理科部冒険記 〜実験結果は異世界転移〜

Taku-3

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第1部 理科部冒険記NEXT

第15幕・不穏な影

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警察からの事情聴取が終わり、無事(?)解放されたリカブと9万。
ハローワーク、"無限回廊"の奥を目指す最中、リカブは刑事からの"伝言"を口にする。

・ ・ ・

「はあ……はぁ……。ここは…何番カウンターですか……?」
「24,865番カウンターですね。」

嘘だろ。嘘だと言ってくれ…。
そう返す気力も残っておらず、その場で座り込んでしまった。

「すみません…リカブさん、勇者様…。
私にゴールド免許さえ残っていれば車が使えたのに……私にゴールド免許さえあれば…」
「気に病むことは無いぞ、9万。
丁度良いタイミングだ。ヨシヒコ君、先程刑事からの伝言を受けたのだが、聞いてくれるか?」

遠のきかけていた意識がスっと戻ってきた。
「エッ…アッ…はい!」
ぎこちない返事を受け、リカブさんは語り始めた。

「先程の刑事は"我々に頼みがある"として伝言を残していった。その内容についてだが…」
「………?」
いつになく真面目な雰囲気のリカブさんを見て、不思議と緊張感が湧き上がってくる。

「メガバイト村の隣に位置し、我が国有数の大都市"フォージー市街地区"、フォージーを越えた半島に位置する湾岸都市"デキ市"我が国の王都"ハチビットタウン"…
…これら3箇所が、昨日モンスターによる襲撃を受けたとの事だ。」
「………!?」

「王都に関しては王国騎士団と警察隊が対処に当たった為被害は軽微だが…
フォージー市街地区は全インフラが停止、デキ市に至っては応戦した軍部と未だに連絡が取れないそうだ。」
今までに無い深刻な表情を浮かべ、リカブさんは事の重大さについて語った。

「襲撃を受けたとされる時刻は昨日の午後…。
つまり、私達が魔王を討伐し、村への帰還を開始したあたりですね。」
「補足説明に感謝する。9万。
話を戻すが、この件には不可解な点がある。」

「統率者である魔王を倒したのに…モンスターが活発化している…という事ですか…?」

そう口にすると、リカブさんは少し驚いた様子で、かつ冷静な口調で返答した。

「察しが良いじゃないか…その通りだ。統率を失ったモンスターが、集団行動を取るとは考えにくい…。だが、それだけではない。」
「それだけではない…?まだ不可解な点があるんですか?」
僕はリカブさんの発言に食いつくように、疑問を呈した。

「ああ、もっと分かりやすい点がな。
"全てのモンスターの始祖は魔王であり、魔王の死はモンスターの活動に悪影響を及ぼす"…コレが魔術学会の通説だとされていた…。」

…なるほど、ボスを倒せば取り巻きも消える――みたいなゲーム的システムなのか…。
いや、仮にそうだとすれば…

「"魔王と一緒に全消滅☆"とまでは行かなくても、多少の弱体化は起こり得るはずなのですが…。現にこうなってますからね…。」
9万職員さんは暗い面持ちで言う。

2人が伝言…もとい事件の補足を述べる中、僕の中には形容し難い"嫌な予感"があった。

「それってまさか…」

「ああ。我々が倒した魔王は、"偽物だった"可能性が高い。」

「………ッ!」

偽物の魔王、そして街の襲撃。
"本物の"魔王の目的に、自分が相対してきたモンスターとは格の違う狡猾さを覚えずにはいられなかった。

「敢えて根城を分かりやすい場所に配置し、人類が持つ戦力をおびき寄せ、人々を守る戦力が手薄になった所を襲撃する…巧妙で、卑劣で最低な策です…。」

珍しく怒りを顕にする9万職員さんが、酷く印象的に感じた。

「…でも…何故刑事さんはこの情報を僕等に?」
「あの刑事は、メガバイト村当局、そして国王が我々に"本物の魔王討伐"への協力を要請している事も伝えてきた…。我々の功績がマスメディアを通じて拡散されたのが大きな要因だろうが…」
「要約すると、公的機関が私達の雇い主となる事を望んでいる訳です。刑事さんは多額の成功報酬も出すと言っていました。」
「報しゅ…!?」

ただの慈善事業というイメージで固定されかけていた"勇者"の印象が、この一瞬で覆った。

驚いて声も出ない僕にリカブさんが重ねて告げた。
「後日、私の家に公的な文書が届くそうだ。
事態は一刻を争うため、予め協力の是非を決めて欲しいとも言っていた…。
…だが今回は、私から頼むつもりは無い…。
…君が決めてくれ、ヨシヒコ君。明確に、大きな危険が伴う仕事であるし、君には元住んでいた世界もある。
あくまでも…この世界の問題なのだから…。」

随分と気を遣わせているようだが、
僕の返答は決まっていた。

「やります。」

「…良いんだな?ヨシヒコ君。」
「…覚悟は出来ています。それに、この世界の惨状を聞いて、それを見捨てる程無責任じゃありませんから。
…やります。そしてやりましょう!僕達で!」

そう声高々に宣言した僕に、露骨に上機嫌な声色で9万職員さんが言った。

「流石勇者様です!では、勇者様の再就職先は、"勇者"で決定です!」
「うむ…!ではこれからも宜しく頼む!勇者ヨシヒコ!」
「はいっ!」

「これで我々の方針は決まったな!
では、明日は92,374番カウンターを目指す故、これにて休むとしよう!」
「はい………え?」

…危うく流される所だった。

「もう再就職したような物なのに、何故カウンターに向かおうとしてるんですか?」
そう指摘すると、9万職員さんは得意気な笑みを浮かべた。
「ふふっ…明日までのヒ・ミ・ツ♡…という奴ですよ。勇者様。」
「うぅん…?」

…腑に落ちない点はあるが、今夜はこれで休む事にしよう。

・ ・ ・

そこは薄暗い空間。
悲鳴のような雑音がこだまし、
禍々しい無数の炎が揺らめいている。

硬い床を叩くような足音が反響し、
次には気味の悪い、心臓の奥まで響くような一人の男の声が広がった。

「首尾はどうだ。」

圧を放つ男の前には、1人の青年が跪いている。
だが、ただの青年では無い。
後頭部に生えた角と、血のように赤黒い体色がそれを物語っている。
「"ダミーの城"への"王国騎士団"を筆頭とした精鋭部隊の接近を確認。同時刻、勇者一行と見られる者達が"偽物"を撃破した模様です。
"ウェルダー"の連絡によると、デキ市は壊滅状態、フォージ市街地も早期の復旧は困難との事。」

「…勇者共の身元は?」

「…申し訳ありません、確認できたのは姿のみとなっており、居場所の特定には至らず…」

男は黙り込み、青年を睨みつけた。

「即座に、潜入捜査に参ります。必ずや、勇者に通じる情報を掴んでみせましょう…」

「それで良い…。行け、"妖炎の魔人、プロミネンス"よ…」

「…失礼します…。」
青年が退出した後、男は指を鳴らした。

その瞬間、空間の炎はより一層強まり、男の前に整列し、跪くモンスターの大群を照らし上げた。

「奴に続け…。そして逃がすな。勇者を…そしてあらゆる人類をだ…。」

To Be Continued
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