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プロローグ
第5幕・見知らぬ天井
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「…誰なんですか…あなたは…?」
僕は金髪の男性を見つめたまま、震える声で言った。
外からは鳥の鳴く声が聞こえる。ふとそれに釣られて窓の外に目を向ける。
…そこには、西洋風の石造りの街並み、石畳で舗装された街道、日本人のようには見えない、彫りの深い顔をした数々の一般人の姿があった。
「どっ……何処なんだ、ココは……!?」
…どう見ても中学校の周辺ではない。
それどころか、日本国内なのかすらも怪しい。
「…ココは"サーバリアン王国"の"メガバイト村"。そして私は"戦士"として活動している、"リカブ・イン"という者だ。」
「さ…さーばりあん王国……?」
…何処なんだ…!
地理の授業は真面目に聞いていたはずなのに…全く国名に覚えが無い…!
…というか戦士!?そんな職業が現代に存在するのか…?
…そう内心で頭を抱えていると、"リカブ"と名乗った金髪の男性が再び話し掛けてきた。
「君は昨晩、道端で倒れていたんだ。そこを私が見つけ、保護したのだが……
君が倒れる前、何があったのか聞かせてくれないか?」
…リカブさんを信頼して良いのかは、正直分からない。でも今は、話してみない事には何も始まらないように感じた。
「…分かりました。実は僕――」
・ ・ ・
…こうして、僕は理科部での出来事を包み隠さず話した。
「……成程、気付いたら元居た場所とは全く違う場所に居たと…。」
リカブさんは、僕の話を聞き終えるなり、何かを熟考するかのように腕を組んだ。
「ええ、信じられないかも知れないですが…。」
「いや、信じよう。」
(判断が早い…!)
「…今の話からすると、1つ推論が立つな。君の………そうだ君、名前は?」
リカブさんは腕組みを解いて、僕に問い掛けた。
「ヨシヒコです。」
「ヨコヒシ君の話からすると…」
「いや、ヨコヒシじゃなくて、ヨシ…」
「…君はこの世界の人間ではない…つまり、異世界から来た可能性が高い。」
「……ヒコ…です…………えっ?」
「ここは君が元居た世界とは違う…つまり、君にとって"異世界"である、という事だ。」
…僕の思考はフリーズした。
初っ端から名前を間違われた事に対する言葉は、最早完全に頭から抜け落ちていた。
唐突に飛躍した話に対して半ば混乱しつつも、僕は返す言葉を探し出した。
「い…いきなり異世界って言われても…。そもそも、僕が異世界から来たなんて…どこから判断したんですか…!」
「ふむ…確かに、急に信じろという方が無理な話だ。では、判断した根拠だが……
まず…"日本"という国名を聞くのは初めてだ。君の住む市区町村名や、通う学校はおろか、国名すら、私は聞いた事が無い。」
「そんな…!」
…しかし思い返してみれば、"サーバリアン王国"なんて国も、僕は聞いた事が無かった。
それに、リカブさんが嘘をついているようにも見えない。
何より、僕が旧理科室で最後に見たあの光…あれの説明が全くつかないのだ。
…もしかすると、本当に…。
「…そして2つ目だが、この世界に迷い込んだ人間…"異世界人"は君だけではない。稀有な出来事だが、数件前例があるんだ。」
「…前例?僕と同じ世界から来た人が他にも居るんですか?」
「ああ、そうだ。
そして、その前例には全て共通点がある。…それが君が"異世界人"である事を証明付ける根拠になるだろう。」
「証明する…根拠…。」
僕は息を呑んで、リカブさんの言葉を待った。
「この世界にやってきた異世界人は皆…」
「皆……?」
「その、"I'am異世界人"と書かれたTシャツを着ているんだ!」
リカブさんは、真実に辿り着いた探偵の如く、切り込むように言った。
「………えっ?Tシャツ?」
…僕は若干困惑しつつ、自分が着ている服の裾を引っ張り、凝視した。
…そこには、ライトノベルのタイトルロゴのような丸みを帯びた字体で"I'am異世界人"と書かれていた。
…極めつけには、まるで絵本の挿絵のような木、空、太陽などのイラストまで…。
「うっわ何コレ恥ずかしい!」
…とりあえず、Tシャツに対する僕の第一声はそれだった。
・ ・ ・
日が差す街道。眩く光る白い石畳。
建ち並ぶ西欧風の石造りの家の数々。
行き交うは、見た事の無い社名の車と、見慣れないファッションで着飾った人々…
「どうだ?見覚えはあるか?」
リカブさんは、街並みに目を向けながら僕に問い掛けた。
「いや…全く…。僕の知っている街とは似ても似つかないです…。」
