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私が『アルレート・アミネ』だったとき、『ローレンス』と初めて直接会ったのは、2年に上がった春の出来事だったと思う。
そのとき彼女はドミニク殿下にびったりとくっつき大口を開けて笑っていた覚えがある。
周りが平民だから仕方ないという目線で彼女を見ていたのを一緒に眺めていた気がする。
それが何故今日、こんな所で出会うのだろうか。
「………あの男今朝はよくもやってくれたじゃない!」
それもこんな場面に出会すとは誰も予想できないだろう。
男性のお手洗いのドアの目の前で今朝のローランド同様にぶつぶつと愚痴を漏らしていたアルレートに目にした。
普通の平民であれば頭を下げてからご令嬢の前を通らなくてはならない。
それが例え男性のお手洗い前にいるご令嬢だろうが。
ここは素通りさせて貰えないだろうか。
気付かなかったってことにして。
いえ、それは駄目よね。
ローランドに言ったばかりじゃないか、周りの評価はどうあれ相手はご令嬢であると。
それにこちらから話しかけたりせず、頭を下げて何事もなかったかのように去れば良いだけ。
不用意に近付いたり関わったりしなくて良い筈。
そう思って足を止めて頭を軽く下げたら、何故か愚痴を漏らしていた彼女の言葉が急に止まった。
気付かなくて良いのに、こちらに気付いてしまったか。
「………ねぇ、あんた名前は?」
いきなりのあんた呼ばわり。
初対面の相手にそれは失礼すぎじゃないのか。
そうは思うけれど、こちらが身分は低いのだから我慢しなくては。
「初めまして、私、ローレンス・ロブリエと申します」
「『ローレンス・ロブリエ』?嘘でしょ?何その髪、何その身体!?」
いきなり私の長い前髪に触れてこようとするので、慌ててそれを回避すれば、アルレートはいきなり怒りだした。
「私、そんな貧相じゃなかったし、髪だってそんな短くなかったもん!」
『私』?
この言い方では前の『ローレンス・ロブリエ』を知っているかのような言い方だ。
いや、知っているのだろう。
彼女は以前の『ローレンス・ロブリエ』なのだから。
やはりそうだったか。
そうなのではないかと昨日の一件などで思っていたが、本当にそうだったとは。
つまり、私たちは中身が入れ替わった状態で時を戻しているのだということ。
この女のせいで私はあんな人生を送るはめになったわけだが、昨日と朝の一件でもう私は何も思わないこととした。
「あんた誰よ?!」
怒りに任せたまま、アルレートに肩を掴まれ痛みに顔を歪めれば、アルレートは薄く笑った。
「まぁ、あんたが誰でも良いわ。こんな貧相で不細工な『ローレンス』なら殿下は絶対に好きにならない。今までずっとあんたの登場にビクついていたけど、何の心配もいらないみたいで安心しちゃった。言っとくけど、ドミニク様は私のものだからあんたの出る幕なんてないの。そのまま引っ込んでなさい!」
勢いをつけて肩を後ろに押され、バランスを崩して廊下に倒れ込んでしまった。
痛い、何してくれんのこの女。
本当に好きになれないわ。
私も彼女の服だとか飲み物だとか暗殺だとか考えて実践してきたから人のこと言える立場じゃないけど、初対面でこれははっきり言ってない。
周りには私以外の人たちも見ていたから、目撃者は多いから他の人が聞いたら意味の分からない会話を聞いていただろうし、私を突き飛ばしたのも見ていたことだろう。
普通、こういったことは問題となりやすいから目撃者の少ないところで行うことが多いのだけれど、ここは誰もが通る廊下の途中にある男性のお手洗いのドアの目の前。
私はたまたま階段を登って正面に彼女がいたから挨拶しただけのこと。
でも、良かった。
階段まで突き飛ばされなくて。
下手したら頭打っていたかもしれないし、怪我もしていたかもしれない。
そうなるかもしれないと彼女は想像できなかったのだろうか、いや、出来ないだろうな。
考えられるような人物だとも思えないし。
「なぁ、朝の謝罪はなくて良いか?ドミニク」
そこに聞いたことのないトゲのあるローランド声が背後から聞こえてきた。
俯いていた顔をそのまま背後に向ければ、私の奥に視線を向けたローランドが真顔でいた。
昨日も朝も何かしらの表情を浮かべていた人だからこんな表情初めて見た。
そりゃまだ2日でローランドの全ての表情を見れるわけがないが、こんな人形のような表情を浮かべるなんて滅多にないことだと感覚的に分かる。
元々綺麗な顔をしているから真顔になると迫力があるものだ。
「俺の大事な友人が意味不明な言動で突き飛ばされたのだが、謝罪は必要ないよな?」
再度確かめるようにローランドがそう言い、私の片方の肩に手を置き、もう片方の手は私の目の前に差し出された。
「………不要だ。これに関しては完全にこちらに非があるからな。そちらの者から何を言われてもこちらは言い返せん」
ローランドの手に私の手を差し出せば、ゆっくりと立ち上がらせてくれた。
その後、ローランドに肩を寄せられ、ローランドを一度見てから正面を見ればアルレートの真後ろからドミニク殿下が頭を抱えていらっしゃった。
