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あの日の出来事を俺は今でも忘れられない。
「………これ、は」
下級の任務から帰ってきた俺は、今で当たり前のように見てきた風景からかけ離れたそれに目を見開き、全身が震えた。
村の真ん中にあった城は崩壊し、周りの建物も崩れていた。
怪我人が次から次へと運ばれ、俺と同じ様にその様に立ち尽くす人たちが沢山いた。
「一体何が起きて………」
誰か事情が分かる人はいないのか、と周りを見渡したときに視界にエクベルトの姿が写り込んだ。
もしかしたらエクベルトなら俺よりは状況が分かるかもしれない、そう思って駆け寄れば、彼の腕の中には血のついた赤子がいたことに気付いた。
「エクベルト………その子」
「っ………」
俺の呼び掛けに酷く驚いた様子を見せたエクベルトは、その赤子を隠そうとした。
だが、相手が俺だと分かって安堵したのか大きなため息を吐いて見せた。
「はぁ………先輩でしたか。お帰りなさい」
「ただいま。それよりその子どうしたの?」
その頃のエクベルトはまだアカデミーに在籍していたけれど、もう下級になる話が出てきていたので面識はあった。
「………先生のお子さんです。あと、この血はこの子のではないのでご安心ください」
「先生のお子さん?」
先生のお子さんを何故エクベルトが抱えている?
その血がその赤子のものではないのなら、一体誰のもの?
「はい………ヨーゼフ君とおっしゃるそうです」
「名前はどうでもいいけど、先生は?それとその血は誰の血なの?」
俺がそう尋ねるとエクベルトは赤子を強く抱き締め、首を大きく横に振った。
「………先生は、もう」
「………これ、は」
下級の任務から帰ってきた俺は、今で当たり前のように見てきた風景からかけ離れたそれに目を見開き、全身が震えた。
村の真ん中にあった城は崩壊し、周りの建物も崩れていた。
怪我人が次から次へと運ばれ、俺と同じ様にその様に立ち尽くす人たちが沢山いた。
「一体何が起きて………」
誰か事情が分かる人はいないのか、と周りを見渡したときに視界にエクベルトの姿が写り込んだ。
もしかしたらエクベルトなら俺よりは状況が分かるかもしれない、そう思って駆け寄れば、彼の腕の中には血のついた赤子がいたことに気付いた。
「エクベルト………その子」
「っ………」
俺の呼び掛けに酷く驚いた様子を見せたエクベルトは、その赤子を隠そうとした。
だが、相手が俺だと分かって安堵したのか大きなため息を吐いて見せた。
「はぁ………先輩でしたか。お帰りなさい」
「ただいま。それよりその子どうしたの?」
その頃のエクベルトはまだアカデミーに在籍していたけれど、もう下級になる話が出てきていたので面識はあった。
「………先生のお子さんです。あと、この血はこの子のではないのでご安心ください」
「先生のお子さん?」
先生のお子さんを何故エクベルトが抱えている?
その血がその赤子のものではないのなら、一体誰のもの?
「はい………ヨーゼフ君とおっしゃるそうです」
「名前はどうでもいいけど、先生は?それとその血は誰の血なの?」
俺がそう尋ねるとエクベルトは赤子を強く抱き締め、首を大きく横に振った。
「………先生は、もう」
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