泣くなといい聞かせて

mahiro

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残り5時間

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露天風呂から見える景色も中も綺麗だし、その後に用意された食事だって俺の好物だらけで文句1つない。
あるとすれば目の前にいる奴に対してだけだ。
風呂に入るときから機嫌が悪く、食べ終わった今も機嫌が悪い。
何なのだ、一体。
まさか、スマホを弄ろうとしたことがバレたか?
いや、それより前から機嫌悪かったしな。
もしや俺の計画がバレたからか?
いやいや、まさかそんな馬鹿な。
いくら勘が良い男とはいえ分かる筈がない。


それにしても残り5時間。
その間にどうにかしなければ。
思えばあっという間だったな。
高校1年で知り合い、2年で友達となり3年生の卒業式で俺から告白し奇跡的に付き合うことになって1年弱が経過した。
それからはお互いに大学もバラバラで高校の時とは異なる生活を送り、その中で隙間を見つけては会いに行くという生活になっていた。
バイトに疲れて連絡が滞ったこともあったし、喧嘩も幾度となくしてきたが、今では良い思い出だな。

こいつのどこが好きなのかと問われれば、何処と具体的には言えん。
口は悪いし悪人面はするし、すぐ暴力振るうし、アキちゃん大好き人間だが、そんな奴でも俺はこいつが好きなのだ。

こんなに好きでも、好きだけではどうしようもないときもあるのだと知ることになるとは思わなかったな。
それを知ることが出来たのがこいつのおかげと考えると、こいつからは学ばされることが多いなと思える。

無音の部屋の中で、奴のスマホが鳴りまた奴は部屋の外に出て行った。
俺はそれを見送り、財布が入っていないファスナーを開けて鍵を入れ込むことに成功した。


こんな雰囲気最悪な中で別れ話を切り出さねばならないとはな。
まぁ、いつもギスギスした雰囲気ではあったから今更か。
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