23 / 44
決定的な証拠
「ロゼリア様……私と『お友達』になりましょうよ」
ミナの声が、甘くねっとりと響きました。瞳が怪しく光ります。
「私の目を見てぇ……。私がどんなに可愛いか、わかるでしょぉ? 私のお願い、なんでも聞きたくなっちゃうでしょぉ?」
ゾワッ! 背筋に冷たいものが走りました。これは、アルベルト様にかけていた【魅了】魔法そのものです。
彼女は焦りのあまり、あろうことか私に直接洗脳をかけようとしているのです。
(危険ですね……)
私は本能的に身を固めました。目に見えないピンク色の触手が、私の顔に向かって伸びてきます。あれに触れられたら、私の心も汚染されてしまうかもしれません。
「ロゼリアっ!!」
その時でした。私の前に、大きな背中が飛び出しました。
ガキンッ!!
硬い金属音のような音が響きました。キース様です。彼が私の前に立ちふさがり、片手を前に突き出していました。
その手の先には、透明なガラスのような壁【遮断】の結界が張られていました。
ミナから放たれたピンク色の魔力が、キース様の結界にぶつかり火花を散らして弾け飛んだのです。
「きゃっ!?」
自分の放った魔力が跳ね返ってきて、ミナが悲鳴を上げました。
「……汚らわしい」
キース様は、地獄の底から響くような低い声で言いました。
「俺の大切な人に、その汚い魔法を向けるな」
(か、かっこいい!)
心臓がドキンッ! と高鳴りました。キース様の背中は広くて頼もしくて、私をあらゆる悪意から守ってくれる絶対的な壁でした。
「な、なによこれぇ! 私の魔法が……効かない!?」
ミナは信じられないという顔で自分の手を見ています。
今まで、男の子たちはみんなイチコロだったのでしょう。自分の魔法が拒絶されたのは初めての経験なのです。
「お前のその魔法は、精神の弱い奴には効くかもしれないが……。俺には通用しない。俺が見ているのはロゼリアだけだ。他の誰かが入り込む隙間なんて、1ミリもない」
キース様は断言しました。その言葉は、どんな【防御】魔法よりも強力に、ミナのプライドを粉々に砕きました。
「……撮れましたわ」
私はキース様の背中越しに右目を開きました。【記録完了】
今のやりとり。ミナが意図的に私に魔法を放ち、それがキース様の結界にぶつかって弾かれた瞬間。その映像は、ミナが魔法を使って他人を攻撃したという動かぬ証拠になります。
これまでは「無意識に出ちゃったの~」と言い逃れできたかもしれませんが今のは違います。明確な殺意にも似た悪意ある攻撃でした。
「ア、アルベルト様! あの人たちが私をいじめるの! なんとかしてよぉ!」
ミナは泣きついて誤魔化そうとしました。しかし、アルベルト様も今の異様な光景を見て呆然としています。ミナの体から出たピンク色の煙を彼も見てしまったからです。
「ミナ……? 今のは……何だ?」
「な、なんでもないの! 幻覚よ! きっとリリィが失敗したのよ!」
ミナは必死に取りつくろいますが手遅れです。
私はキース様の背中からそっと顔を出しました。そして、冷たく静かに告げました。
「ミナさん。今の攻撃魔法、しっかりと記録させていただきました。貴族への魔法攻撃は重罪ですわよ?」
「ひっ……」
「覚悟していてくださいね。次の『星降る夜会』……そこで、全てを清算して差し上げます」
私の言葉に、ミナは顔を引きつらせて後ずさりしました。自分が今までやってきたことの恐ろしさが、やっと分かってきたのかもしれません。
「行こう、ロゼリア。ここにいると空気が悪い」
キース様が私の肩を抱き寄せました。
「はい、キース」
私たちは、青ざめるミナと混乱するアルベルト様を残してその場を去りました。帰り道、私はキース様の袖をちょっとだけ掴みました。
「……あの、キース」
「ん?」
「守ってくださって、ありがとうございました。とても、嬉しかったです」
キース様は少しだけ耳を赤くして、そっぽを向きました。
「……当然のことをしたまでだ。君に指一本でも触れさせるものか」
(ああ、本当に……)
どうして私は今まで、あの馬鹿なアルベルト様に固執していたのでしょう。本物のナイトは、こんなに近くにいたのに。
証拠は揃いました。ガストンは沈黙し、リリィは逃亡し、ミナは尻尾を出しました。
舞台は整いました。あとは、仕上げです。最高のドレスを着て最高のパートナーと共に、最高のざまぁをお見舞いするだけです!
ミナの声が、甘くねっとりと響きました。瞳が怪しく光ります。
「私の目を見てぇ……。私がどんなに可愛いか、わかるでしょぉ? 私のお願い、なんでも聞きたくなっちゃうでしょぉ?」
ゾワッ! 背筋に冷たいものが走りました。これは、アルベルト様にかけていた【魅了】魔法そのものです。
彼女は焦りのあまり、あろうことか私に直接洗脳をかけようとしているのです。
(危険ですね……)
私は本能的に身を固めました。目に見えないピンク色の触手が、私の顔に向かって伸びてきます。あれに触れられたら、私の心も汚染されてしまうかもしれません。
「ロゼリアっ!!」
その時でした。私の前に、大きな背中が飛び出しました。
ガキンッ!!
硬い金属音のような音が響きました。キース様です。彼が私の前に立ちふさがり、片手を前に突き出していました。
その手の先には、透明なガラスのような壁【遮断】の結界が張られていました。
ミナから放たれたピンク色の魔力が、キース様の結界にぶつかり火花を散らして弾け飛んだのです。
「きゃっ!?」
自分の放った魔力が跳ね返ってきて、ミナが悲鳴を上げました。
「……汚らわしい」
キース様は、地獄の底から響くような低い声で言いました。
「俺の大切な人に、その汚い魔法を向けるな」
(か、かっこいい!)
心臓がドキンッ! と高鳴りました。キース様の背中は広くて頼もしくて、私をあらゆる悪意から守ってくれる絶対的な壁でした。
「な、なによこれぇ! 私の魔法が……効かない!?」
ミナは信じられないという顔で自分の手を見ています。
今まで、男の子たちはみんなイチコロだったのでしょう。自分の魔法が拒絶されたのは初めての経験なのです。
「お前のその魔法は、精神の弱い奴には効くかもしれないが……。俺には通用しない。俺が見ているのはロゼリアだけだ。他の誰かが入り込む隙間なんて、1ミリもない」
キース様は断言しました。その言葉は、どんな【防御】魔法よりも強力に、ミナのプライドを粉々に砕きました。
「……撮れましたわ」
私はキース様の背中越しに右目を開きました。【記録完了】
今のやりとり。ミナが意図的に私に魔法を放ち、それがキース様の結界にぶつかって弾かれた瞬間。その映像は、ミナが魔法を使って他人を攻撃したという動かぬ証拠になります。
これまでは「無意識に出ちゃったの~」と言い逃れできたかもしれませんが今のは違います。明確な殺意にも似た悪意ある攻撃でした。
「ア、アルベルト様! あの人たちが私をいじめるの! なんとかしてよぉ!」
ミナは泣きついて誤魔化そうとしました。しかし、アルベルト様も今の異様な光景を見て呆然としています。ミナの体から出たピンク色の煙を彼も見てしまったからです。
「ミナ……? 今のは……何だ?」
「な、なんでもないの! 幻覚よ! きっとリリィが失敗したのよ!」
ミナは必死に取りつくろいますが手遅れです。
私はキース様の背中からそっと顔を出しました。そして、冷たく静かに告げました。
「ミナさん。今の攻撃魔法、しっかりと記録させていただきました。貴族への魔法攻撃は重罪ですわよ?」
「ひっ……」
「覚悟していてくださいね。次の『星降る夜会』……そこで、全てを清算して差し上げます」
私の言葉に、ミナは顔を引きつらせて後ずさりしました。自分が今までやってきたことの恐ろしさが、やっと分かってきたのかもしれません。
「行こう、ロゼリア。ここにいると空気が悪い」
キース様が私の肩を抱き寄せました。
「はい、キース」
私たちは、青ざめるミナと混乱するアルベルト様を残してその場を去りました。帰り道、私はキース様の袖をちょっとだけ掴みました。
「……あの、キース」
「ん?」
「守ってくださって、ありがとうございました。とても、嬉しかったです」
キース様は少しだけ耳を赤くして、そっぽを向きました。
「……当然のことをしたまでだ。君に指一本でも触れさせるものか」
(ああ、本当に……)
どうして私は今まで、あの馬鹿なアルベルト様に固執していたのでしょう。本物のナイトは、こんなに近くにいたのに。
証拠は揃いました。ガストンは沈黙し、リリィは逃亡し、ミナは尻尾を出しました。
舞台は整いました。あとは、仕上げです。最高のドレスを着て最高のパートナーと共に、最高のざまぁをお見舞いするだけです!
