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ログワ村
ハドソン伯爵邸へ
しおりを挟む大雑把ではあるけれど、ルイさんたちに養蚕について説明をした。
後はハドソン伯爵に詳しく説明をしたら私はお役御免、にはならなかった。
それでイケるかなぁ、と思ったんだけどねぇ。
ハドソン伯爵とはほぼ書面でのやり取りしかしていなかったけれど、コスト侯爵家の名前を出せば門衛も取り次いでくれるかな、と思っている。
流石に私が言い出した話だしルイさんたちにいきなり領主に会え、というのは無理があったから。
話を通せば後は伯爵が動いてくれる筈。
だからハドソン伯爵に話をしたらあわよくばそのまま旅に出てしまうつもりだった。
でも私の様子から察したらしい村長さんたちに縋られた。
「ティアナさんももう一度、戻って来てくれますよねぇ?」
と連呼されてしまえば仕方がない。
でも、でもさぁ。例え次は村まで馬車で乗りつけて、私の目に入らないようにしてくれ、とお願いしたとしてもだよ?
存在を知らないで村へ行くのと知っていて村に行くのでは、後者の方が勇気がいる気がするんだよ。
だって知ってたら行く訳ないじゃん!
けれど村長さんは人生経験豊富だった。リド君とアル君を仕向けてきたのだ。
「ティアナ姉ちゃん、もう一度戻って来てくれるよね?」
「僕たちまだお姉ちゃんと遊んでないよ、、、。」
目をウルウルさせて言われてしまえば頷くしかないよね。
二人を泣かせてしまった罪悪感もあったからなぁ。
仕方が無いので戻って来る事を約束して、ルイさんたちに幾つか指示を出してからログワ村を一旦後にした。
乗合馬車が通る道まではクリスが手を引いて早足で歩いてくれた。
そうじゃないと私がビビッてしがみついてくるから早く歩けない、と文句を言われたからだ。
タイミング良く乗合馬車と貸し馬車を乗り継いで、ハドソン伯爵が住むハドソン領の領都には夜の食事が終わる頃の時間に辿り着いた。
「だからー、先触れも無いし事前に連絡の無い人は伯爵に取り次がない決まりなんだよ。
俺たちには勝手に訪問の許可をする事も出来ないんだ。
それに君たちは冒険者かなんかだろう?
伯爵様の知り合いにそういう人はいなかった筈だ。
さぁ、帰った、帰った。」
夜に訪ねてくるのはやっぱり非常識だったか。
「では明日の午前中にもう一度来ますので、伝言を頼めませんか?」
「伝言~?だが、君たちは知り合いでもなんでも無いのだろう?
伯爵様はとてもお優しい方だが、だからと言って訪ねて来た領民一人一人に会っている程、お暇でも無いんだよ。」
「えーっとエトリナ商会の代表をしていて、この通りイケアの商業ギルド長の紹介状もありますよ!
身元はしっかりしていますので!」
今こそ使い時だっ!とラルフレッドさんに書いて貰った紹介状と商業ギルド発行のカードを見せた。
「はぁ~?君、商人なの?何だ、物を売り込みに来たのか。
ここの伯爵家御用達の商会があるからダメだ、ダメだ。
それにエトリナ商会なんて商会は聞いた事もないよ。」
ラルフレッドさんの紹介状、役に立たなかった!
お店や商会でしか効力無かったかぁ~。
隣でクリスが呆れている。
仕方ないなぁ。無駄かも知れないけれどコスト侯爵家の名前を出すしか無いかな。
「あの、本当にハドソン領にとって大事な話があるんです。
実は急ぎで来たのでこのような恰好をしていますが、私はコスト侯爵家の長女で、ローズマリーの娘のティアナと言います。
明日の九時頃、もう一度来ますので、どうか伯爵家の家令か執事の方に伝言をお願いします。
あ、コレ、コスト侯爵家の家紋入りのハンカチです。一緒にお渡ししますので確認をお願いします、とお伝え下さい。」
サッと魔法鞄からティアナが刺繍したバザー用のハンカチを取り出した。
彼女の物を何か持っておきたくて、家を出る時に一緒に持って出たんだよね。
「コスト侯爵家?まぁ、ジョセフさんになら伝言しておいてやるよ。
但し、明日来ても必ず伯爵様に会える訳では無いからな。そこは忘れないでくれよ。」
いきなり侯爵家の名前を出されて余計に怪しく思ったのか、門衛さんはハンカチを広げて刺繍してある家紋をマジマジと見つめてからそう言った。
素気ない態度ではあるけれど、いきなり押しかけてきた怪しい男女の二人組に対する対応ならこれが正しいんだろうね。
仕方がないので近くで宿を探して部屋を取ったけれど、何も言っていないのに『部屋は別々だからなっ!』とクリスは何度も念押ししてきてしつこかった。
翌朝、流石にドレスを着るのは違うか、と白いブラウスにベスト、青いワンピースというシンプルな服装でハドソン邸に向かう。
クリスも今日は専属侍従をしていた頃の恰好をしている。
門扉まで来ると昨夜の門衛さんと執事か家令のような姿の初老の男性が立っていた。
「私、今は亡き元コスト侯爵夫人ローズマリーの娘のティアナと申します。
昨夜は事前の連絡もせずにいきなり押しかけて申し訳ありませんでした。
ハドソン伯爵にハドソン領にとって非常に重要なお話があり、是非伯爵様にご連絡を、と訪問させて頂いた次第です。
ハドソン伯爵様にお取り次ぎをお願いします。」
深々と頭を下げてから初老の男性を見ると目が怖かった!
