219 / 230
過去と現在
107.ビチクソバチクソオモクソ
しおりを挟む連休から帰ってきて色々耳にしたシェイラにすごくすんごーーーく怒られた。誰が?って、タドットが。
「もう、お掃除の刑は終了?」
「ハイ。今朝早くから隣の私室を片付けて、馬耳を過ぎた頃にやっと解放されました」
僕の持ってきた軽食を、実験室の椅子に腰掛けもそもそと口に運ぶタドットは解放後、心のオアシスである実験室でソファでごろ寝して心身を休めていたそうだ。
綺麗に整えられ過ぎた部屋ではなんだか落ち着かないんだって。
ん?心なしか腹回りが少し痩せたような?
そんなタドットのことはお構いなしにセレは美味しそうに僕の隣でミルクを啜っていた。…こら!こっちに飛ばすな!!
タドットは、連休を取っていて戻ってきたシェイラにバチクソ怒られた。
そこからの見張られながらのお掃除の刑に処されて、しばらくは寮の部屋と城の私室がとても綺麗だったよ。…暫くは、ね。
「じゃ、本日はセレさんを講師にお迎えして、詰め物の香りについての実験をしようか!」
タドットが飲み物で昼食を飲み下しひと心地したのを見計らってシュアクーンは今日の目的を宣言する。
実験室の大きなテーブルの上にはトレネークが事前にセレから聞き取りをしてくれて、既に必要な材料を色々と揃えてくれている。
孤児院でハーブの香りを付けた詰め物をして対エルフ用ガスマスクC-Zを使っていると聞いた僕は、薬草に詳しいセレに臭い消し用のブレンドを考えてもらって、それを乾燥させた物を袋に詰めてハエマスクの口部分に入れることにした。
あ、うん。早い話が匂い袋をこれから作るんだ。
『さあ!このセレちゃんが教えて進ぜよう!!』
種類ごとに皿の上に乗せられた薬草やハーブ、一般には雑草と呼ばれる草花。
セレはそこから器用にクチバシで選んで運んで、乳鉢のでっかい版のボウルのような入れ物に入れていく。
セレの選んだ物には、知っている草花もあったし、知らないのもあった。
因みにセレの話では。
エルフの植物園で見た露草の花粉には消臭効果があるらしく、花が咲いたらそれも入れてみようと思ってる。……露草、異世界で有用植物に進化し過ぎだろ。
セレの選んだ物を元にして、もっと手に入れやすい物に置き換えたりして組み合わせをいくつか変えてみて匂い袋を試作した。
試作するにあたって、外部から空気を取り入れる部分に厚いフィルターを取り付けるだとかマスクの方も少し改良を施した。
「名前を変えるのですか?わざわざ?」
タドットは妙な顔して僕のこと見てるけどさ、だって対エルフ用ガスマスクC-ZのCは匂いをcut!のC。
Zはこれより先はない!と絶対のZ
で、C-Zだったんだ。
ミニグリーンを仕込んだ対エルフ用ガスマスクC-Z、通称ハエマスクとは仕組みは全然ちがうんだよ?
これは仕方ない。そこは新しく変えよう!ってなるよね?ね?ね?
結局、僕は新しいマスクをこう命名した。
shutoutのSと、まだまだ改造が必要、改良の余地があると思うので試作品一号という意味での数字の1を組み合わせてS1と名付けた。
そして“対エルフ用”ではないので、“ガスマスク”ハーエS1。
どうせアンテルーレのように“ハエっぽい”って思うだろうから最初から名前に織り込んでおいた。
どうせタドットも改善課程で記録を取る時には“ハエ-1”とかってメモるんだろうしさ。
タドットの名付けパターンからして、ガスのガとマスクのマでガマ-1とメモられるよりはマシだと思うしかないね!もうね。
「まあ、発案者が名付けをするのは通例でもあるので……しかしもう少し、」
「では、商会ギルドではそのように登録致しましょう」
タドットがまだぶつぶつ言いそうな所をトレネークがぶった斬る。
なんかどうせ良い感じの通称がつくのだから登録名なんて何でもイイとか思ってない?トレネーク??
