魔法の堕天使マジカル☆エンジェル

junhon

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第24話 放送禁止!? 見えない敵を倒せ!

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みなさん、最近学校の周りに変質者が出るそうです」
 
 小学校の教室――黒板の前に立ち、担任の女教師が告げた。
 
「先生ー、へんしつしゃって何ですか?」
 
 生徒の一人が手を上げる。
 
「そうですね。一言で言えば変な人です」
 
 教室がざわざわしだす。みな“変な人”とはどんなものかと想像し、口々に意見を述べる。
 
「変な人だって。こわいね、まなかちゃん」
 
「そうだね、みさきちゃん」
 
「――はい、静かに。そう言う訳で今日からしばらくの間、集団登校、集団下校を行います。おうちの近いお友達同士がグループになって、みんなで学校に行ったり来たりします。父兄の方々も街頭に立って下さいますので安心して下さい」


       ◆


 まなか達のグループはみさきの他に三人の子供がいた。

「へん、へんしつしゃとやらが出たら、このオレがぶったおしてやるぜ」

 ガキ大将的な立ち位置のコースケがこぶしを前に突き出して言う。

「だめだよ、危ないよ、コースケくん」

 眼鏡の少女、気弱そうな雰囲気ふんいきのゆかりがそれを止めた。

「そうだな。すぐにげて大人を呼んでくるんだ」

 少し大人びた少年、ユウイチが言う。

「ふん、へんしつしゃなんかこわくないぜ」

 コースケは二人の言葉など馬耳東風だ。

 そんな会話を交わしながらみんなで下校する。
 
 ――と、まなかはある事に気がついた。後ろを振り返ってランドセルを確認してみるが、やっぱり無い。

「いけない、わたし学校にリコーダーを置いて来ちゃった」

 明日は音楽の授業でリコーダーのテストがあるのだ。家で練習しなければならない。

「みんな、先に行ってて。わたしリコーダーを取りに行ってくる」

 そう言って、駆け出すまなかをみさきが止める。

「だめだよ、まなかちゃん、危ないよ」

大丈夫だいじようぶ、すぐにもどるから」

 まなかは急いで来た道を引き返した。

「――まなかちゃん、大変だ。強烈きようれつな〈ディザイア〉を感じる」
 
 その言葉と共にランドセルのふたが開き、綿毛のような丸々とした生き物が飛び出す。
 
「ポッピー!?」
 
 ポッピーはまなかのかたに乗ると、全身の毛を逆立てた。
 
「近い、近いよ」
 
 まなかは周囲を見回す。だが、どこにも人影ひとかげはない。
 
 その時、曲がり角から一人の男が現れた。
 
 トレンチコートを着たおじさんだ。やや季節が早い気もするが、別段変わった様子はない。
 
「――おじようちゃん」
 
 男はまなかに向かって歩いてきた。
 
「はい、何でしょう?」
 
 道でも聞かれるかと思い、まなかは小首をかしげる。
 
おれを見ろぉ!」
 
 まなかの眼前、男はいきなりトレンチコートの前を開いた。現れたのは全裸ぜんらだ。
 
「きゃああぁ……あ?」
 
 悲鳴を上げるまなかだったが、それがしりすぼみに小さくなる。
 
 男の局部にはモザイクがかかっていた。
 
「くそっ、なぜだ。俺はみんなに俺を見てもらいたいだけなのに」
 
 男は四つん這いになり、地面に拳をたたきつけた。
 
「――その〈ディザイア〉、使わせていただきます」
 
 突然とつぜん上の方から声がかかる。まなかが見上げると、電柱の上に男のかげがあった。
 
「ビンスフェルト! ――おじさん逃げて!」
 
おそい」
 
 ビンスフェルトは手にした弓から矢を放つ。それは男の身体に突き刺さり、吸い込まれた。
 
「出でよ! マーラー!」
 
 男の身体が黒い球体に包まれ、一気に膨張ぼうちようし、はじけた。
 
「マ~ラ~」
 
 現れたのは巨大きよだいな何か。棒状の形をしている様だが、その姿にはモザイクがかかっていてよく分からない。
 
「行け! マーラー。街を破壊はかいするのだ」
 
「マ~ラ~」
 
 ビンスフェルトの指示に従い、怪物かいぶつは棒状の身体をくねらせながら繁華はんか街の方向へと動き出す。
 
「大変、街が……」
 
「まなかちゃん、変身だ」
 
「うん!」
 
 ホッピーの言葉にまなかはスマホを取り出した。その画面に指をすべらせる。
 
「アプリ〈マジカル☆エンジェル〉起動。コード〈アスモデウス〉送信!」
 
 スマホの画面からあふれた光がまなかを飲み込み、着ていた服がけて消える。
 
 全裸になったまなかの身体を四方からびたリボンが包み込む。リボンが光を放つ毎に魔法まほう少女のコスチュームがまなかの身をおおう。かみが伸び、その色もピンクに変わった。リボンがまなかの髪型かみがたをツインテールにまとめる。
 
