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我はハジメのことをペンネーム――ダンイチと呼ぶことにした。変な名前をつけられた意趣返しである。また、これは双方共に本当の名前を呼ばないという魔術的防御の意味もあるのだ。
そして今、我は“すくーる水着”という身体にピッタリとした衣装を着せられ、ダンイチの要求に従って様々なポーズをとっていた。
何でもダンイチは“まんが”と言う絵物語を書いているとのことだ。少し見せてもらったのだが絵と登場人物の台詞によって綴られる物語の様だ。我が以前この星に降臨したときはこんな表現手段はなかったのだが……。
「もっと脚を開いて……よーし、いいぞぉ」
ダンイチは“すまほ”という板で我の写真を何枚も撮っていた。あの薄っぺらい板には写真機の機能もあるらしい。
しかし、本来の我とは似ても似つかないこの身体だが妙に恥ずかしい気分になるな。
「ふぅ、これで資料は万全だな。助かったぜ、ヨグ子」
そう言ってダンイチはポンポンと我の頭に手を乗せる。むぅ、この姿のせいとは言え相変わらず癇に障る態度だ。
「ダンイチ、お前はまんが作家なのか?」
ならば我が力によって世界最高の作家にしてやろうではないか。
「いやいや、単に趣味で書いてるだけだよ。さて、夏コミも近いし気合い入れていかないとな」
ダンイチは机に座ると大きな板に向かった。これまた手元の大きな板にペンを走らせるとその板の上に線が描かれていく。
“ぱそこん”と言うらしいが……一体どういう仕組みになっているのだ?
モデルの仕事が終わった我には特にやる事がない。暇つぶしにその作業を眺めていたのだが、我をモデルにした人物が裸に剥かれて性交を始めたではないか!?
「ききき、貴様! なんだこれは!? 我を辱める気か!?」
「はぁ? エロ同人誌なんだから当たり前だろ」
ダンイチはとぼけた表情で答える。
「こんな幼い少女を陵辱するとは倫理に反しておるぞ!」
邪神の我が倫理を口にするとは変な話だし、かつて我も人間の女性を孕ましたことがあるのだがな。ちゃんと成人女性だったぞ。
「いいか、創作とは現実を超えた領域にあるんだ。現実には不可能なことを物語の中で実行する。そこにしびれる憧れるんだろ?」
むぅ、そう言われてしまえば超越神たる我の召喚主に相応しい所業と言える。しかしなんだこの恥ずかしさは!?
我は身悶えながらもついついダンイチの描くまんがに見入ってしまうのだった。
◆
それから二週間後、我とダンイチは“こみけ”と言うイベントに参加していた。
会場内は人人人、どこからこんなに湧いてきたのだ? そして夏の暑さに人の熱気が加わり蜃気楼でも発生しそうだぞ。
我は売り子としてダンイチと共に“どうじんし”と言う薄い本を売っていた。我がモデルとなりダンイチが描き上げたまんがだ。我が辱めを受ける本を売るというのは非常に複雑な気分だったが、なかなか好調に売れていくぞ。
それにしても猫耳猫尻尾姿に驚かれると思っていたのだが、全然そんな事はなかったな。写真を撮っていいかと求められたくらいだ。この国の人間の感性はどうなっておるのだ?
そんな中、ダンイチに声がかけられた。
「相変わらず売れない本を作っているみたいですね」
相手は見本用のどうじんしに目を落としながら言った。
「お前は……次男!」
ダンイチはその相手を睨み付ける。
「久しぶりですね、兄さん」
本から顔を上げたその男――その顔はダンイチと瓜二つだった。唯一違うのは眼鏡をかけていると言うことだ。どうやら双子の兄弟なのだろう。
「お前の弟か?」
我はダンイチに訊ねる。
「ああ、団次男――ペンネームはダンジダン。売れっ子同人作家様だよ」
そう答えるダンイチの声音は苦々しいものだった。あまり兄弟仲は良くないらしい。
「オリジナルキャラなんて売れませんよ。今回の推しは『五頭身の花嫁』でしょう?」
ツグオは見本誌をポンポンと叩きながら言う。
「くっ……キャラに愛情も注がずに流行りだけを追いかける。俺はそんなお前のやり方を否定する!」
ダンイチはビシッと指を突きつけ、そう言い放った。
「ふん、世の中は結果が全て。僕が今回用意した三千部はもう全部はけましたからね。ふぁはははははっ」
ツグオは高らかに笑い声を上げながら去っていく。ダンイチが用意したのは百冊、しかもまだ半分は残っていた。売り上げだけを見れば確かに雲泥の差がある。
そして我は気が付いていた。ツグオから我に近しい魔の残滓を感じるのに。
「ちっ、ヨグ子! 塩まけ塩!」
「いや、塩など用意していないのだが……それよりもダンイチよ」
我は先程気付いた魔の残り香についてダンイチに告げる。
「……つまりあいつもお前みたいなのを囲っていると言うことか?」
「その可能性は高いだろう。奴の人気の秘密もそこにあるやもしれん」
我はダンイチの問いにそう答えた。
「気になるな」
「ああ、気になる」
我とダンイチは顔を見合わせ、頷き合うのだった。
そして今、我は“すくーる水着”という身体にピッタリとした衣装を着せられ、ダンイチの要求に従って様々なポーズをとっていた。
何でもダンイチは“まんが”と言う絵物語を書いているとのことだ。少し見せてもらったのだが絵と登場人物の台詞によって綴られる物語の様だ。我が以前この星に降臨したときはこんな表現手段はなかったのだが……。
「もっと脚を開いて……よーし、いいぞぉ」
ダンイチは“すまほ”という板で我の写真を何枚も撮っていた。あの薄っぺらい板には写真機の機能もあるらしい。
しかし、本来の我とは似ても似つかないこの身体だが妙に恥ずかしい気分になるな。
「ふぅ、これで資料は万全だな。助かったぜ、ヨグ子」
そう言ってダンイチはポンポンと我の頭に手を乗せる。むぅ、この姿のせいとは言え相変わらず癇に障る態度だ。
「ダンイチ、お前はまんが作家なのか?」
ならば我が力によって世界最高の作家にしてやろうではないか。
「いやいや、単に趣味で書いてるだけだよ。さて、夏コミも近いし気合い入れていかないとな」
ダンイチは机に座ると大きな板に向かった。これまた手元の大きな板にペンを走らせるとその板の上に線が描かれていく。
“ぱそこん”と言うらしいが……一体どういう仕組みになっているのだ?
