偽神に反逆する者達

猫野 にくきゅう

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渡り鳥と竜使い

第5話 気まずい沈黙

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 魔法の実技訓練。
 僕は高位貴族の子息と、模擬戦をすることになった。

 結果は、僕の負けである。
 僕の魔力は、もう残り少ない。

 魔力切れを申告して、敗北を申し出た。




 しかし――
 マルスクは模擬戦を止めない。

 魔法の杖に、魔力を込める。
 高威力の魔法で、僕を殺すつもりの様だ。






 巨大な水球が、マルスクの杖の先端に現れる。

 僕は咄嗟に、この状況の打開策を実行する。

 自分と相手との直線上の空間に――
 残り少ない魔力で、魔法陣を描き出す。



 魔法陣の形は暗記している。

 僕の頭の中のイメージを、そのまま具現化させた。




 これまでの攻防から、マルスクは変化球を撃てないことは分かっている。

 魔法の形状も、単純に巨大な水球を作るだけ――
 その後は、作り上げた水球を、真っすぐに撃ち出してくる。

 複雑な形状変化や、軌道操作は出来ない。




 僕がなけなしの魔力で、空中に描いた魔法陣は全部で三つ。 

 何とか間に合った。

 今日の午前中の授業で習ったばかりの魔法陣――
 ぶっつけ本番だし、どれだけ効果があるか分からないが……。

 やるしかなかった。



 マルスクが水球を放つ――

 どぉぉおおおおお!!!!!!



 その攻撃は、僕の描いた魔法陣を通過するたびに――


 ドシュ!! ドシュ! ドシュ……。

 その体積と、威力を減衰させていく――
 





 僕が空中に展開した魔法陣には、水を分解して魔力へと変換する術式が描かれている。


 マルスクの水魔法は分解されて、徐々に小さくなっていく。

 
 僕の元に到達する頃には――
 初級の水魔法くらいになっていた。

 それでも直撃すれば、かなりのダメージを負う。





 僕は装備しているマントで、相手の攻撃を受けた。
 このマントには、衝撃や斬撃を軽減する魔法陣が組み込まれている。


 気休め程度の効果しかないが、無いよりはマシだ。



 魔法陣が役に立った。

 相手の攻撃を、なんとか防ぎ切ることが出来た。
 最後に僕の側に、魔力を吸収する魔法陣を描き出す。

 周囲の空間から、魔力を引き寄せる。


 敵の魔法攻撃を分解したばかりだ。
 なんとか、初級魔法一撃分の魔力が集まった。

  
 魔法陣で引き寄せた魔力を、魔石に集める。

 僕は杖を構えて、魔法を放つ。





「ウィンド――!」

 魔石に溜まった魔力で、風魔法が発動する。


 ヒュオ……!!

 ゴッ!!


「ぐわぁぁあああああ!!!」

 ドスッ!!

 僕の風魔法がマルスクの顔面に直撃した。
 彼は後ろに倒れ込むように、足をもつれさせる。

 バランスを崩した彼は、そのまま尻もちを搗いて倒れた。



 …………。

「そ、それまでっぇえ!!」

 監督役の教師が今になって、慌てて模擬戦を終了させた。

 終わったか――
 僕はそう思い安堵して緊張を解く……。

「ふぅ……」


 しかし――

 まだ一連のこの事態は、終わってはいなかった。





「くっ……、ふざけるなよ!! 何だ今の手品は――姑息な真似をしやがって、やはり、お前のような卑怯な奴が、シャリーシャ嬢にしつこく纏わりついているのは捨て置けぬ!! ――しっかりと、この僕が『教育』してやる……」