 変身が完了かんりようすると、まなかは両手を打ち合わせた。ゆっくり開いていくと、光を放つステッキが現れる。
 
 そのステッキを手ににぎり、まなかはくるくるとおどった。そしてポーズを決める。
 
「魔法の堕天使マジカル☆アスモ。あなたの愚息ぐそく昇天しようてんよ(キラ☆)」
 
「――はぁ!」
 
 アスモは大きくジャンプし、マーラーとの距離きよりめる。そのまま上空からキックを放った。
 
「マジカル☆キッーーーク!!」
 
「マ~ラ~」
 
 しかしマーラーはびくともしない。
 
「効いてない!? なら――」
 
 先端せんたんが傘の開いていない松茸まつたけを思わせる形状のステッキを構え、アスモは精神を集中し大技を放つ。
 
「マジカル☆ラブビーム!!」
 
 ステッキの先端から大きな光るハートが飛び出す。それはマーラーを直撃ちよくげきした。
 
「やった!」
 
 しかし、濛々もうもうと立ちこめるけむりが晴れると、無傷のマーラーが現れる。
 
「マ~ラ~」
 
「そんな……マジカル☆ラブビームもきかないなんて」
 
「マ~ラ~」
 
 マーラーの根元から触手しよくしゆが伸びてアスモをおそった。
 
「くっ」
 
 アスモはステッキでそれをなぎ払う。しかし、無数とも思える触手の群れについに四肢ししらえられた。
 
「きゃあ」
 
 触手がアスモの身体を持ち上げる。身動きできないアスモにさらに触手がせまる。
 
「ああ!」
 
 もう駄目だめかとアスモが目を閉じたその時――
 
「マジカル☆ウィンドカッター!!」
 
 放たれた三日月状の光がそれを切り裂く。アスモを拘束こうそくしていた触手もちぎれ飛んだ。
 
「だいじょうぶですの? アスモ」
 
「ベルゼちゃん!」
 
「わたくしたちもいますわ」
 
 ずらりと並ぶ六人の魔法少女達。アスモもその列に加わった。
 
「魔法の堕天使マジカル☆ルシア」
 
「マジカル☆サタナ」
 
「マジカル☆レヴィ」
 
「マジカル☆ベルフェ」
 
「マジカル☆マモン」
 
「マジカル☆ベルゼ」
 
「マジカル☆アスモ」
 
「「人々の欲望をはらうため、天よりちた魔法の堕天使! 七人そろってマジカル☆エンジェル! ここに見参!!」」
 
 七人の魔法少女達はおのおのポーズを決める。
 
「来たか……マジカル☆エンジェル。やれ、やってしまえマーラー」
 
 ビンスフェルトの命令に、再び触手達がマジカル☆エンジェルを襲った。
 
「マジカル☆スタースプラッシュ!!」
 
「マジカル☆ムーンストライク!!」
 
「マジカル☆サンシャインアロー!!」
 
 マジカル☆エンジェルは大技を放って触手達をなぎ払うが、触手は無限にいてくる。
 
「これじゃあ、キリがありませんわ」
 
「本体をたおすべき……」
 
「しかし、なんだありゃあ? モザイクかかってるぞ」
 
「みんな! アレを使うよ!」
 
「「了解りようかい!」」
 
 アスモの呼びかけに、マジカル☆エンジェルは各々おのおののステッキを一点にかかげ、声を合わせる。
 
「「今こそ七つの心の光を束ね、大いなる力を放つ時。――出でよフォーリンラブ☆ハンマー!!」」
 
 ステッキの先端から放たれた光の柱が天にのぼる。雲をいてゆっくりと降りてくるのは、光に包まれた巨大なハンマーだ。
 
 マジカル☆エンジェルはステッキを握り、大きくりかぶる。その動きに合わせて巨大なハンマーが持ち上がる。
 
「「乾坤一擲けんこんいつてき! フォーリンラブ!!」」
 
 ステッキをり下ろすと、フォーリンラブ☆ハンマーもマーラーの上から必殺の一撃いちげきを加えた。
 
 光が爆発ばくはつし、周囲が白く染まる。役目を終えたハンマーは光の粒子りゆうしとなって天にかえっていった。
 
 白の景色に色が戻る。しかし――
 
「マ~ラ~」
 
 マーラーは未だ健在だった。
 
「なっ!?」
 
「そんなバカな!?」
 
「フォーリンラブ☆ハンマーがきかないなんて……」
 
 マジカル☆エンジェルの顔が絶望に染まる。
 
あきらめるな! マジカル☆エンジェル!」
 
 そこへ声がひびいた。
 
