元虐げられた公爵令嬢は好きに生きている。

しずもり

文字の大きさ
17 / 25
レンとリアの旅 〜過去編〜

リア、怒る 3

 アメリアは生まれながらにして、前世の記憶持ちの転生者だった。

 本人はなどという言葉も、という話が前世で流行っていた事など全く知らない。
知らないが、新しく生まれ変わったこの世界が、日本とも他の国とも違うことにも、成長するにつれ、自ずと気付かされたというべきか。

まあ、気付かない事の方がおかしいだろ、と思うぐらいには色々と違ったのも事実である。


この世界にを持って生まれたアメリアは、当然の如く、精神は前世の延長のようなもの、という風に捉えていた。そう思うのも仕方のない事である。

だって、いつものように眠り、いつものように目を覚まし、『おはようオギャー』と言ったつもりが、アメリア誕生の瞬間だった。・・・みたいな?

自覚なしに前世で天寿を全うし、自覚なしに新たな生を頂いたようなもの。

そこからいきなり年齢通りに過ごせと言われても、それは無理というものだ。

更に言えば、今世でのアメリアを取り巻く環境が、いや、立場というべきか。アメリアが年相応に過ごすには、少々過酷なものであった。


 公爵家当主である父には、政略結婚である母と婚姻する前から相思相愛の恋人がいた。婚姻後には愛人となった元恋人には、父との間にアメリアとそう変わらない歳の子どもがおり、母亡き後は、後妻としてキャロラインと義妹のソフィアが公爵家にやってきた。


それからのアメリアは、使用人以下の暮らしとキャロライン義母ソフィア義妹に虐げられきたのである。

 これが年相応の精神だったら、一年もしないうちに心が潰されていたかもしれない。若しくは自分の生まれも何も理解出来ていないまま、自分自身も身寄りのない子ども、とでも思い込んでいたかもしれない。


 幸いに、というべきかは微妙なところだが、義母と義妹はアメリアを虐げてはいても命を脅かすような真似はしなかった。二人が小心者だったのか。それともそこまでは憎んではいなかったのかは不明だが、暴言は吐いても、命の危険を感じるまでの暴力を振るうような事はなかった。

 食事だって二人は使用人と同じものを食べさせている、と思うだけで満足していたようだ。勝手にアメリアの分の食事を減らし、横取りしていたのは他の使用人たちである。

それだって使用人たちも流石に餓死させるほど奪うような事はしていなかった。一応、アメリアは公爵令嬢だったので、死なれたら不味い、というような認識はあったようだ。とはいっても本当にごく僅かな量ではあったが。

 まあ、そういう環境ではあったので、アメリアは強くならざるを得なかった。元よりアメリア自身も今更、年相応に乳幼児からやり直す、なんていうのは無理があった。だって心はいい歳をしたお婆ちゃんだと思っていたのだから。


けれど、改めてアメリアとして生きてきた人生を振り返ってみれば、幾つもの疑問が浮かんできた。

いい歳をした大の大人。もっと言えば、アメリアの振る舞いはお婆ちゃんのだったのか、と。

勿論、老人の動きだとか、言動が、とかの話ではない。

 前世のことは、色々と覚えている。覚えてはいるのだが、思い出というよりは記録に近い。実は夫の顔も子どもたちも、その孫たちの顔を覚えているのに名前は覚えていない。自分の名前も、だ。

そんな風だったから、前世は前世。今世は今世と、心の中では割り切っていたし、前世過去を懐かしんだり寂しく思うようなこともなかった。

 そうして今世を強く逞しく生きてきた。そのつもりだったし、それは事実だと思っている。そうでなければ、今もあの公爵家で使用人のような暮らしを受け入れて過ごしていたかもしれない。

年相応の子どものままではいられない状況が、アメリアを実年齢以上の精神を持っていると錯覚してしまったのだろうか?

いや、でもに居た時は、振り返ってみても自分は子どもっぽくはなかったような気がする。義妹だけではなく、義母でさえ自分よりも年下のような感覚であしらっていたように思う。


しかし、公爵家を飛び出してからのアメリアの行動を振り返ってみれば、なんとなく、本当になんとなくだが、大人の振る舞いそれとは思えないこともしていたような?


「ああ、。確かに私、まだ十八にもなっていない子どもだったわ」

アメリアの口からぽろりと出た言葉は、すっと心に沁み込んだ。十六歳なんて、到底大人とは呼べない子どもではないか。

前世のアメリアが十六の時はどんなだった?

 その頃の感情は思い出せないが、あれこれ煩い親に反発してただとか、大人の言葉を素直に聞けないこともあった。大人の方が間違っていたこともあったし、自分が間違っていて謝ったことも、謝れなかったこともある。

ではさっきのアメリアの行動はどうだったか?