モデルの仕事が終わった我には特にやる事がない。暇つぶしにその作業を眺めていたのだが、我をモデルにした人物が裸に剥かれて性交を始めたではないか!?
「ききき、貴様! なんだこれは!? 我を辱める気か!?」
「はぁ? エロ同人誌なんだから当たり前だろ」
ダンイチはとぼけた表情で答える。
「こんな幼い少女を陵辱するとは倫理に反しておるぞ!」
邪神の我が倫理を口にするとは変な話だし、かつて我も人間の女性を孕ましたことがあるのだがな。ちゃんと成人女性だったぞ。
「いいか、創作とは現実を超えた領域にあるんだ。現実には不可能なことを物語の中で実行する。そこにしびれる憧れるんだろ?」
むぅ、そう言われてしまえば超越神たる我の召喚主に相応しい所業と言える。しかしなんだこの恥ずかしさは!?
我は身悶えながらもついついダンイチの描くまんがに見入ってしまうのだった。
◆
それから二週間後、我とダンイチは“こみけ”と言うイベントに参加していた。
会場内は人人人、どこからこんなに湧いてきたのだ? そして夏の暑さに人の熱気が加わり蜃気楼でも発生しそうだぞ。
我は売り子としてダンイチと共に“どうじんし”と言う薄い本を売っていた。我がモデルとなりダンイチが描き上げたまんがだ。我が辱めを受ける本を売るというのは非常に複雑な気分だったが、なかなか好調に売れていくぞ。
それにしても猫耳猫尻尾姿に驚かれると思っていたのだが、全然そんな事はなかったな。写真を撮っていいかと求められたくらいだ。この国の人間の感性はどうなっておるのだ?
そんな中、ダンイチに声がかけられた。
「相変わらず売れない本を作っているみたいですね」
相手は見本用のどうじんしに目を落としながら言った。
「お前は……次男!」
ダンイチはその相手を睨み付ける。
「久しぶりですね、兄さん」
本から顔を上げたその男――その顔はダンイチと瓜二つだった。唯一違うのは眼鏡をかけていると言うことだ。どうやら双子の兄弟なのだろう。
「お前の弟か?」
我はダンイチに訊ねる。
「ああ、団次男――ペンネームはダンジダン。売れっ子同人作家様だよ」
そう答えるダンイチの声音は苦々しいものだった。あまり兄弟仲は良くないらしい。
「オリジナルキャラなんて売れませんよ。今回の推しは『五頭身の花嫁』でしょう?」
ツグオは見本誌をポンポンと叩きながら言う。
「くっ……キャラに愛情も注がずに流行りだけを追いかける。俺はそんなお前のやり方を否定する!」
ダンイチはビシッと指を突きつけ、そう言い放った。
「ふん、世の中は結果が全て。僕が今回用意した三千部はもう全部はけましたからね。ふぁはははははっ」
ツグオは高らかに笑い声を上げながら去っていく。ダンイチが用意したのは百冊、しかもまだ半分は残っていた。売り上げだけを見れば確かに雲泥の差がある。
そして我は気が付いていた。ツグオから我に近しい魔の残滓を感じるのに。
「ちっ、ヨグ子! 塩まけ塩!」
「いや、塩など用意していないのだが……それよりもダンイチよ」
我は先程気付いた魔の残り香についてダンイチに告げる。
「……つまりあいつもお前みたいなのを囲っていると言うことか?」
「その可能性は高いだろう。奴の人気の秘密もそこにあるやもしれん」
我はダンイチの問いにそう答えた。
「気になるな」
「ああ、気になる」
我とダンイチは顔を見合わせ、頷き合うのだった。
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