血のバレンタイン?

junhon

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彼女の告白

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 今日、二月十四日の日曜日、おれは初めて彼女かのじよの家にお呼ばれした。
 
 バイト先で出会い、俺は彼女に一目れしてしまった。器量良し、性格良し。あえて難を上げるとすればスレンダーなスタイルがスレンダーすぎて胸の方がアレなのだが、大丈夫だいじようぶ、俺はチッパイもいける口だ。
 
 学校が別々なので、バイト先と今日のような休日にしか会えないのがつらいところ。彼女と一緒いつしよの学校だったなら、俺の高校生活はまさにバラ色だっただろう。
 
 パステル調のあわ色彩しきさいがあふれる部屋の中、すすめられたクッションに座り、落ち着かない気分で部屋の主の帰りを待つ。
 
「お待たせ」

 トレーにポットを乗せた彼女が帰って来た。ふわりとあまにおいもただよう。
 
 長いツインテールの黒髪くろかみらし、テーブルをはさんだ対面でひざ立ちになり俺の目の前にチョコレート色のケーキを置く。――ザッハトルテってやつか?

 続いて紅茶が注がれ、彼女はこしを落ち着けるとにっこりと俺に微笑ほほえみかけた。
 
「さ、召し上がれ。手作りだよ」

「お、おう。ありがとう」

 人生初の母親以外からのバレンタインチョコ。しかも手作り。俺は感動に打ちふるえながらフォークでケーキをすくい上げる。
 
 パクリ。
 
 パリッとしたチョコとしっとりとしたスポンジ、双方そうほうからあま濃厚のうこうな味わいが口内に広がる。ああ、チョコレートってこんなに美味いものだったのか……。
 
「どう、美味しい?」

 彼女は小首をかしげ、少し不安げに俺の顔をのぞむ。
 
「もちろん! めちゃくちゃ美味い!」

「そう、良かった」

 その笑顔はまさに天使の微笑ほほえみ。俺の心までとろけさせた。
 
 勧められるままケーキを三切れ平らげ、紅茶で一息ついたところでポツリと彼女がらす。
 
「今日はね、パパもママも帰りがおそいんだ」

 そう言って彼女は腰をかせた。テーブルしに身を乗り出し、軽くあごを上げるとそっとひとみを閉じる。
 
 こ、これは……キスしてって事だよな?
 
 俺の心臓は早鐘はやがねのように高鳴る。
 
 据え膳すえぜん食わぬは男のはじ。俺は大きくのどを鳴らした後、ゆっくりと顔を近づけ、彼女とくちびるを重ねた。
 
 チョコレートよりも甘い甘いキスの味に俺の理性が吹き飛ぶ。
 
「きゃっ」

 彼女をゆかに押し倒し、その上におおかぶさった。少々乱暴にその胸へと手をばすが――
 
 うん、全然無いな。
 
 しかし、そんな事は了承りようしよう済みだ。まずはスカートをと視線を下げる。
 
 あれ? なんかスカートが盛り上がっているんだが……まるで下から棒状の物で押し上げているみたいに。
 
 困惑こんわくする俺に彼女はほおを染めながら告げた。
 
「実はね……私、男のなの」

 え?
 
 え?
 
 えええええ!?
 
 その告白に固まる俺の身体の下から這い出し、立ち上がった彼女はスカートの中へと手を入れ、下着を太ももまで下ろした。
 
「ほら」

 そう言って自らスカートをめくると、そこには雄々おおしく鼻を持ち上げたゾウさんが……。
 
「でも愛があれば問題ないよね?」

 彼女はにっこりと俺に微笑みかける。変わらぬ天使の笑みで。
 
「さ、一つになろう」

 彼女はあまりの衝撃しようげき恐怖きようふに心と身体が麻痺まひした俺を押し倒し――
 
「あ、あ、あーーーーー!!」

 俺の悲鳴が長く長くひびわたる。
 
 ーーーーーーーーーー
 
 その日、俺のバレンタインは鮮血せんけつに染まった。
 
 血のバレンタイン――いや、のバレンタインだ。
 
 その記憶きおくは俺の心と身体に深く刻み込まれたのだった。
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