…あの後、僕はリカブさんの提案で街を歩く事になった。
その目的の一つは、僕自身が"異世界に迷い込んだ"という確証を持つためだ。
…正直Tシャツを見た時点では、雑なドッキリか何かじゃないかと思っていたが、最早そんな考えは跡形も無く消え去ってしまった。
「見えてきたぞ、もうすぐだ。」
リカブさんが街道の先を指差して言った。
…僕達が街に出たもう一つの目的…それは、彼が指差す先にある。
・ ・ ・
「僕は…元の世界に帰れるんですか?」
不安を帯びた声で、僕は問い掛けた。
「…言い難いが…」
リカブさんは、若干の間を置いて話し出した。
「…この世界に来た異世界人の数例で、"元の世界に戻れた"という事例は確認されていない。」
…返ってきたのは、絶望的な答えだった。
「そんな…」
「受け入れ難い事だろうが…君はこの世界に定住する覚悟を持たなくてはならないだろう。」
定住…その二文字は、今後僕が土地勘も知識も無い場所で、知人や家族とも会えずに一生暮らしていかざるを得ないという、残酷な運命を示唆していた。
脳裏に次々と顔が浮かぶ。家に帰ればいつも、当たり前のように居た両親の顔、部室に入ると手を振って迎え入れてくれた通谷先輩に班長、そして……
目を向けないようにしていた孤独を前に、目頭が熱くなるのを感じた。
「…あまりに気の毒な事だ。君がこの世界で暮らしていけるよう、私も最大限の助力はする。だから、希望を捨てないでくれ。」
リカブさんは俯く僕に、そっと話しかけた。
「………!」
突如、頭に浮かんだ顔とリンクするように、昨日の記憶がフラッシュバックしてきた。
(「…班長…。この実験、ホントに成功すると思います…?」)
通谷先輩の声が朧気に聞こえてくる。
…そうだ。実験の準備をしている時の事だった。
(「…どうしてそんな事聞くのよ?」)
今度は班長の声だ。
(「だって、次の材料がイチゴジャムと塩コショウ、赤味噌って…明らかにおかしいですよ!料理のレシピじゃあるまいし…」)
…ジャムと味噌はどう考えてもミスマッチだし、料理のレシピかどうかすら怪しい気もするけど…。
(「こんな実験…多分また失敗――」)
(「通谷。怪しむ気持ちも分かるわ。…私だって、成功するか疑わしいと思ってるし…。」)
(「でもね…やる前から希望を捨ててどーすんのよ?」)
……!
…そうだった…。僕を焚き付けたのは…僕があの班を選んだ理由は…
(「この世界にはどんな未知の事象が隠れてるか、誰にも分からないんだし…常識をひっくり返す希望を、信じてみたって…いいでしょ?」)
…あの人がいつも言ってた、あの言葉だったんだ。
「……分かりました。
この世界で生きていく…その覚悟を決めます。
…でも僕は、元の世界に戻る事を諦めません…。僕が世界最初の…"帰還者"になってみせます!」
僕は顔を上げて、力強くそう応えた。
リカブさんは少し驚いた表情を見せるも、その顔はすぐに微笑みに変わった。
「その意気だ、ヨシヒコ君。」
「それで…早速で悪いのだが…。」
リカブさんは一転して、少し申し訳無さそうに話し始めた。
「私はこれから忙しくなる。村を離れて長い間、遠征に行く可能性もある。つまりだな…」
「つまり…?」
「…君を養う余裕が無くなるかもしれない、という事だ。そこで君に、やって欲しい事がある。」
「僕に出来る事だったら、何でもやります!」
覚悟を決めた僕は、意気揚々と応えた。
リカブさんは、ならば良しと呟いて、続けた。
「君にやって欲しい事…それは…」
「それは…?」
「職探しだ!」
「分かりま……えっ?」
「これからハローワークに行くぞ!」
「ええぇぇぇえぇぇえぇ!?」
斜め上の返答への驚きが冷めないまま、僕はリカブさんに連れ出された。
…とりあえず、リカブさんの家の玄関がやたらと広かった事だけは覚えている。
・ ・ ・
…と、言う訳で、僕達はハローワークの前へと辿り着いた。
しがない理科部員の壮大な冒険は、幕を開けたばかりだ。
To Be Continued
僕は金髪の男性を見つめたまま、震える声で言った。
外からは鳥の鳴く声が聞こえる。ふとそれに釣られて窓の外に目を向ける。
…そこには、西洋風の石造りの街並み、石畳で舗装された街道、日本人のようには見えない、彫りの深い顔をした数々の一般人の姿があった。
「どっ……何処なんだ、ココは……!?」
…どう見ても中学校の周辺ではない。
それどころか、日本国内なのかすらも怪しい。
「…ココは"サーバリアン王国"の"メガバイト村"。そして私は"戦士"として活動している、"リカブ・イン"という者だ。」
「さ…さーばりあん王国……?」
…何処なんだ…!
地理の授業は真面目に聞いていたはずなのに…全く国名に覚えが無い…!
…というか戦士!?そんな職業が現代に存在するのか…?
…そう内心で頭を抱えていると、"リカブ"と名乗った金髪の男性が再び話し掛けてきた。
「君は昨晩、道端で倒れていたんだ。そこを私が見つけ、保護したのだが……
君が倒れる前、何があったのか聞かせてくれないか?」
…リカブさんを信頼して良いのかは、正直分からない。でも今は、話してみない事には何も始まらないように感じた。
「…分かりました。実は僕――」
・ ・ ・
…こうして、僕は理科部での出来事を包み隠さず話した。
「……成程、気付いたら元居た場所とは全く違う場所に居たと…。」
リカブさんは、僕の話を聞き終えるなり、何かを熟考するかのように腕を組んだ。
「ええ、信じられないかも知れないですが…。」
「いや、信じよう。」
(判断が早い…!)
「…今の話からすると、1つ推論が立つな。君の………そうだ君、名前は?」
リカブさんは腕組みを解いて、僕に問い掛けた。
「ヨシヒコです。」
「ヨコヒシ君の話からすると…」
「いや、ヨコヒシじゃなくて、ヨシ…」
「…君はこの世界の人間ではない…つまり、異世界から来た可能性が高い。」
「……ヒコ…です…………えっ?」
「ここは君が元居た世界とは違う…つまり、君にとって"異世界"である、という事だ。」
…僕の思考はフリーズした。
初っ端から名前を間違われた事に対する言葉は、最早完全に頭から抜け落ちていた。
唐突に飛躍した話に対して半ば混乱しつつも、僕は返す言葉を探し出した。
「い…いきなり異世界って言われても…。そもそも、僕が異世界から来たなんて…どこから判断したんですか…!」
「ふむ…確かに、急に信じろという方が無理な話だ。では、判断した根拠だが……
まず…"日本"という国名を聞くのは初めてだ。君の住む市区町村名や、通う学校はおろか、国名すら、私は聞いた事が無い。」
「そんな…!」
…しかし思い返してみれば、"サーバリアン王国"なんて国も、僕は聞いた事が無かった。
それに、リカブさんが嘘をついているようにも見えない。
何より、僕が旧理科室で最後に見たあの光…あれの説明が全くつかないのだ。
…もしかすると、本当に…。
「…そして2つ目だが、この世界に迷い込んだ人間…"異世界人"は君だけではない。稀有な出来事だが、数件前例があるんだ。」
「…前例?僕と同じ世界から来た人が他にも居るんですか?」
「ああ、そうだ。
そして、その前例には全て共通点がある。…それが君が"異世界人"である事を証明付ける根拠になるだろう。」
「証明する…根拠…。」
僕は息を呑んで、リカブさんの言葉を待った。
「この世界にやってきた異世界人は皆…」
「皆……?」
「その、"I'am異世界人"と書かれたTシャツを着ているんだ!」
リカブさんは、真実に辿り着いた探偵の如く、切り込むように言った。
「………えっ?Tシャツ?」
…僕は若干困惑しつつ、自分が着ている服の裾を引っ張り、凝視した。
…そこには、ライトノベルのタイトルロゴのような丸みを帯びた字体で"I'am異世界人"と書かれていた。
…極めつけには、まるで絵本の挿絵のような木、空、太陽などのイラストまで…。
「うっわ何コレ恥ずかしい!」
…とりあえず、Tシャツに対する僕の第一声はそれだった。
・ ・ ・
日が差す街道。眩く光る白い石畳。
建ち並ぶ西欧風の石造りの家の数々。
行き交うは、見た事の無い社名の車と、見慣れないファッションで着飾った人々…
「どうだ?見覚えはあるか?」
リカブさんは、街並みに目を向けながら僕に問い掛けた。
「いや…全く…。僕の知っている街とは似ても似つかないです…。」
…あの後、僕はリカブさんの提案で街を歩く事になった。
その目的の一つは、僕自身が"異世界に迷い込んだ"という確証を持つためだ。