対エルフ用ガスマスクC-Zの改良版、ガスマスクハーエS1は商会ギルドにはもちろん登録済みで、入ってくるお金はその人と半々の契約にしている。
一旦パピエ商会に使用料が入ってきてそこから半分がその人に支払われる仕組みだ。
モリダルには、急にエルフの里に行くことになったから、物凄く急いで対エルフ用ガスマスクC-Zを作ってもらったからね。その対価も込みでってワケ。
懲罰管理部からの依頼があってこの先ガスマスクハーエS1を作る工房が現れれば、商会にお金が入ってきて、彼の懐も少しは潤うだろう。
……いや、研究に注ぎ込む金が増えるだけかもしんないやっぱり。
「レッド、コレとコレをもう少し乾燥させて」
「グリーン、ちょっと風で匂いをこっちに送ってみて」
「ブルー。少しだけ濡らしてみて。あ、イエローは点滅する必要ないから止めて」
出来上がった試作品をタドットとトレネーク、セレの僕の三人と一羽で薫ってみていた。
と、その時。静かに実験室の扉が開いた。アレ?いつもはタドットが鍵かけてたと思ったんだけど??
「シュアクーン様。おやつをお持ち致しました」
入ってきたのはシェイラ。
シェイラはタドットの部屋の全部の鍵を持っているから納得だ。
食事用のテーブルに持ってきた籠を二つ置きおやつを取り出すシェイラ。
くるんと巻いたプレッツェル
ふわっとした見た目のメレンゲ菓子
糖衣を纏った各種ナッツ類
中に金平糖を閉じ込めたまん丸の飴
続々とテーブルに並べられるお菓子たち。
セレ用の容器にザラザラと小粒なクッキーが注がれるのが、ワンニャンのカリカリフードに見える。
ワゴンの上でお茶の準備を始めたシェイラは、ふと、部屋の奥にある大きくて黒々しい箱を目にとめた。
カップをセットしていた手を止めて箱に向かって歩き出すシェイラ。
「な!?シェイラぁ?その辺のモノを弄るのはやめてくださあーれぇ
!?」
なんか急に焦り出し声が裏返るタドット。
「この箱は?」
シェイラが黒々しい箱を指差す。
「ぉそおれは、魔道具、そお!失敗した魔道具を入れて置いてある魔力遮断の箱だ!!!です!」
わたわたと妙な動き付きで説明するタドットはいかにも何か隠し事してますよ?私。といった体である。
「それでは、この中の不要物も綺麗にしなくてはなりませんね」
シェイラを止めようと動き始めたタドット。しかし悲しいかな彼は運動音痴である。
当人は出来うる限り素早く動いたつもりでも、その緩慢に動く手足ではシェイラの動きは止められない。
ガゴっ、と少し重めの音が室内に響いてシェイラのスラリとした指によって箱の蓋は開けられた。
────そして
箱の中身を凝視したまま。
シェイラは動きを止めてしまった。
────ついでにタドットも足を前に踏み出したまま固まった。
「ぉぉおおおおーーじぃいいいーーさぁああああんーーーー!!」
部屋の中の生き物の目は全部シェイラに釘付けだ。
異変を察知したレッドがタドットの前に飛び出して翼を広げてシェイラと対峙する。
シェイラの目にしたモノ。
それはなんと。
箱の中には隣の私室からコッソリ運び込んでいたゴミがギッシリ。
シェイラから掃除は私室のみと聞いていたタドット。
お掃除の刑の時間短縮を狙い私室から、手当たり次第にゴミを詰め込んだ袋をぽぽいと隣の実験室に放り込んでおいた。
しかし今日の午後、実験室をシュアクーンが使用するとの先触れがきて、見つかって怒られては不味いと取り敢えず押し込んだゴミが発覚。イマココ
「だって!だって!ゴミを減らさないといつまで経ってもお掃除の刑が終わらんじゃないかあああ!!私は実験がしたいんじゃああ!」
タドットの魂からの叫び。
しかし、誤魔化しが発覚した以上シェイラが許すとは思えない。
タドットと仲良しのレッドが必死に立ちはだかってるけど……小さ過ぎて怒髪天をつくシェイラの視界には入らないようだ。
実験が終了し、シュアクーンたちが引き上げた後タドットが。
シェイラからオモックソに叱られたことは言うまでも無い。
ガスマスクハーエS1とそこに詰める匂い袋はその後、正式に懲罰管理部から採用された。
仕事をする業者はハエマスクを。刑罰でやらされる人は洗濯バサミを鼻に挟んで汲み取り(汲み取ってはいない)作業をしている。
勿論、現場を監督する懲罰管理部の職員たちもマスクをして。
そして懲罰管理部ではガスマスクハーエS1のことは、通称ハエスワンと呼ばれるようになったという。
1
あなたにおすすめの小説
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル
異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた
なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった
孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます
さあ、チートの時間だ
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~
渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。
彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。
剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。
アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。
転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった!
剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。
※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる