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第8話 漆黒のクリスマス

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 奏汰が教室の扉を開けると、そこには祐羽が教室の隅の席で息を押し殺しながら泣いていた。奏汰はいつも笑顔でニコニコしている祐羽の泣いている顔など高校に入学して以来見たことがない。奏汰は祐羽があまりに辛く、苦しそうに泣いている様子を見てかける声が見つからなかった。
 奏汰は少しずつ祐羽のいる方へ近づく。祐羽は奏汰が教室に入ってきたことには気づいていなかった。

「祐羽……」

 祐羽は名前を呼ばれ、涙でぐちゃぐちゃな顔を上げた。

「祐羽……話してくれ。いったい何があった」

 祐羽はまたうつむく。奏汰もどうしていいかわからず、とりあえず前の席に腰掛けた。

「祐羽……話してくれないのか?理由もなく学校なんかで泣かないだろ」

 祐羽はうつむいたまま、力のこもっていない情けない声で答えた。

「美鈴に酷いこと言った……最悪だ俺」

「何が原因でそんな話になった?」

 祐羽は何かを言おうとしたが口ごもってしまった。

「お願いだ……俺の前なんかでカッコつけなくてもいい。お前のそんな顔初めて見て嫌だなって思った。笑っていてほしいって。だから話せ……祐羽」

 祐羽は少し躊躇ちゅうちょしたが、今にも消えてしまいそうな弱々しい声で過去を振り返り始めた。





『 これは去年のクリスマスの数日前の出来事。

 中学三年生の祐羽は受験シーズン真っ只中。祐羽には付き合っている彼女がいた。初めて彼女と過ごすクリスマスを会わずに過ごしたくなかった。

「あすか、クリスマスの日塾あるから終わってから少しどっかいかない?」

「いいよ、私も塾だから。どこ行こっか」

 2人で過ごす初めてのクリスマスのワクワクしながら計画を立てた。夕方からしか会えないので長い時間は会えないのが少し残念だった。

「じゃあ、駅前の公園の入り口んところに6時半な!」

「分かった。じゃあ祐羽またクリスマスにね!遅れないように!」

「あすかこそ遅れんなよ!じゃあな」

 と言って、クリスマスを楽しみにしながら2人は別れた。



 クリスマス当日、今の時間は6時20分。塾の終了予定時刻は6時のはずなのに、20分もこしていた。授業が終わった瞬間、塾を飛び出して駅前公園に向かった。遅れてはいけないと思い、すれ違う人々を華麗にかわし公園まで突っ走っていった。
 大きい交差点まで行くと、向こうに公園の前で祐羽を待っているあすかが立っていた。間に合うとホッとしたその瞬間。
 祐羽は自分の見ている光景を疑った。凄まじく大きな音とともにトラックが公園の入り口へ突っ込んだ。祐羽は時間が止まったかのようにその場から一歩も動けなかった。周りの人が一斉に倒れたトラックの近くに寄っていく、公園の周り一帯がサイレンの音に包まれた。

「あす……か」

 祐羽はやっと状況を理解した。目の前で祐羽の彼女は突っ込んだトラックに巻き込まれた。とっさに走り出す。担架に乗せられ、運ばれるあすかの元に行き叫んだ。

「あすか、あすか!!おい!あすか!俺だ!ごめん!ごめん……」

 それを見た救急隊員が祐羽に声をかける。

「この子の知り合いか?」

「そうです。俺もついていっていいですか」

「ああ、いいよ」

 祐羽も救急車に乗り込む。かろうじて息はしているが目を覚まさないあすかの手を握りしめ祈りながら病院へ向かった。


 病院へ着くと、あすかはいろいろな機械に繋がれていた。祐羽はあすかの手をずっと握りしめ離さなかった。


「……ゆうは」

 あすかが目を覚まし、手を握る祐羽の名前を呼んだ。祐羽は泣きそうになる涙を堪えて答える。

「ごめん、あすか!あすか……俺のせい」

「祐羽のせいじゃない」

「ごめん……俺がもっと早く」

「大丈夫、祐羽はちゃんと来てくれた。クリスマス……ごめんね、ありがとう。私の分まで幸せに生きてね……祐羽」

 あすかは、笑顔で祐羽に語りかけた。そしてゆっくり目を閉じた。あすかは15年という短い生涯に幕を閉じた。祐羽はそのままあすかの手を握りしめながら泣き崩れた。』



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