…正直Tシャツを見た時点では、雑なドッキリか何かじゃないかと思っていたが、最早そんな考えは跡形も無く消え去ってしまった。
「見えてきたぞ、もうすぐだ。」
リカブさんが街道の先を指差して言った。
…僕達が街に出たもう一つの目的…それは、彼が指差す先にある。
・ ・ ・
「僕は…元の世界に帰れるんですか?」
不安を帯びた声で、僕は問い掛けた。
「…言い難いが…」
リカブさんは、若干の間を置いて話し出した。
「…この世界に来た異世界人の数例で、"元の世界に戻れた"という事例は確認されていない。」
…返ってきたのは、絶望的な答えだった。
「そんな…」
「受け入れ難い事だろうが…君はこの世界に定住する覚悟を持たなくてはならないだろう。」
定住…その二文字は、今後僕が土地勘も知識も無い場所で、知人や家族とも会えずに一生暮らしていかざるを得ないという、残酷な運命を示唆していた。
脳裏に次々と顔が浮かぶ。家に帰ればいつも、当たり前のように居た両親の顔、部室に入ると手を振って迎え入れてくれた通谷先輩に班長、そして……
目を向けないようにしていた孤独を前に、目頭が熱くなるのを感じた。
「…あまりに気の毒な事だ。君がこの世界で暮らしていけるよう、私も最大限の助力はする。だから、希望を捨てないでくれ。」
リカブさんは俯く僕に、そっと話しかけた。
「………!」
突如、頭に浮かんだ顔とリンクするように、昨日の記憶がフラッシュバックしてきた。
(「…班長…。この実験、ホントに成功すると思います…?」)
通谷先輩の声が朧気に聞こえてくる。
…そうだ。実験の準備をしている時の事だった。
(「…どうしてそんな事聞くのよ?」)
今度は班長の声だ。
(「だって、次の材料がイチゴジャムと塩コショウ、赤味噌って…明らかにおかしいですよ!料理のレシピじゃあるまいし…」)
…ジャムと味噌はどう考えてもミスマッチだし、料理のレシピかどうかすら怪しい気もするけど…。
(「こんな実験…多分また失敗――」)
(「通谷。怪しむ気持ちも分かるわ。…私だって、成功するか疑わしいと思ってるし…。」)
(「でもね…やる前から希望を捨ててどーすんのよ?」)
……!
…そうだった…。僕を焚き付けたのは…僕があの班を選んだ理由は…
(「この世界にはどんな未知の事象が隠れてるか、誰にも分からないんだし…常識をひっくり返す希望を、信じてみたって…いいでしょ?」)
…あの人がいつも言ってた、あの言葉だったんだ。
「……分かりました。
この世界で生きていく…その覚悟を決めます。
…でも僕は、元の世界に戻る事を諦めません…。僕が世界最初の…"帰還者"になってみせます!」
僕は顔を上げて、力強くそう応えた。
リカブさんは少し驚いた表情を見せるも、その顔はすぐに微笑みに変わった。
「その意気だ、ヨシヒコ君。」
「それで…早速で悪いのだが…。」
リカブさんは一転して、少し申し訳無さそうに話し始めた。
「私はこれから忙しくなる。村を離れて長い間、遠征に行く可能性もある。つまりだな…」
「つまり…?」
「…君を養う余裕が無くなるかもしれない、という事だ。そこで君に、やって欲しい事がある。」
「僕に出来る事だったら、何でもやります!」
覚悟を決めた僕は、意気揚々と応えた。
リカブさんは、ならば良しと呟いて、続けた。
「君にやって欲しい事…それは…」
「それは…?」
「職探しだ!」
「分かりま……えっ?」
「これからハローワークに行くぞ!」
「ええぇぇぇえぇぇえぇ!?」
斜め上の返答への驚きが冷めないまま、僕はリカブさんに連れ出された。
…とりあえず、リカブさんの家の玄関がやたらと広かった事だけは覚えている。
・ ・ ・
…と、言う訳で、僕達はハローワークの前へと辿り着いた。
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