流石に伯爵家の人だから不躾な視線を向けてくる事は無かったけれど、兎に角冷ややかな目が怖かった。
「私はハドソン伯爵家の家令をしておりますジョセフと申します。
さて、コスト侯爵家のご令嬢だと伺いましたが、近頃第一子の長女は除籍されたと耳にしましたが?」
口調こそ丁寧だけれど、めちゃめちゃ拒否られている声色なんですけど?
怪しまれている、というよりは私自身が嫌われてるような感じだけど私何かした!?
ラリーさんの村の件かなぁ。でもあれは差出人はピレネー子爵だった筈。
あぁっ、でも手紙の方ではティアナ・コストと名乗ってたからなぁ。コスト侯爵家を除籍されたのにコスト家の名を使ったのって罪になるから?
「ジョセフ様はご存じでしたか。
昨夜はどうしてもハドソン伯爵様に知らせなければと焦るあまり、過去の家名を使用してしまいました。申し訳ありません。
今は平民ではありますが、自分で商会を立ち上げて生活しております。
本日、伺ったのは商会とは関係の無い話ですのでご安心下さい。」
これで私が商売に来た訳では無いと理解してくれたかなぁ。
「あぁ、そうで御座いましょう。商品をお持ちでない事は見て分かりましたが、旦那様はお忙しいお方ですので、先にご用件を伺ってから案内させて頂きます。
それで旦那様に直接お会いになりたい話、とはどういった内容ですかな。」
うわっ、全然信用されてなかったよ~。
言葉遣いも丁寧そうでいて対応はそうでも無いよね。
荷物は宿に置いてきたとか魔法鞄を持っていると思わないのかなぁ。
まぁ、『とっとと帰れ!』という意味を込めた対応だとは思うけれど、これだけ邪険にされるのって何か理由があるのかな?
でも重要な話だ、って言ってんのに此処で話せ、だなんてどうかと思うよ。
「ふふふ、ジョセフ様は面白いですね。
私はハドソン領にとって非常に重要な話があると言いましたのに、この様な往来で話せ、などと冗談を仰しゃるなんて、もしかして家令アルアルな冗談なのでしょうか?」
首を傾げて思いっきり笑顔で言ったら、後ろでクリスの忍び笑いが聞こえるわ、何故かジョセフさんの斜め後ろに待機している門衛さんは顔を真っ赤にしているわ、でジョセフさんの眉間に思いっきり皺が寄っている。
でもこれぐらい言ってもいいんじゃない?
「・・・・・・これは失礼致しました。
旦那様はただ今仕事中ですので、商談室でお待ち下さい。
ではご案内しますのでどうぞこちらに。」
そう言って案内してくれたんだけどね~。
何でお屋敷の正面では無くて使用人が通る扉の方に案内されるんだろうね。
どんだけ嫌われてるの、私。
商談室に通されても、メイドが入れてくれた紅茶は、『冷めてるよね、コレ』みたいな、、、。
なのに何故かクリスには普通に出て来るって、オイッ!だよ。
普通、私と一緒に来たんだから同じ対応になるんじゃないの?
そうして待つこと約一時間。
もう帰っていい?と何度もクリスに言おうとしたんだけど、クリスはクリスで腕組んで眠ってるし放置出来る話でもないからひたすら待つ事しか出来なかった。
そうしたらいきなりバタンと扉が開いて、驚いて思わずソファーから立ち上がってしまった。
「っ!マリィっ!」
「ぶっ!!」
扉を開いた男性がズカズカと近づいて来たかと思ったら凄い勢いで抱きしめられた。
『キャッ。』なんて可愛いらしい声が出なかったのは、勢いそのままに私の顔が男性胸にぶつかったからだ。
一応、抱きしめられたで合っているよね?
・・・・絞め技じゃ無かったハズ、たぶん。
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ここまでお読み下さりありがとうございます。
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