助けられたのは君だけじゃない

mahiro

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急に現れた和服姿の人たちに強引に連れ去られ、服やメイクなどを施されたと思いきや、身の丈に合わない豪華なホテルに連れられ、何の説明もないまま指定された席に座ること2時間。
着なれない着物に思わず胸に手をやり大きく息を吐き捨てると、きっちりしたスーツを身に纏った男性が現れたかと思えば。


「す、すみません。仁(じん)様なのですが、急用が入りこちらに来れなくなったようです。それでその、この話はなかったことにとも申しておりました」


それでは、と頭を深々と下げたかと思えば私を置いて颯爽と去ってしまった。
仁様とは誰だ?
この話とは何だ?
何をなかったことにするのだ?
と疑問ばかりを浮かばせながら立ち尽くしていると持っていた端末に父から連絡が入った。


「はい」


「おー、もうやることはやったんだ。帰ってこい。そんで仕事が来てるから着替え終わったら行ってこい。あ、時間厳守な」


相変わらず人使いの荒いし、今回のことも仕事のことも何の説明もない。
どうせ何を言っても答える気はないし、それでもなお訊ねようとすると強制的に電話を切られ終了だ。
問いを口にしようとしたのを止め、分かった、とだけ伝え電話切った。
着たことのない上質な和服に手を添えながら立ち上がり、誰も座ることのなかった席を一瞥した後、その場を去った。
会計はあの男性が既に済ましていたらしく、私はそのままホテルを出てすぐに次の現場に向かうことにした。


仕事の依頼はこうだ。
ある学校の生徒の髪の毛を取ってこいという意味が分からないものだった。
何故髪の毛?何に使うんだ?と疑問を持つも、あの父が教えてくれる筈もなく、私は任務遂行のためだけにその生徒がいる学校の前に辿り着いた。
来る途中、上質な着物は脱ぎ、メイクも落とし、動きやすい格好へ着替えてきたが、どうもまだ腹部や胸の辺りの違和感が否めない。

それから意識を反らすように目の前の門を眺める。
こんな山奥に立派な学校があったのか、と姿を隠しながら眺めていると父から送られてきた生徒がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
その学生はピンク色の長い髪の毛が特徴で、身長が170センチと女性としては高い方かもしれない。
目鼻立ちが整っており、モデルをやっていると言われたら納得しそうな人物だった。
そんな彼女の髪の毛を欲しがるなんて、彼女のストーカーか何かから父は依頼を受けたとでも言うのか?
だとしたら凄く嫌なんだが。
でも、これは仕事だ。
やるしかないんだ、と意気込んで一歩足を踏み出した。
次の瞬間。


「あれ?知らない子がいるね?君、誰?」


気配もなく背後に立っていた男に驚き、慌てて距離を取った。
そこには見上げるほどの高身長のここの学生であろう男子生徒が首を傾けながらこちらを見ていた。


「うちの制服でもないし、一体何の用?」


警戒心を隠そうともせず、じっとこちらを見る男子生徒から私も視線を反らさず警戒心を強めた。


「あぁーもしかして訊ねる前に答えろってやつ?なら、答えるよ。一条仁。ねぇ、これでいい?」
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