理科部冒険記 〜実験結果は異世界転移〜

Taku-3

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第1部 理科部冒険記NEXT

第13幕・討伐、そして就職へ

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僕の名はヨシヒコ。
3日前、理科部の好奇心による実験によって異世界に飛ばされてしまった、我ながら可哀想な青年だ。
一昨日、そして昨日の話なのだが、異世界に来たばかりで、家も職も無かった僕はハローワークに行き、施設内の無限回廊を踏破し…

…いや、この話はどうでも良いんだ。
"勇者になり、魔王を討伐した"
これで十分だろう。
…自分でもここに来てからの出来事を正確に説明出来る自信が無いのだ。

「おーい!ヨシヒコ君!」
そう遠くで声を上げているのは、僕の仲間の戦士、"リカブ・イン"さんだ。

異世界に迷い込んだ僕を保護してくれた一方、僕が魔王討伐の旅に出るきっかけを作った人物でもある。

「そろそろ村に帰ろう。もうすぐ日も暮れてしまうし、急がなくては。」

「まあまあリカブさん、どうせすぐに帰れるんですし、そう焦る必要も無いですよ。」

リカブさんを横で宥めている女性は、"9万職員"さん、魔導士だ。"無限回廊"の異名を持つハローワークに勤務しており、僕の"勇者の素質"とやらを見抜いた人物だ。

「さ、乗って下さい。」

そう言って9万職員さんが指差す先には、魔王との戦いで大破したタクシーがあった。

「タクシーを再利用するとは…そのエコロジー精神に感動したよ!9万!」
「いや…徒歩の方が良――」
「乗りたまえヨシヒコ君!そして彼女のエコロジー精神への感動を分かち合おうじゃないか!」

…半ば無理矢理タクシーに引き摺り込まれた。
9万職員さんが音の出なくなったクラクションを殴りつけ、叫ぶ。
「ブッ飛ばして行きますよぉぉぉぉお!!!」
「ひぃぃやァァァァァァアァァァァア!!!」

タクシーは発進した。
悲鳴を置き去りにするように、煙と火花を散らしながらアクセルは踏み込まれていく。

・ ・ ・

「はぁ…」
えげつない速度にも慣れてきた頃、僕は顔を顰めつつ溜息をついた。

「どうしたんだいヨシヒコ君?」
「ん?何か言いましたかリカブさん?」
「済まないヨシヒコ君、走行音がうるさ過ぎて何も…」
「リカブさん、もう少し大きな声で話してもらえますか?」
「勇者様にリカブさん?何の話をしているんですか?」
「え?何だって?なんて言ったんだ9万?」
…というやり取りが砂利道を抜けるまで続いたのはどうでも良いのだけれど…

早い話、今の僕は無職なのだ。
勇者は魔王を倒せばお役御免、高級ニートの爆誕という何とも悲しい現実に、現在進行形で巻き込まれている。

整備された道に入り、走行音も落ち着いてきた。響くのは車体の何処かが壊れる音と、エンジンが炎上する音だけだ。

「成程、職業か…。」
「元の世界に帰れる見通しも立たないですし、何とかして生計を立てていかないと…。」

「元の世界…って勇者様、もしかしてその・・Tシャツの"I'am 異世界人"ってマジのやつなんですか!?」
運転席の9万職員さんは驚いた様子で言った。

「…ああ、言ってませんでしたね。僕、異世界から来たんです。」
「そのTシャツ、何処で売ってたんですか!?いくらでしたか!?」

…この流れで異世界と直接関係の無い質問が飛んでくるとは…。
やはりこの人は、何処かズレている気がする…。

「このTシャツは、気付いたら身に付けていた物らしい。残念ながら、恐らく非売品だ。」
リカブさんは9万職員さんの質問に答える。

「そ…そんなあ…部屋着にしようと思ってたのに…。」
9万職員さんは項垂れて、ハンドルに頭をぶつけながら言った。

「ハッハッハ、私なら外出用にするが――」
「9万職員さん!?前見て!?前見て下さい!」
「えっ?」

直後ガシャン、と音がして、車内に大きな揺れが走った。
フロントガラスを覗くと、車体の左側が樹木にめり込んでいる。

僕が白い目で運転席を見つめると、9万職員さんはハンドルを右に切り、そのままアクセルを踏み込んで、何事も無かったかのように走り出した。

「ふぅ…セーフ!」
「思いっきりアウトですよ!!!」

…寿命が数分縮んだ気がする。
この帰り道は…長く感じそうだ。

・ ・ ・

「話は戻るんですけど、僕はこれから無職って事ですよね…。僕、この世界でやって行けますかね…?」
「その点は心配するな。君が再就職するまで、私も出来る限りのサポートをするつもりだ。私の家にも引き続き住んでいいぞ。」

僕の憂いは、天からの恵みと錯覚してしまいそうなリカブさんの言葉によって全て消し飛んだ。

「た、助かります…ありがとうございます、リカブさん…!」

僕は彼に感謝の言葉を述べた。
一方で、僕は小さな落胆を抱えていた。

「それにしても、魔王討伐に賞金でも付いてれば良かったのに…世界に平和が戻るならそれで良いですけど、タダ働きってのは少し虚しいですね…。」
「まあ…言ってしまえば勇者は"平和の奴隷"みたいな物だ。誰かの無償の勇気によって、世界は救われる。君が成し遂げた事は誇るべき行いだよ。」
僕の正義感の裏にあった利己的精神を、宥めるようにリカブさんが言った。

「平和の…奴隷…?」
怪訝そうに呟く僕に対し、9万職員さんが告げる。
「辛く苦しい中でも、誰かに尽くす事が出来るからこそ、"勇者"は"勇者"で居られるんです。もし私が勇者様の立場だったら、きっと逃げ出してますからね。無給労働なんてクソ喰らえです!」
「えぇ…。」

軽くドン引きする僕を他所に、9万職員さんは話を続ける。
「勇者様…いえ、ヨシヒコさん、私を誰だと思っているんですか?ハロワ職員ですよ!ヨシヒコさんの適職なんて、100個だろうが1,000個だろうが見つけてやりますよ!」
「あ、流石に1,000個は結構です。」

「…でも、ありがとうございます。少し希望が湧いてきました。」
…僕は顔を上げた。フロントガラスを通り抜けて差し込む夕日が眩しい…けど、不思議と不快ではなかった。

「よし、じゃあ村に帰ったら、まずはハロワに行こう!」
隣に座るリカブさんが声を上げた。

「「はい!」」
未来へ向けて決意を固めた僕達は、それに応える。

僕達の乗るタクシーは、黄昏の中へと突き進んでいった。

・ ・ ・

「…あれ?」
リカブさんが突然呟いた。

「どうしたんだ9万?ハロワの駐車場を通り過ぎているぞ?」
「あ、ホントだ。何処かに用事でもあるんですか?」
僕は立て続けに、9万職員さんに質問を投げかけた。

「………ません」
「「え?」」

「タクシーが…減速出来ませんッ…!」
「「ぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇえ!?」」

眼前には広場の噴水が迫る。
火花と煙を散らすタクシーは暴走を続け…

「ぶつかっ――」

とうとうタクシーは、噴水と心中した。
炎と煙が巻き上がり、潰れたタクシーを呑み込んでいく――

To Be Continued
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