 マルスクはそう言いながら立ち上がると、ゆっくりと僕の方に歩いてくる。


 怒りが限界を通り越したのか、完全に目が据わっている。

「フーッ! フーッ!!」

 無敵の人になりかけている。

 待ってくれ!!
 君には地位も名誉も、才能だってあるじゃないか……。






 マズいな――
 なんか、色々とマズい。

 どうやらマルスクの狙いは、シャリーシャと仲の良い僕を、痛めつけることにあったようだ。


 僕にとって彼の言動は理不尽なものだが、解らなくはない。

 マルスクは、この国の上級貴族だ。
 親からシャリーシャとの仲を深めるように、言われていたのかもしれない。



 シャリーシャは、貴重な竜使いだ。

 ――どの国も欲しがる。
 婚姻によって取り込もうとする勢力にとって、僕は邪魔だろう。

 実力で排除しようとした訳だ。



 
 それにメンツの問題もある。
 先程の模擬戦の最後の一撃は、撃たないほうが良かった。

 それまでの魔法の応酬の流れで、つい魔法を撃ってしまった。
 それでマルスクを転ばせた。


 ただでさえ、初級と中級の戦いだ。
 中級が勝って当たり前と思われている。

 初級と中級の間には、明確な実力差があるのだから当然だ。


 僕が公衆の面前で勝ってしまっては、マルスクも引っ込みがつかなくなる。

 彼のプライドはズタボロだ。




 模擬戦で恥をかかされて、実力差を覆され――

 頭に血が上ったマルスクは、僕を殺す気でいる。




 マルスクは、歩いて距離を詰めてくる。

 マズい。



 距離を詰められると、先ほどのように相手の魔法を減衰させる手は通じなくなる。

 百メートルの距離を取って魔法を撃ち合う場合、撃ってから相手に届くまで約三秒ほどの時間がかかる。

 その猶予でこちらも、ある程度の対処は可能だ。

 魔法の威力も、距離が開くほど軽減される。
 だが、距離が近くなると、そのどちらも期待できなくなる。


 百メートル離れた位置から放たれる中級魔法は、その対処を誤れば死ぬこともある。……良くて大怪我だ。

 至近距離から中級魔法を撃たれれば、対処も出来ずに確実に死ぬ――





 僕も下級とはいえ、一応は貴族だ。

 マルスクが上級貴族だからといって、こんな衆人環視の中で意図的に殺害すれば只では済まない。確実に重大な外交問題に発展するだろう。

 上級貴族といっても、やりたい放題出来る訳ではない。


 だが――
 マルスクは、殺る気だ。

 手に持った杖の先端の魔石に、魔力を集めている。 
 魔力を使い切ってこれで最後と言っていたが、ブラフだったのだろう。


 人を殺すには十分すぎる、巨大な水球を具現化させている。


 僕はそれを、呆然と見ていた。





 彼の、その後ろを――

 音もなくマルスクの背後に現れた風竜のシャーリと、その背中の上にちょこんと乗っている竜使いのシャリーシャのことを……。


 いつの間に……?
 あの巨体で、音もなく現れた。

 浮遊魔法?
 風は無かったよな、反重力か――?

 竜の卓越した魔法操作を初めて間近で見た。
 感心するしかない。




 マルスクは僕に気を取られていて、シャーリの接近にまったく気が付いていない。

 翼竜のシャーリの牙が、マルスクに迫る。




 シャーリが僕達により接近したことで、太陽の光を遮り影がこの場を覆う。


 僕の唖然とした様子と、急に周囲が陰ったことで異変を察したのか、マルスクが背後を振り返る。



「ヒッ、ひぇっぇぇ!!!!!」


 マルスクは背後にそびえ立つシャーリに驚いて、またしても転んで尻もちを搗く。

 その際、集中が切れたのか水魔法の水球が霧散する。

 
 シャーリは顔をマルスクに近づけると、彼のマントを器用に牙で貫いて、マントごとその体を持ち上げた。そのまま翼を広げて、羽ばたいて飛び上がる。
 


 バサバサ、バサバサッ――


 シャーリとシャリーシャは、マルスクを連れてどこか遠くへと飛んでいった。



 ……。

 …………。
 ……………………。


 訓練場に、気まずい沈黙が流れる。

 誰一人言葉を発しないまま、この日の訓練はそのまま解散になった。


 それぞれ自分の部屋へと帰っていく。

 僕も部屋へと戻り、今日の分の授業内容の復習をする。

 夕食の時間に、食堂へ行ってご飯を食べる。
 部屋に戻って寝た。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 なんか喧嘩してたから、止めに入った。
 
 とりあえず、引き離そう。


 ライルじゃない方を運んで、遠くに持って行く。
 
 
 山の中に置いて、部屋に戻る。
 これで解決だ。
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