上 下
2 / 5
Afternoon tea;

Leoなるどダヴィンチ の場合

しおりを挟む
18:46


 時は金なり。

 スプレーで巻かれたように髪先からは雫が、身体からは霧が吹きつけられていた。この様を他者の目に映ることをシュレッダーにかけられる名入りの用紙のように毛嫌いしている。いつもながら、暮れも落ち着いた頃合いを見計らい、トレーニングに励んでいた。
 ランニングシューズが薄汚れている。外灯に照らされ浮かび上がった模様が、蜘蛛の巣にもみえた。水溜まりに散る桜の花弁が季節をも知らせてくれている。この時間はまだ北からの風が吹いているのか、汗が流れた。


~♪(℡)

 画面には【Sea Salt】の文字がやけにハッキリと映し出されていた。


「こんな時に」

 止めていた足のせいで、風がやけに冷たく感じた。風邪を引いていられない。こんな時期に。


~♪(℡)

 無視せざるを得なかった。この場に及んで、無言で居られる場合ではなかったからだ。二度目の着信で、3コールと同時に出た。


 「はい」

 それは重役人からの電話だった。気持ちを隠し、表には察されないように。樹の頭頂部のみが揺れている。きっと天の高いところのみで風が吹かれているのであろう。茂みから猫が一匹飛び出してきた。それ以外には、周囲には人っ子一人もいなかった。

 歩きながらの電話は好かない、というマイルールがある。決まり事には忠実。至って番犬でも主でもあるかのように。淡々とやり取りは続いた。

 電話を切ると、突風が吹いた。スポーツドリンクを手に、開けた蓋が飛ばぬようにグッと握りしめ、歯を食いしばりながら、一歩ずつ歩み出す。
 次第に小走りに。そして走る。颯爽と走り抜ける。


 そして少し先にあったベンチに腰を掛け、画面が暗闇を照らす。

 「Deep GREENから通達が来た」


しおりを挟む

処理中です...