままって訳にはいかないかぁ。一年生の間で絶対に告白しよう」

 いつ冬菜が誰かを好きになるか分からないと思った奏汰は、ちゃんと告白して気持ちを伝えようと思った。今までは、告白したら冬菜を困らせるかもしれないと思って逃げてきた。奏汰はもう逃げないと心に決めた。


*****

 一方、美鈴も恋のことで悩んでいた。ベットてゴロゴロしながら考える。

「あすかって誰なんだろ……マラソン大会の時から聞こうと思ってるけど、なかなか言い出せない……」

 祐羽がマラソン大会の時にうなされている顔を思い出す。もしかしたらそのことで祐羽は1人悩んでいるかもしれない。でもそれは彼女なのかもしれない。考えれば考えるほど都合の悪い考えが頭をよぎる。

「よし、近いうちに話してみよう」

 美鈴も冬菜を見習って前に進まないといけない、と思った。

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