【 完 結 】言祝ぎの聖女

しずもり

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最終話 言祝ぎの聖女

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「ウィル。少し前の私は、新しい年になった瞬間に貴方と居るとは想像もしていませんでした。

少し前の私は言祝ぎの聖女に選ばれていて、そしてそれを奪われて、今はこの場所に立っています。

私が生きてこの場所に立っているのは貴方のお陰。私の祈りがお礼になるかは分かりません。ですが私もこの湖に祈りを捧げたい」


ミーシェはそう言うと、真正面を向いて湖の岸辺に近付いた。そしていつも大神殿でしていたように祈り始める。


 去年、祈りの間に訪れた人々の顔が頭に浮かんでは消えていく。
次に来た時には晴々しい表情になっていた人。以前と同じ様な表情で、前よりももっと真剣に祈り続けていた人。一人で来ていた人が、次には二人で、その次には数人でやって来て誰かの名を呟きながら真剣に祈る姿も見た。

マハークベ神様に祈るのは、祈りを捧げるのは、大神殿にいる聖女たちだけではない。

当たり前だ。

真剣に願い、祈りを捧げる心は、マハークベ神様にきっと届いている。

祈りの間でマハークベ神様に、沢山の人たちが感謝の祈りを捧げていた姿を見てきた。


マハークベ神様、地の神様、水の神様。そして私の知らない多くの神様方へ。


ミーシェは全ての神様に感謝を込めて祈りを捧げる。そうしてこの湖の為にも祈る。



不意に祈りを捧げ続けるミーシェの肩がピクリと上がった。

暫くして後ろを振り返り、困惑したような表情をウィルに向けた。と同時に、二人の足下を何かが通り抜けるような感覚に、二人揃って足下を見た。


 小さな白い何かが風とともに湖の周囲をクルクルと走り回る。やがて周囲に咲いている言祝ぎ草が大きく揺れ出して、とうとう黄色い花弁が風に飛ばされた。

黄色の花弁と白い何かは、旋風に飛ばされて湖の真上で舞い始める。その不思議な光景を二人はただただ呆然と見つめていた。
そうして次の瞬間、風はピタリと止んで湖にフワフワと落ちていった。

白い何かも言祝ぎ草の花弁だったらしい。先ほどまで澄みきった空の色を映し出していた湖は、白と黄色の言祝ぎ草の花弁で埋め尽くされている。

「今のは一体、、、」

自然現象というには不自然な出来事に、ウィルはまだ湖を見つめ続けていた。

「あの、、、」

遠慮がちにミーシェに話しかけられて我に返ったウィルはミーシェが、ウィルが言祝ぎの儀のように神様からの言葉を期待していた、と誤解している可能性に気が付いた。

「ミーシェ。気にしないで。

ただこの湖に祈りを捧げて欲しいと、ふと思ってしまっただけだから」


言祝ぎ草の花弁が風に乗って、湖に舞い落ちただけでも奇跡といえよう。

ウィルはそれだけでも救われた気持ちになったのだから。


「いえっ!あの、、、違うんです。声が、、、声が聞こえたのです」

ミーシェはそう言ってから俯いてしまった。少しの沈黙の後、胸の辺りで手のひらをギュッと握ると、何かを決心した真剣な表情で顔を上げてウィルに視線を合わせた。


「ガーネシアの民の長い夜は、新たな年とともに明けた。

民を想い、身を斬る覚悟を決めた者たちに小さき祝福を、と」


ミーシェは聞こえてきた言葉が湖への祝福では無かった、と思って申し訳なく思ったのだろう。

だがミーシェの言葉を聞いたウィルの心は違った。


これはまるで、みたいじゃないか。


神が見捨てたこの地で、一体からの言葉だというのだろう。
ウィルが考えを巡らそうとしたした瞬間、バシャンっと大きな水音が響いた。
突然の大きな音にミーシェも肩を大きく揺らして振り返る。

波紋とともに花弁がユラユラと幾重にも大きな輪を作っていく湖を見て、ミーシェが言葉を発した。


「魚、でしょうか」

「いや、そんな、、、筈は、、、」

ミーシェの言葉を否定しようとしたウィルは、湖の中央で白い魚が水面から跳ね上がるのを見た。

「あぁ、やっぱり!

でも白色の魚なんて珍しいですね。

もしかしてこの湖の主様だったりして、、、えっ!?」

ミーシェはそう言ってウィルへと振り向くと、驚いた表情のまま涙を流すウィルの姿に驚いて口を閉じる。


「何故、、、どうして。ガーネシアは、、、王、、、は、、、された、のか?」


本人も気付いていないだろう呟きに、ミーシェは黙って見守ることしか出来ない。けれど、その表情に苦しみや悲しみなどの色は見えないので、きっと悪いことではないのだろうと判断した。


それから二人でどれぐらい湖を見続けていただろう。気付かぬ内に言祝ぎ草の花弁は、水面からは消えていて、湖の周囲に咲く言祝ぎ草の花も白色に変わっている。


夢にしてはハッキリしているし、光の加減で見間違えたにしては、存在を主張するように黄色の花弁が一枚、いつの間にかミーシェの手の中に残っていた。


それから森を抜けた場所にあった小さな村に、ミーシェは一先ず住む事になった。
別れを覚悟していたミーシェに、ウィルはあっさりと自分も村で暮らすと言った。


『ミーシェにまだ追手がかけられているかもしれないだろう?それに僕も職務中に逃げ出した逃亡者だ。離れて逃げるよりも一緒に居た方が安全だよ』

ウィルはミーシェに巻き込まれただけなのに、それでもミーシェはウィルの言葉を素直に嬉しいと思った。

 そうして二人はその小さな村に住み始めた。村人は他所からやって来た二人を暖かく迎え入れてくれて、二人は直ぐに村に馴染むことが出来た。


 ウィルは一年経っても、二年経ってもミーシェの傍に居た。ミーシェは湖に祈りを捧げに行くのを日課とし、その隣にはいつもウィルがいて。

気付けば寂しいと感じた湖は、魚だけでなく、水を飲みに来る動物も増え、随分と賑やかになっている。

長年、ガーネシアの民を悩ませた異常気象もスッカリ落ち着いて、国はゆっくりと再生に向かっている。

そう言っていたのは、ある日、二人を訪ねてきたウィルの兄だった。

 それから何年か過ぎて、ウィルの両親が村に移り住む頃には、ミーシェとウィルは一緒に暮らしていた。

ウィルの父さんがミーシェの手を取り、『ありがとう。ありがとう』と涙を流した時にはどうしたら良いのか、と困ったミーシェはウィルを見た。だけど何故かウィルは嬉しそうに微笑んで頷いているだけだった。


 ウィルはミーシェの治癒の力を誰かに話すことはなかった。公表したならミーシェに救い求めてやって来る者は多かっただろう。けれどウィルはそうしなかった。

過ぎた力は争いを生むだけ。ミーシェのその力が必要のない日々が続けば良いとウィルは祈るねがう

それでもいつしかミーシェの下には人が集まる様になっていた。最初は村の女性たちの愚痴を聞いているだけだった。

ミーシェと話すと心が軽くなる、癒されると言われる様になって、それを聞いた人が更に訪れるようになった。ミーシェはただ話を聞くだけだ。

それだけで良いのだ、と皆は笑って言う。そうしてミーシェは彼らの幸せを祈る。


ミーシェはもう不思議な声を聞くことはない。言祝ぎの聖女でもなければ、聖女でもない。

それでも新らたな年を迎えると、過ぎし一年を想い、新しい年を迎えられたことに感謝を込めて祈りを捧げる。


新しい年も良い年でありますように、と。




END


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


当初の予定よりも完結が遅れましたが、拙い作品を最後までお読み下さりありがとうございました。

誤字脱字以外でも、文章や言葉の修正などが後から入ると思いますが、これにて完結となります。

皆様にとって、良い一年となりますように。




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感想 2

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みんなの感想(2件)

しずぽん
2025.01.17 しずぽん

承認不要です。(他の作品へのお礼なので)
ここで述べるべきでは無いと思うのですが、「美化係の聖女様」の復活ありがとうございます。
私の中で一番のお気に入りなので、嬉しくて嬉しくて!気持ちを伝えたくて、こちらで書かせて頂きました。
お掃除という身近な浄化が素敵な発想だと思います。お掃除って、している時は無心になれるし、終わった後は達成感があり、気持ち良いですよね。
他の作品もあり、お忙しいと思いますが、楽しみに待っておりますので、作者様の無理の無いペースで続投して頂ければと希望致します。

解除
しずぽん
2025.01.12 しずぽん

新年を迎え、このお話で優しい気持ちになれました。ざまぁは、あまり好きでは無いので、心を傷める事無く読み切れました。ありがとうございます。
題名も新年に相応しく、素敵だと思います。
何か良い事がありそうな気がします。

2025.01.12 しずもり

感想をありがとうございます。
書きたかったことが伝わるように書けたかな、と何度も書き直しながら書いた話だったので、感想を頂けてとても嬉しいです。

しずぽんさんにとって良い一年になりますように。

解除

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