3 / 5
第3話 我々はあなたを歓迎します。――いえ、結構です。
しおりを挟む
視界を遮っていた麻袋が、ガバッと取り払われた。
「うっ! くっ、目がぁ……!」
私は思わず両手で顔を覆った。
涙ぐむ目を開けると、そこには想像を絶する光景が広がっていた。
金色だ。
目に映る全てが、金だった。
それは言い過ぎではあるが、装飾品には金がこれでもかと使用されていた。
「どうです、リリアンヌ嬢! 我が国は豊かでしょう!」
隣でタマキン王子が胸を張る。
(豊かというか、凄い悪趣味……)
私が書いた設定では、確か『チン=ポコリン王国は、大陸一金持ちの国である』だったか。それが実体化するとこうなるらしい。
(じゃあ、私のせい――? いえ、これは、この国の連中の美的センスの問題よ)
実写化の失敗に対して、原作者の私には何の責任もない。
**
「おお、この愛らしい娘がリリアンヌ嬢か!」
「まあ、なんて可愛らしい子かしら」
目の前の玉座――
これまた金ピカの椅子に、王と王妃が座っていた。
「デス=ロード王国の王子は、見る目がないわ」
「うむ。リリアンヌ嬢は、我が国にこそふさわしい! この城に負けぬ美貌だ!」
二人は手放しで私を歓迎している。
私には二人の賛辞が「もう、逃げられないぞ」という強迫に聞こえた。外堀だけでなく、内堀まで一瞬で埋め立てられていく。
私の精神的ダメージをよそに、話はトントン拍子に進んでいった。
「さあ、リリアンヌ! 善は急げと言います。明日、結婚式を挙げましょう!」
タマキン王子が、窓の外をビシッと指さす。
そこには、城の敷地内に建つ巨大な神殿があった。言うまでもなく、屋根から壁まで純金製の、太陽光を乱反射する迷惑千万なチャペルだ。
「明日……!? いくらなんでも早すぎます!」
「愛に時間は関係ありません。それに、もう招待状は鳩で飛ばしました」
「仕事が早すぎる!」
「安心してください。式に必要なものは全て用意させる。御用商人を呼んでありますから、好きなドレスを選んでください」
タマキンは満面の笑みだ。
私は深呼吸をした。
このまま流されてはならない。明日結婚式ということは、タイムリミットは今夜しかないということだ。
(こうなったら、それまでに逃げるしかない)
だが、どうやって?
ここは敵地のど真ん中。
窓から下を覗けば、金色の鎧を着た衛兵たちが厳重に警備をしている。シーツを繋いで降りる? 漫画やアニメじゃないんだから、出来るわけない。ムリムリ、絶対無理! 正面突破なんて論外。
だったら――
まずは、敵を油断させるしかない。
私は鏡に映る自分を見た。
悪役令嬢の分際で、顔はいい。切れ長の瞳に、艶やかな黒色の髪。男の庇護欲を刺激する可愛らしい顔だ。この手持ちの武器を利用するしかない。
私はタマキン王子の元へ歩み寄ると、上目遣いで潤んだ瞳を向けた。
小首をかしげ、甘ったるい声を作る。
「タマキン様……」
「なんでしょう。私の可憐な乙女よ!」
王子は自信満々に応じる。
「結婚の前に、一つだけ、お願いがございます」
「なんでも言ってください、私のリリアンヌ!」
「私は死ぬほど贅沢がしたいので、お金を下さい」
「なんだ、そんなことか! よかろう。これで好きなものを、好きなだけ買うがいい!」
タマキン王子は懐から、眩いばかりのプラチナカードを取り出し、私に手渡した。
「わーい」
(やったわ。財布をゲットよ)
私はそれを受け取ると、あてがわれた部屋へと下がった。
すぐに御用商人が部屋に現れる。揉み手をしながら現れたのは、いかにも怪しげな目をした男だった。
「ぐへへ、お待ちしておりました。王室御用達商人、ゼニゲバ・ハラグロイと申します」
名前がストレートすぎる。
こんなキャラは作っていないので、このふざけた世界が作り出した産物だろう。
「これから式用のドレスをお選びで? 最高級のシルクに、ダイヤモンドを散りばめた……」
「いいえ」
私はプラチナカードを指に挟んで提示した。
「ドレスはいらないわ。今すぐ、式場を木っ端みじんに破壊できるだけの爆弾を用意なさい。それと、足の速い馬を一頭」
正気を疑われるような注文をしたが、ゼニゲバは金さえ払えば忠実だった。
「承知いたしました。最高の商品をご用意いたします」
何事も金次第――
この商人は、ある意味で信頼がおけた。
***
数時間後。
日は落ち、夜が訪れた。
私は「式の前に身を清めたい」と言って神殿の人払いを済ませ、一人きりでチャペルの中にいた。
祭壇の裏、柱の陰、パイプオルガンの下。
購入した魔導爆弾は、要所要所に設置済みだ。
(これで、いいでしょう)
作業を終え、私は神殿のテラスに出た。
そこからは、ライトアップされた王城が一望できた。 闇夜に浮かび上がる金色の城。改めて見ると、その形状は異様だった。
中央にそそり立つ太く長い塔。
そしてその左右の根元に配置された、二つの巨大なドーム状の別館。
(この城の設計者は、何を考えてあのような造形に……??)