 マジカル☆エンジェルが顔を上げると、ビルの屋上に男の影がある。
 
「とぉ!」
 
 男はビルの屋上から飛び降り、くるくる回転しながら華麗かれいな着地をきめた。
 
 現れたのは包帯で顔をかくした全裸の男だった。ただし、こしにつけた天狗てんぐの面で局部を隠している。
 
「「天狗仮面様」」
 
 マジカル☆エンジェルの顔が明るくなる。
 
「真の敵はマーラーにあらず。あのモザイクこそが真の敵。――モザイクがかかってる事で、マーラーはここにあってここにない事になっているのだ」
 
 うでを組み、背筋をばして天狗仮面は告げた。
 
「あのモザイクは一体何なんですか?」
 
「あれこそは――放送倫理りんりコード!!」
 
 アスモの問いに、くわっと目を見開いて天狗仮面が言い放つ。
 
「そんな……」
 
「そんなもの、どうやってたおせって言うんですか?」
 
「……そうだ! テレビ局を破壊すれば」
 
「そしたらこの番組もおしまいですの」
 
「ちくしょう……ここまでなのか?」
 
「そんなお前達にいい物を持ってきた。これこそ〈モザイク除去機〉!!」
 
 うつむくマジカル☆エンジェルを元気づけるように、天狗仮面は手にした細い箱状の機械を掲げた。
 
「「え~~~」」
 
 マジカル☆エンジェルの目が半眼になる。
 
「効果無いって聞きましたよ」
 
「そもそも非可逆変換へんかんされた画像は元にもどせないわけで」
 
「大体なぜそんな物を持っているんですの?」
 
くな! 男には色々あるのだ。ていうか、なんで小学生のお前らが知ってるんだ!?」
 
 天狗仮面はツッコミを返して話を続ける。
 
「とにかく使ってみろ。ビデオカメラとテレビも用意してある」
 
 天狗仮面が視線を向けた先には、いつの間にか地面に機材が置かれていた。機械に強いベルフェがセッティングし、カメラをマーラーに向ける。
 
 テレビに映ったマーラーを見ながら、モザイク除去機のダイヤルを回して調整してみるが――
 
「だめだね」
 
「だめですわ」
 
「役に立たないなぁ」
 
「お金と時間の無駄むだだったね」
 
「ちくしょ~~~ぅ」
 
 マジカル☆エンジェルの白い視線に天狗仮面は泣きながら走り去った。
 
「とにかく、これで打つ手がなくなりましたわ」
 
 ルシアの言葉にあきらめムードがただよう中、アスモが立ち上がる。
 
「アスモ?」
 
 ベルゼの呼びかけに答えぬまま、アスモはマーラーへ近づいていった。
 
「危ない! アスモ!」
 
 アスモへと殺到さつとうする触手にベルゼの悲鳴が上がる。
 
「マ~ラ~」
 
「……分かったよ」
 
 アスモは脳裏にマーラーとなった男の言葉を思い出す。
 
「あなたはみんなに自分の姿を見てもらいたいだけなんだよね」
 
 その言葉に触手達の動きが止まった。
 
 アスモはモザイクにおおわれたマーラーをきしめる。
 
「ごめんね。あなたの姿は見えないけど……あなたはこんなに大きくて立派で、カチカチにかたくてとっても熱い」
 
 そっと目を閉じ、アスモは続けた。
 
「こうすれば感じられるよ。あなたの事を……」
 
「マ~~~ラ~~~」
 
 アスモの言葉に満足げな声を発し、マーラーは光の粒子となって浄化じようかされた。
 
「やったぁ!」
 
「すごいよ! アスモ」
 
「やるじゃねぇか!」
 
 皆が口々にアスモをたたえ、その周りに集まる。
 
「くっ、覚えていなさい。マジカル☆エンジェル」
 
 捨て台詞を残し、ビンスフェルトの姿は消えた。
 
 後に残されたのはマーラーの素体となった男だけだ。
 
 モザイクのかかった局部をさらし、気を失っている。
 
 その男を優しく見下ろし、アスモはスマホを取り出した。
 
「もしもし警察ですか? へんしつしゃがいるんでつかまえて下さい」

――サイレンが鳴り響なりひびく中、手錠てじようをかけられた男が警察官に連れられていく。
 
 夕日をバックに、変身を解いた少女達はその姿を見送るのだった。
 
 
 ~END~
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