あなたにおすすめの小説
幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。
たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。
彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。
『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』
「……『愛している』、ですか」
いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
第一王子様が最後に選んだのは、妹ではなく私だったようです
睡蓮
恋愛
姉であるオルシナと、妹のマリーシア。マリーシアは小さな時から周囲の人物を次々と味方につけ、オルシナの事を孤立させていった。マリーシアに対しては誰もがちやほやと接してくるのに、オルシナに対しては冷たい態度を取る者がほとんどで、それがこれから先も続くものと思われていた。そんな中、二人のもとに一通の手紙が届く。差出人はフォルグ第一王子であり、二人のうちのいずれかを婚約者として迎え入れるということが書かれていた…。
婚約破棄? ありがとうございます。やっと本当の人生が始まります
たくわん
恋愛
婚約破棄された令嬢がすべきことといえば、泣くか、喚くか、復讐を誓うか——らしい。
リーナ・フォスター公爵令嬢がしたことは、荷造りだった。
「冷たくて人を愛せない」と王太子に切り捨てられた夜、リーナは一度も振り返らずに王城を出た。向かった先は辺境の荒れ地。目的は薬草の栽培と薬品事業の立ち上げ。前世の記憶から温めてきた、誰にも言えなかった計画の実行だ。
リーナはそこで不器用だが誠実な騎士ヴァルターと出会う。一方、残された王太子とその新しい婚約者は、少しずつ、静かに、取り返しのつかない方向へと歩んでいたーー。
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ
ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。
スピーナ子爵家の次女。
どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。
ウィオラはいつも『じゃない方』
認められない、
選ばれない…
そんなウィオラは――
中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。
よろしくお願いします。
わたくし、悪女呼ばわりされておりますが・・・無私の愛を称賛致します!
月白ヤトヒコ
恋愛
少し前に、わたくしの通う学園に平民育ちだという貴族令嬢が編入しました。
最初は貴族としてのマナーに疎く、所作などもあまり美しいとは言えませんでしたが、彼女は努力家なのでしょう。マナーなども率先して学び、学園での成績も下位から段々上がって来ているようです。
けれど、その方とわたくし達では住む世界が違ったのです。一度、彼女を招いたお茶会を開催したのですが……そのたった一度で、彼女と距離を取ることに決めたのです。
しかし、彼女が女子生徒から遠巻きにされていることに気付いた貴族子息が騒ぎ出して―――
それから、段々とおかしくなって行ったのです。
婚約していた方達の縁談が、幾つか壊れました。女子生徒数名が、学園を退学しました。
そして、わたくしの婚約者も……彼女に侍るようになりました。
彼との婚約に悩んでいた矢先のこと。
「弱い立場の者を慮るどころか、率先して虐げるような真似をするとは見下げ果てたぞっ!? 君がそんな悪女だったとはなっ!! 今すぐ彼女に謝罪しろ! さもなくば、君との婚約は破棄させてもらうからなっ!」
「あなたは、彼女のことを愛しているのですか? わたくし達の婚約は政略です。あなたのこの宣言は、ご当主の了承を得られての発言でしょうか?」
「君は、色恋や損得など低俗な視点でしか物事を考えられないのか?」
なんてことなのでしょう……これ程の強い覚悟をもっての宣言だったなんて!
わたくし、悪女呼ばわりされておりますが・・・無私の愛を称賛致します!
設定はふわっと。
愛を騙るな
篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」
「………」
「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」
王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。
「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」
「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」
「い、いや、それはできぬ」
「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」
「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」
途端、王妃の嘲る笑い声が響く。
「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」