まあ、いい。
この景色とも、今日でおさらばだ。
私は手元の導火線を掴んだ。
長く伸ばした導火線は、神殿内部の爆弾へと繋がっている。
「さようなら、タマキン王子……」
私はマッチを擦った。
小さな炎がシュボッと音を立てて生まれる。
有り余る財力で、華々しく散るがいい。
「この爆発で、私は自由になる!」
炎が導火線に口づけをした。
ジジジ、という音と共に、火花が導火線を走り出した。
「うっ! くっ、目がぁ……!」
私は思わず両手で顔を覆った。
涙ぐむ目を開けると、そこには想像を絶する光景が広がっていた。
金色だ。
目に映る全てが、金だった。
それは言い過ぎではあるが、装飾品には金がこれでもかと使用されていた。
「どうです、リリアンヌ嬢! 我が国は豊かでしょう!」
隣でタマキン王子が胸を張る。
(豊かというか、凄い悪趣味……)
私が書いた設定では、確か『チン=ポコリン王国は、大陸一金持ちの国である』だったか。それが実体化するとこうなるらしい。
(じゃあ、私のせい――? いえ、これは、この国の連中の美的センスの問題よ)
実写化の失敗に対して、原作者の私には何の責任もない。
**
「おお、この愛らしい娘がリリアンヌ嬢か!」
「まあ、なんて可愛らしい子かしら」
目の前の玉座――
これまた金ピカの椅子に、王と王妃が座っていた。
「デス=ロード王国の王子は、見る目がないわ」
「うむ。リリアンヌ嬢は、我が国にこそふさわしい! この城に負けぬ美貌だ!」
二人は手放しで私を歓迎している。
私には二人の賛辞が「もう、逃げられないぞ」という強迫に聞こえた。外堀だけでなく、内堀まで一瞬で埋め立てられていく。
私の精神的ダメージをよそに、話はトントン拍子に進んでいった。
「さあ、リリアンヌ! 善は急げと言います。明日、結婚式を挙げましょう!」
タマキン王子が、窓の外をビシッと指さす。
そこには、城の敷地内に建つ巨大な神殿があった。言うまでもなく、屋根から壁まで純金製の、太陽光を乱反射する迷惑千万なチャペルだ。
「明日……!? いくらなんでも早すぎます!」
「愛に時間は関係ありません。それに、もう招待状は鳩で飛ばしました」
「仕事が早すぎる!」
「安心してください。式に必要なものは全て用意させる。御用商人を呼んでありますから、好きなドレスを選んでください」
タマキンは満面の笑みだ。
私は深呼吸をした。
このまま流されてはならない。明日結婚式ということは、タイムリミットは今夜しかないということだ。
(こうなったら、それまでに逃げるしかない)
だが、どうやって?
ここは敵地のど真ん中。
窓から下を覗けば、金色の鎧を着た衛兵たちが厳重に警備をしている。シーツを繋いで降りる? 漫画やアニメじゃないんだから、出来るわけない。ムリムリ、絶対無理! 正面突破なんて論外。
だったら――
まずは、敵を油断させるしかない。
私は鏡に映る自分を見た。
悪役令嬢の分際で、顔はいい。切れ長の瞳に、艶やかな黒色の髪。男の庇護欲を刺激する可愛らしい顔だ。この手持ちの武器を利用するしかない。
私はタマキン王子の元へ歩み寄ると、上目遣いで潤んだ瞳を向けた。
小首をかしげ、甘ったるい声を作る。
「タマキン様……」
「なんでしょう。私の可憐な乙女よ!」
王子は自信満々に応じる。
「結婚の前に、一つだけ、お願いがございます」
「なんでも言ってください、私のリリアンヌ!」
「私は死ぬほど贅沢がしたいので、お金を下さい」
「なんだ、そんなことか! よかろう。これで好きなものを、好きなだけ買うがいい!」
タマキン王子は懐から、眩いばかりのプラチナカードを取り出し、私に手渡した。
「わーい」
(やったわ。財布をゲットよ)
私はそれを受け取ると、あてがわれた部屋へと下がった。
すぐに御用商人が部屋に現れる。揉み手をしながら現れたのは、いかにも怪しげな目をした男だった。
「ぐへへ、お待ちしておりました。王室御用達商人、ゼニゲバ・ハラグロイと申します」
名前がストレートすぎる。
こんなキャラは作っていないので、このふざけた世界が作り出した産物だろう。
「これから式用のドレスをお選びで? 最高級のシルクに、ダイヤモンドを散りばめた……」
「いいえ」
私はプラチナカードを指に挟んで提示した。
「ドレスはいらないわ。今すぐ、式場を木っ端みじんに破壊できるだけの爆弾を用意なさい。それと、足の速い馬を一頭」
正気を疑われるような注文をしたが、ゼニゲバは金さえ払えば忠実だった。
「承知いたしました。最高の商品をご用意いたします」
何事も金次第――
この商人は、ある意味で信頼がおけた。
***
数時間後。
日は落ち、夜が訪れた。
私は「式の前に身を清めたい」と言って神殿の人払いを済ませ、一人きりでチャペルの中にいた。
祭壇の裏、柱の陰、パイプオルガンの下。
購入した魔導爆弾は、要所要所に設置済みだ。
(これで、いいでしょう)
作業を終え、私は神殿のテラスに出た。
そこからは、ライトアップされた王城が一望できた。 闇夜に浮かび上がる金色の城。改めて見ると、その形状は異様だった。
中央にそそり立つ太く長い塔。
そしてその左右の根元に配置された、二つの巨大なドーム状の別館。
(この城の設計者は、何を考えてあのような造形に……??)
まあ、いい。
この景色とも、今日でおさらばだ。
私は手元の導火線を掴んだ。
長く伸ばした導火線は、神殿内部の爆弾へと繋がっている。
「さようなら、タマキン王子……」
私はマッチを擦った。
小さな炎がシュボッと音を立てて生まれる。
有り余る財力で、華々しく散るがいい。
「この爆発で、私は自由になる!」
炎が導火線に口づけをした。
ジジジ、という音と共に、火花が導火線を走り出した。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
この悪役令嬢には悪さは無理です!みんなで保護しましょう!
naturalsoft
恋愛
フレイムハート公爵家令嬢、シオン・クロス・フレイムハートは父に似て目付きが鋭くつり目で、金髪のサラサラヘアーのその見た目は、いかにもプライドの高そうな高飛車な令嬢だが、本当は気が弱く、すぐ涙目でアワアワする令嬢。
そのギャップ萌えでみんなを悶えさせるお話。
シオンの受難は続く。
ちょっと暇潰しに書いたのでサラッと読んで頂ければと思います。
あんまり悪役令嬢は関係ないです。見た目のみ想像して頂けたらと思います。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………
naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話………
でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ?
まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら?
少女はパタンッと本を閉じる。
そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて──
アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな!
くははははっ!!!
静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~
巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!?
////////////////////////////////////////////////////
悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。
しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。
琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇!
※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……?
※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。
※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。
隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。
キモおじさんの正体は…
クラッベ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生し、ヒロインとなったナディア。
彼女はゲーム通りにいかない悪役令嬢のビビアンに濡れ衣を着せ、断罪イベントの発生を成功させる。
その後の悪役令嬢の末路は、ゲーム通りでは気持ち悪いおっさんに売られていくのを知っているナディアは、ざまぁみろと心の中で嘲笑っていた。
だけどこの時、この幸せが終わりを迎えることになるとは、ナディアは思っても見なかったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる