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最終話 初めてのデート

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 晴れて付き合うことのできた4人は、付き合ってから初めてのダブルデートに出かけることとなった。今まで4人で遊んだり出かけたりすることはよくあったが、カップルとしてデートするのは初めてのため全員今までにないほど緊張をしていた。
 冬菜と美鈴は、1人でいると緊張でどうにかなってしまいそうだったため前日から美鈴の家でお泊まりをしていた。しかし、冬菜はぐっすり眠っていたが美鈴はあまりよく眠れてはいないまま朝を迎えた。

「冬菜~!おきて~!!」
 美鈴はぐっすり寝ていて起きる気配がしない冬菜をガシガシと揺する。冬菜は幸せそうな顔をして眠っている。呆れた美鈴は思いっきり布団を剥ぎ取る。いきなり冷たい空気に晒された冬菜は、びっくりして飛び起きる。目の前には、疲れた顔をした美鈴が立っていた。
「みずちゃん……お、おはよ……」
 冬菜は布団の上に正座をして恐る恐る美鈴を見上げる。美鈴は、大きくため息をついた。
「早く支度しないと遅れちゃうからね!!」
 と、言うと冬菜は短く大きな声で返事をし急いで朝支度を始めた。2人は今日のために買った新しい服を着て、お互いにいつもしないようなヘアアレンジをして、最近練習をし始めたばかりの慣れないメイクもして気合十分で家を飛び出した。

 その頃、奏汰は遅れるまいと早く家をでてしまい集合時間の45分前に到着していた。早くきすぎてしまったため寒空の下1人携帯をいじっていると、1人よく知っている人物が歩いて着た。
「おはよう奏汰。早いな」
 目の前に現れたのは、相変わらずチャラチャラした格好の祐羽であった。
「おはよ祐羽。お前こそお早いご到着で」
 お互い早く到着しすぎてしまったことがバレたため少し気恥ずかしくなった。そうこうしているうちに集合時刻となり冬菜と美鈴も到着した。奏汰と祐羽はおめかしをした自分の彼女が思いの外可愛くて可愛くて固まっていた。
「お、お待たせ……」
 美鈴が少し照れ臭そうに呟く。祐羽はいつものようなおちゃらけた様子はなく美鈴に見とれていた。
「お、おう、お、おはよう。じゃ、い、行こっか」
 顔面真っ赤にして歯切れのない返事で答え、すぐに後ろにクルッと向きを変え1人スタスタと歩き始めてしまった。そのあとに続いて残りの3人も歩き出した。

 4人は数時間電車に揺られ遊園地に到着した。冬菜は着いて早々駆け出し目をキラキラと輝かせはしゃいでいた。
「奏くーん!みんなー!!早くー!」
 冬菜は高く手を挙げブンブンと振っている。奏汰は嬉しそうなため息をついて冬菜の方へ走り出した。それをみた美鈴と祐羽も顔を見合わせ、追いかける。
 遊園地に入りすぐ、おみやげ屋さんでカチューシャや帽子を買おうとしていた。
「ねえ、見て見て奏くん!どお似合う?」
 冬菜はウサギの耳のカチューシャカチューシャをつけて満面の笑みで奏汰を覗き込む。奏汰はうさ耳をつけた冬菜が可愛くて顔を赤くし、後ずさりしながら目線を少しそらした。
「に、似合ってるよ……か、かわ……いい……よ」
 と、奏汰が小さい声で言うと冬菜も急に恥ずかしくなって顔を真っ赤にし咄嗟に後ろを向いた。
「じゃ、じゃあ……これにしようかな…...買ってくる!!」
 冬菜は照れて真っ赤な顔を奏汰に見られたくなくて、レジに向かって走り出した。奏汰は、真っ赤に染めた顔を両手で覆いながら大きく息を吐いた。
「はあ~あれは......やばいよ」
「やばいねー奏汰くん。冬ちゃんが可愛すぎて悶えてるのー?」
 祐羽が茶化すように後ろから声をかける。
「お前に言われたくねーよ!」
 奏汰はそういいながら、祐羽の肩に手を回しグッと押さえ込んだ。それを美鈴がやれやれと呆れた様子で見守っていた。

 無事カチューシャを手に入れ、乗り物もいくつかのり遊園地を満喫した。4人は少し休憩をしようとしていた。
「私何か買ってくるよ!」
 と、冬菜が言い出しスタスタと歩き出した。
「あ、おい。冬菜1人は心配だから俺も行ってくるわ」
 と、奏汰も後を追いかける。突然美鈴と祐羽は2人きりになってしまい少し照れくさくなる。
「そ、奏汰、あれじゃあ冬菜の保護者だね」
 美鈴が何か話さなきゃと慌てて話し始める。祐羽は、少し思いつめた表情をして何か決心したような様子で美鈴をじっと見た。
「よし、別行動だ」
 と、いきなり美鈴の手を引っ張り歩き始めた。美鈴は状況が理解できずただただ祐羽に引っ張られていた。少し歩くと祐羽は歩くのをやめた。
「いきなりどうしたの、祐羽」
 美鈴は戸惑いながら祐羽に尋ねる。祐羽は、目線をそらし照れ臭そうに答える。
「奏汰たちも2人っきりで回りたいかなーって思って……」
 2人で回りたいと思っているのは祐羽であった。美鈴は2人きりと言う単語に急に恥ずかしくなり顔を赤くした。そして、ずっと手を繋いでいることに気づきとっさに手を離そうとすると祐羽がガシッと美鈴の手を捕まえる。
「手……だめ?」
 祐羽が子供がねだるように言った。
「……ダメじゃない……」
 美鈴もこうして手を繋いでいることは少し恥ずかしかったが、とても幸せな気持ちであった。祐羽は美鈴の手をひき歩き始めた。美鈴も嬉しそうに返事をし手をギュッと握り返した。

ーーーーーーーー
 冬菜と奏汰が元いた場所に戻ると、そこには誰もいなかった。奏汰が携帯を見ると祐羽から「別行動♡」というメッセージが届いていた。
「みずちゃんたちどうしたの?」
 冬菜が首をかしげる。
「祐羽が美鈴と2人きりで回りたいんだって」
 と、奏汰が冬菜に答える。
「あー!!そうだよね!二人とも付き合い始めたばっかだし!!」
 冬菜は、うんうんと1人納得していた。奏汰と冬菜は買ってきた軽食を食べ、元気が有り余る冬菜に引っ張られながら再び乗り物を並びに向かった。 
 元気が有り余る冬菜に振り回され奏汰は疲れ果てていた。そこで、一つの作戦を思いついた。
「冬菜、次これ入ろ」
 奏汰が指をさす先には、いかにも怪しそうな建物であった。冬菜は顔を強張らせ奏汰の方を振り向く。
「奏くん……これは……」
 冬菜は恐る恐る尋ねる。奏汰はニヤッとした顔で答えた。
「お・ば・け・や・し・き」
 冬菜は、絶対入りたくないと奏汰の手を引っ張るが奏汰はビクともしない。
「やだ~!!入らない!!冬なのにお化け屋敷ってもっと寒くなるじゃんか!!」
 冬菜は奏汰に必死に訴える。いつものように奏汰が観念し、一つ提案する。
「じゃあ、じゃんけんで俺が買ったらお化け屋敷に入る。冬菜が買ったら冬菜が行きたいところに行く。で、どう?」
 冬菜はやってやろうじゃないかと気合十分で拳を突き出す。ここまで気合の入ったじゃんけんを遊園地でするカップルは世界中でここにしかいないだろう。
「最初はグー!じゃんけん!」


「やったー!!」
 勝者はいつも通り冬菜であった。奏汰はその場に倒れこむ。冬菜は自慢げな顔で奏汰を見下ろしていた。じゃんけんをして奏汰が冬菜に勝てたのは今までで数えられるほどしかない。冬菜は、意気揚々と奏汰を引っ張って行く先には、大きくそびえ立つ大観覧車があった。奏汰は上を見上げ、青白い顔をする。

「ふ、冬菜……」
 奏汰がか細い声で呼び止める。
「奏くんは私が嫌いなお化け屋敷に入らせようとしたから、奏くんも嫌いな観覧車に乗ってもらうから!」
 冬菜は無邪気な笑顔でドSな発言をした。そうこうしているうちに、奏汰は冬菜に引っ張られ観覧車に連れてこられた。高所恐怖症である奏汰は、なるべく外を見ないように下だけを見つめていた。
「奏くん奏くん、外綺麗だよ!!」
 冬菜に何を言われようが、絶対に外を見ようとはしない。
「ほら、大丈夫だって」
 と、奏汰の隣に座ろうと冬菜が立ち上がると少しの段差に突っかかり冬菜が転びそうになった。すると、怖いのも忘れ咄嗟にに奏汰も立ち上がり受け止める。
「大丈夫か」
 冬菜は奏汰にしがみついているのが恥ずかしくなり、急いで離れるとぐらっと揺れ奏汰が驚く。
「冬菜……じっとしていて……」
 奏汰は冬菜の手を掴み自分の隣に座らせた。そうしているうちに、奏汰は怖さなんて忘れてしまっていた。
「ご、ごめんね奏くん……」
 冬菜が申し訳なさそうな顔で謝る。その顔を見て咄嗟に奏汰は冬菜を抱きしめる。
「え!?奏くん?」
 冬菜が驚いた声で答える。
「ごめん、少しだけ。今日ずっとこうしたかった」
 冬菜は恥ずかしくなって奏汰の服をぎゅっと握る。奏汰は少ししてから腕を緩めた。
「冬菜、これからもこうやっていろんなところに行こうな」
 冬菜は嬉しくなって、奏汰に抱きつく。
「うん!もちろん!!」

 観覧車が一周し、外に出ると祐羽と美鈴が待っていた。奏汰と冬菜は手を繋いで降りてくる。すっかり暗くなった冬の街を歩く。冷たい北風に吹かれながらも、4人の心はポカポカに温まっていた。


 高校生初めての冬に始まったこの恋は、これから春を迎えようとしていた。

 
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