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「遅い、遅すぎます」
白いブカブカのYシャツに黒いズボンを履いた少年が馬車の真横で腕を組み、こちらを、いえ、ローランドを睨み付けてきた。
茶色の髪は癖っ毛のようで、元気よく跳ね、真ん丸の瞳を吊り上げ口はへの字を描いている。
そんな少年にヘラヘラと笑いながら近付いて行くローランドには怒ってる姿が見えていないのだろうか。
「やぁやぁ、ルーク。お待たせ」
「何が、お待たせ、ですか!他のご子息、ご令嬢はとっくにお帰りになられているというのに貴方は何をしているんですか、またイタズラでもしてきたのですか?!」
「そんなこと初日からするわけないじゃないか。このお嬢さんを待っていただけだよ」
別に待っていてくれと頼んだわけではないのだから謝る必要はないのだけど。
でも、そんなことはこの少年には関わりのないことよね。
「はじめまして、ローレンス・ロブリエ………と申します。この度はお時間をいただきましたことに深く謝罪を申し上げます」
本当にこの名前を口にするのが嫌になる。
自分が本当にローレンスであると認めるようなものだから。
だからって他の名前なんて今の私には何もないのだから仕方ないとは分かっているけれど。
「わっあ、ご丁寧なご挨拶をありがとうございます。あの、僕はルーク・ギルウィーンと申します。僕は別に貴族ではないのでそんな畏まらないでください!ただのローランド様の従者でしかないのです!あと僕が謝って欲しいのはこの人であって貴女様ではないのですよ」
主人を指差す従者なんて始めてみた。
それにこの人呼ばわり。
それを許しているローランドが寛容なのかただお堅いのが嫌いというのを周りに伝え、己が過ごしやすいようにしているだけで特に周りがどうしたいかなんて考えていないのかどちらか分からないが、後者な気がしてならない。
酷いじゃないかルーク、とぶつぶつと言っているローランドは放っておくとして。
「それでしたら私も平民ですので、畏まる必要はありませんよ?」
「へ?!」
そう私が言えば何故か予想だにしなかった方から驚きの声が聞こえて、そちらを向けば何故か口元に手を当てて驚いているローランドがいた。
ルークが驚くなら分かるが、何故貴方が驚く。
「凄いです…ご令嬢のように感じられる立ち振舞いでしたので気付きませんでした」
「俺も気付かなかったぞ?どこかのご令嬢の間違えじゃないのか?」
「そんなわけございません。正真正銘の平民です。この学園には特待生として入学できただけで本来であれば入学も困難な者なのですよ」
「ほー、そうなのか。どっかの公爵令嬢とは大違いだな」
「そうですね………」
どっかの公爵令嬢?
誰のことだと思っていると、寒いですから馬車の中でお話しくださいとルークに中へと押し込められてしまった。
いやいや、これではローランドの思う壺じゃないか。
「いえ、私は自力で帰れます!」
「良いじゃないか、ほら、さっきの公爵令嬢のことが気になるのではないか?顔にそう書いてあるぞ?」
目は見えないからそれ以外の部分がな!と言われて思わず頬に手を当てれば、ローランドに笑われた。
「君は素直で可愛いなぁ」
「可愛くありません!」
どうせ可愛いのはローレンスの顔だけで、私の中身は可愛くない。
その顔だってわざと手入れはしていないし、ローレンスの良さだと思えるもの全てを失くしているのだから、ある筈がない。
「まぁまぁ、そう怒るな。ちゃんと公爵令嬢の話をしてやるから」
白いブカブカのYシャツに黒いズボンを履いた少年が馬車の真横で腕を組み、こちらを、いえ、ローランドを睨み付けてきた。
茶色の髪は癖っ毛のようで、元気よく跳ね、真ん丸の瞳を吊り上げ口はへの字を描いている。
そんな少年にヘラヘラと笑いながら近付いて行くローランドには怒ってる姿が見えていないのだろうか。
「やぁやぁ、ルーク。お待たせ」
「何が、お待たせ、ですか!他のご子息、ご令嬢はとっくにお帰りになられているというのに貴方は何をしているんですか、またイタズラでもしてきたのですか?!」
「そんなこと初日からするわけないじゃないか。このお嬢さんを待っていただけだよ」
別に待っていてくれと頼んだわけではないのだから謝る必要はないのだけど。
でも、そんなことはこの少年には関わりのないことよね。
「はじめまして、ローレンス・ロブリエ………と申します。この度はお時間をいただきましたことに深く謝罪を申し上げます」
本当にこの名前を口にするのが嫌になる。
自分が本当にローレンスであると認めるようなものだから。
だからって他の名前なんて今の私には何もないのだから仕方ないとは分かっているけれど。
「わっあ、ご丁寧なご挨拶をありがとうございます。あの、僕はルーク・ギルウィーンと申します。僕は別に貴族ではないのでそんな畏まらないでください!ただのローランド様の従者でしかないのです!あと僕が謝って欲しいのはこの人であって貴女様ではないのですよ」
主人を指差す従者なんて始めてみた。
それにこの人呼ばわり。
それを許しているローランドが寛容なのかただお堅いのが嫌いというのを周りに伝え、己が過ごしやすいようにしているだけで特に周りがどうしたいかなんて考えていないのかどちらか分からないが、後者な気がしてならない。
酷いじゃないかルーク、とぶつぶつと言っているローランドは放っておくとして。
「それでしたら私も平民ですので、畏まる必要はありませんよ?」
「へ?!」
そう私が言えば何故か予想だにしなかった方から驚きの声が聞こえて、そちらを向けば何故か口元に手を当てて驚いているローランドがいた。
ルークが驚くなら分かるが、何故貴方が驚く。
「凄いです…ご令嬢のように感じられる立ち振舞いでしたので気付きませんでした」
「俺も気付かなかったぞ?どこかのご令嬢の間違えじゃないのか?」
「そんなわけございません。正真正銘の平民です。この学園には特待生として入学できただけで本来であれば入学も困難な者なのですよ」
「ほー、そうなのか。どっかの公爵令嬢とは大違いだな」
「そうですね………」
どっかの公爵令嬢?
誰のことだと思っていると、寒いですから馬車の中でお話しくださいとルークに中へと押し込められてしまった。
いやいや、これではローランドの思う壺じゃないか。
「いえ、私は自力で帰れます!」
「良いじゃないか、ほら、さっきの公爵令嬢のことが気になるのではないか?顔にそう書いてあるぞ?」
目は見えないからそれ以外の部分がな!と言われて思わず頬に手を当てれば、ローランドに笑われた。
「君は素直で可愛いなぁ」
「可愛くありません!」
どうせ可愛いのはローレンスの顔だけで、私の中身は可愛くない。
その顔だってわざと手入れはしていないし、ローレンスの良さだと思えるもの全てを失くしているのだから、ある筈がない。
「まぁまぁ、そう怒るな。ちゃんと公爵令嬢の話をしてやるから」
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