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教科書がボロボロ
その日の朝、教室の空気は腐った水のようによどんでいました。
私が教室に入ると、ざわついていた話し声がピタリと止まりました。クラスメイトたちが、まるで汚いものを見るような目で私を見ています。ヒソヒソと交わされる声が耳に入ってきます。
「来たわよ……」
「よく平気な顔で来れるわね」
「やっぱり、家柄が良いと何でも許されるのかしら」
(……またですか。昨日のドレス被り事件のことが、まだ噂になっているのでしょうか?)
私はため息を飲み込んで自分の席に向かいました。なまりを飲み込んだみたいに胃が重たいです。
私が自分の席に着こうとした、その時でした。
「きゃあぁぁぁぁぁっ!!」
悲鳴が上がりました。ミナです。彼女は自分の机の前で、腰を抜かして座り込んでいました。そして、両手で顔を覆って泣き出しました。
「ひどい……ひどいわ! こんなことって……!」
アルベルト様が血相を変えて駆け寄ります。
「どうしたんだミナ! 何があった!?」
「アルベルト様……私、勉強しようと思って机を見たら……うぅっ!」
ミナが指差した机の上。そこには、無惨な姿になった歴史の教科書がありました。いえ、それはもう教科書とは呼べません。
表紙は引きちぎられ、中身のページはズタズタに切り刻まれ、まるで紙吹雪の山ようになっていました。インクもぶちまけられていて真っ黒です。
「なんてことを……!」
アルベルト様が怒りで震えています。そして、その場にいたリリィが私を指差しました。
「私、犯人を知っています! ロゼリア様です!」
(……はい?)
「今朝早く、私が教室に来た時、ロゼリア様がミナの机の前に立っていたんです! 私が声をかけたら、慌てて逃げていきました!」
リリィが大声で嘘をつきました。私は今、登校したばかりです。朝早くなんて来ていません。
「嘘をおっしゃらないで。私は今、来たばかりですわ」
「嘘つきは泥棒の始まりですわよ、ロゼリア様! じゃあ、どうしてあなたの手はインクで汚れているんですか!?」
リリィに言われて、私はハッとして自分の手を見ました。右手の指先が黒く汚れています。
(……あ!)
思い出しました。さっき、下駄箱で靴を履き替える時、何かがヌルッとしたのです。誰かが私の靴箱の取っ手にインクを塗っていたのです。
あの時は「誰かのいたずらかしら?」とハンカチで拭いただけでしたが……まさか、このための罠だった?
「証拠はまだあります! みんな、ロゼリア様の机の中を見ろ!」
ガストンが叫びました。私の許可もなく、男子生徒の一人が私の机を勝手に開けます。そして、中から出てきたのは……。
クシャクシャに丸められた破かれた教科書のページの一部とハサミでした。
「決定だーっ! 凶器と証拠品が出てきたぞーっ!」
ガストンの【増幅】ボイスが、教室の窓ガラスをビリビリ震わせます。
「違う! 私じゃありません! 誰かが勝手に入れたのです!」
私は叫びましたが、その声はクラスメイトたちの非難の目に吸い込まれて消えてしまいました。
「ロゼリア……」
低い怒りを含んだ声。アルベルト様が、ゆっくりと私の方へ歩いてきました。その手には、ボロボロになったミナの教科書が握られています。
私が教室に入ると、ざわついていた話し声がピタリと止まりました。クラスメイトたちが、まるで汚いものを見るような目で私を見ています。ヒソヒソと交わされる声が耳に入ってきます。
「来たわよ……」
「よく平気な顔で来れるわね」
「やっぱり、家柄が良いと何でも許されるのかしら」
(……またですか。昨日のドレス被り事件のことが、まだ噂になっているのでしょうか?)
私はため息を飲み込んで自分の席に向かいました。なまりを飲み込んだみたいに胃が重たいです。
私が自分の席に着こうとした、その時でした。
「きゃあぁぁぁぁぁっ!!」
悲鳴が上がりました。ミナです。彼女は自分の机の前で、腰を抜かして座り込んでいました。そして、両手で顔を覆って泣き出しました。
「ひどい……ひどいわ! こんなことって……!」
アルベルト様が血相を変えて駆け寄ります。
「どうしたんだミナ! 何があった!?」
「アルベルト様……私、勉強しようと思って机を見たら……うぅっ!」
ミナが指差した机の上。そこには、無惨な姿になった歴史の教科書がありました。いえ、それはもう教科書とは呼べません。
表紙は引きちぎられ、中身のページはズタズタに切り刻まれ、まるで紙吹雪の山ようになっていました。インクもぶちまけられていて真っ黒です。
「なんてことを……!」
アルベルト様が怒りで震えています。そして、その場にいたリリィが私を指差しました。
「私、犯人を知っています! ロゼリア様です!」
(……はい?)
「今朝早く、私が教室に来た時、ロゼリア様がミナの机の前に立っていたんです! 私が声をかけたら、慌てて逃げていきました!」
リリィが大声で嘘をつきました。私は今、登校したばかりです。朝早くなんて来ていません。
「嘘をおっしゃらないで。私は今、来たばかりですわ」
「嘘つきは泥棒の始まりですわよ、ロゼリア様! じゃあ、どうしてあなたの手はインクで汚れているんですか!?」
リリィに言われて、私はハッとして自分の手を見ました。右手の指先が黒く汚れています。
(……あ!)
思い出しました。さっき、下駄箱で靴を履き替える時、何かがヌルッとしたのです。誰かが私の靴箱の取っ手にインクを塗っていたのです。
あの時は「誰かのいたずらかしら?」とハンカチで拭いただけでしたが……まさか、このための罠だった?
「証拠はまだあります! みんな、ロゼリア様の机の中を見ろ!」
ガストンが叫びました。私の許可もなく、男子生徒の一人が私の机を勝手に開けます。そして、中から出てきたのは……。
クシャクシャに丸められた破かれた教科書のページの一部とハサミでした。
「決定だーっ! 凶器と証拠品が出てきたぞーっ!」
ガストンの【増幅】ボイスが、教室の窓ガラスをビリビリ震わせます。
「違う! 私じゃありません! 誰かが勝手に入れたのです!」
私は叫びましたが、その声はクラスメイトたちの非難の目に吸い込まれて消えてしまいました。
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