・・・子どもだ。

ダンジョンが閉鎖している事実を知ってカッとなり、相手レンの言葉に一切聞く耳を持たずに部屋に籠るとか・・・子どもっぽいにも程がある。

せめてレンの言い分を聞くべきだった。聞いてから判断して、文句なり謝罪を求めるなりすれば良かったのだ。


よしっ。レンの話を聞きに行こう!

思い立ったが吉日だ、とアメリアはレンの部屋に行くことにした。そうして部屋を出ようと扉に手をかけると、ごろり。

どうやらアメリアの部屋の扉に寄りかかるようにしてレンが座りこんでいたらしい。突然、扉が開くとは思っていなかったらしいレンが、ごろんと部屋の中へと転がりこんできたのだ。

「・・・レン、何やってるの?」

 まるでダルマが転がるように、部屋の中へと背中から転がりこんできたレンと目が合ったアメリアは、レンの大きく見開いた目と転がる姿が可笑しくて噴き出しそうになる。
笑いを堪える為にポーカーフェイスを装ってレンに話しかければ、アメリアがまだ怒っていると勘違いしたレンは転がっていた体勢から慌てて起き上がった。

「リ、リア!これは、その、リアを監視しようとしてたわけじゃなくて。いや、だから、俺が知らない間に宿屋を飛び出したらって、心配で」

あたふたと早口で言っているレンを見ながら、アメリアはこの旅の道中を思い出していた。最終目的地のないこの旅は、アメリア次第で決まると言っても過言ではない。

 公爵家を飛び出して、取り敢えずは色々な場所に行ってみたいと思っていたアメリアに、レンがおまけのようについてきたとアメリアは思っている。けれどレンがいることで助かっている部分が多いこともアメリアは理解していた。

 だってアメリアは、箱入り娘というには全くもって扱いが違ってはいたけれど、殆ど公爵家から出たことがなかった。本を読んだり公爵家に出入りしている人に聞いた話もあるけれど、実際に屋敷を飛び出してみたら、アメリアが知らなかったことだらけだった。

冒険者になって、ほんの少し人と関わるようになって、アメリアの世界は広がっていったけれど、それもレンがいたからこそだ。

 この世界での旅は前世の世界で旅行するのとはわけが違う。必ず馬車があるわけじゃない。宿屋があるとは限らない。そんな世界での旅では野宿も当たり前で、魔物が出るのが当たり前で、寝ずの番を交代でするのも当たり前だ。

だけどレンはアメリアに寝ずの番をやらせようとはしない。対等であることを何度も主張したアメリアに折れた形で交代するようになったが、それも空が白み始めた頃にアメリアと交代する程度だ。

 レンはアメリアに対して過保護だ。アメリアはそう思っている。けれどアメリアはその過保護を嫌いじゃないな、と近頃はそう思うようになっていた。偶に頭ごなしに駄目だと言われることもあるけれど、それも理由があってのことだ。アメリアのことを本気で心配してくれているからだ。

そんなレンがアメリアを騙すようなことをするだろうか?しかも意味のない嘘を吐いてまで。


「レン。事情を説明して」


ダンジョンが立ち入り禁止になったのをうっかり忘れていただけ。


落ち着いて話を聞いてみると、たったそれだけのこと。

『なぁんだ、そっか。話を聞かないで怒ってごめんなさい。』

アメリアにそんな風に言われてしまえば、レンだって『いや、俺が悪かった』などと落ち着いて答える余裕も出てくるというものだ。

 だが、しかしレンはまだ気付いていなかった。この後、『年相応だから』という謎のフレーズを大義名分として、今まで以上にアメリアが突拍子もない行動に出ることに。そして今まで以上に自分が振り回されることになろうとは、知る由もないレンだった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


ここまでお読み下さりありがとうございます。

「いいね」やエールでの応援もいつもありがとうございます。
感想 0

あなたにおすすめの小説

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!

翠月 瑠々奈
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。 侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。 そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。 私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。 この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。 それでは次の結婚は望めない。 その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。

本当に現実を生きていないのは?

朝樹 四季
恋愛
ある日、ヒロインと悪役令嬢が言い争っている場面を見た。ヒロインによる攻略はもう随分と進んでいるらしい。 だけど、その言い争いを見ている攻略対象者である王子の顔を見て、俺はヒロインの攻略をぶち壊す暗躍をすることを決意した。 だって、ここは現実だ。 ※番外編はリクエスト頂いたものです。もしかしたらまたひょっこり増えるかもしれません。

『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた

歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

22時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

 《完結》 どうぞ、私のことはお気になさらず

ヴァンドール
恋愛
実家の伯爵家では、満足に食事も取らせてもらえず毎日、使用人以上に働かされた。  そして縁談が来たと思ったら火遊び好きな侯爵の隠れ蓑としての婚姻だった。

聖女様はお忙しい

碧井 汐桜香
恋愛
婚約破棄を叩きつけられた聖女はとても忙しかった。