いつからこの二人が居たのかは分からないが、二人は成り行きを見ていたような口ぶりだ。
「あぁ!ローランド、あんた朝はよくも!」
状況が全く分かっていないのだろうアルレートは私の隣にいるローランドを指差し、怒り出したがローランドが無表情のままそちらを見たことでアルレートも流石に何か察したのか口を閉じた。
「アルレート、お前は俺のことを言う前に自分の行いを反省しろ。いいな」
アルレートは何か言い出しそうになったが、それをドミニク殿下が止め、私とローランドに先に行くようにと告げられた。
「ドミニク、次、彼女にアルレートが何かをしたならば、俺はアルレートを許さない。良いな?」
お前の返事は聞く気はないけどな、とそう言ってローランドは私の肩を寄せながら歩き、保健室へと向かうことになった。
そのとき彼女はドミニク殿下にびったりとくっつき大口を開けて笑っていた覚えがある。
周りが平民だから仕方ないという目線で彼女を見ていたのを一緒に眺めていた気がする。
それが何故今日、こんな所で出会うのだろうか。
「………あの男今朝はよくもやってくれたじゃない!」
それもこんな場面に出会すとは誰も予想できないだろう。
男性のお手洗いのドアの目の前で今朝のローランド同様にぶつぶつと愚痴を漏らしていたアルレートに目にした。
普通の平民であれば頭を下げてからご令嬢の前を通らなくてはならない。
それが例え男性のお手洗い前にいるご令嬢だろうが。
ここは素通りさせて貰えないだろうか。
気付かなかったってことにして。
いえ、それは駄目よね。
ローランドに言ったばかりじゃないか、周りの評価はどうあれ相手はご令嬢であると。
それにこちらから話しかけたりせず、頭を下げて何事もなかったかのように去れば良いだけ。
不用意に近付いたり関わったりしなくて良い筈。
そう思って足を止めて頭を軽く下げたら、何故か愚痴を漏らしていた彼女の言葉が急に止まった。
気付かなくて良いのに、こちらに気付いてしまったか。
「………ねぇ、あんた名前は?」
いきなりのあんた呼ばわり。
初対面の相手にそれは失礼すぎじゃないのか。
そうは思うけれど、こちらが身分は低いのだから我慢しなくては。
「初めまして、私、ローレンス・ロブリエと申します」
「『ローレンス・ロブリエ』?嘘でしょ?何その髪、何その身体!?」
いきなり私の長い前髪に触れてこようとするので、慌ててそれを回避すれば、アルレートはいきなり怒りだした。
「私、そんな貧相じゃなかったし、髪だってそんな短くなかったもん!」
『私』?
この言い方では前の『ローレンス・ロブリエ』を知っているかのような言い方だ。
いや、知っているのだろう。
彼女は以前の『ローレンス・ロブリエ』なのだから。
やはりそうだったか。
そうなのではないかと昨日の一件などで思っていたが、本当にそうだったとは。
つまり、私たちは中身が入れ替わった状態で時を戻しているのだということ。
この女のせいで私はあんな人生を送るはめになったわけだが、昨日と朝の一件でもう私は何も思わないこととした。
「あんた誰よ?!」
怒りに任せたまま、アルレートに肩を掴まれ痛みに顔を歪めれば、アルレートは薄く笑った。
「まぁ、あんたが誰でも良いわ。こんな貧相で不細工な『ローレンス』なら殿下は絶対に好きにならない。今までずっとあんたの登場にビクついていたけど、何の心配もいらないみたいで安心しちゃった。言っとくけど、ドミニク様は私のものだからあんたの出る幕なんてないの。そのまま引っ込んでなさい!」
勢いをつけて肩を後ろに押され、バランスを崩して廊下に倒れ込んでしまった。
痛い、何してくれんのこの女。
本当に好きになれないわ。
私も彼女の服だとか飲み物だとか暗殺だとか考えて実践してきたから人のこと言える立場じゃないけど、初対面でこれははっきり言ってない。
周りには私以外の人たちも見ていたから、目撃者は多いから他の人が聞いたら意味の分からない会話を聞いていただろうし、私を突き飛ばしたのも見ていたことだろう。
普通、こういったことは問題となりやすいから目撃者の少ないところで行うことが多いのだけれど、ここは誰もが通る廊下の途中にある男性のお手洗いのドアの目の前。
私はたまたま階段を登って正面に彼女がいたから挨拶しただけのこと。
でも、良かった。
階段まで突き飛ばされなくて。
下手したら頭打っていたかもしれないし、怪我もしていたかもしれない。
そうなるかもしれないと彼女は想像できなかったのだろうか、いや、出来ないだろうな。
考えられるような人物だとも思えないし。
「なぁ、朝の謝罪はなくて良いか?ドミニク」
そこに聞いたことのないトゲのあるローランド声が背後から聞こえてきた。
俯いていた顔をそのまま背後に向ければ、私の奥に視線を向けたローランドが真顔でいた。
昨日も朝も何かしらの表情を浮かべていた人だからこんな表情初めて見た。
そりゃまだ2日でローランドの全ての表情を見れるわけがないが、こんな人形のような表情を浮かべるなんて滅多にないことだと感覚的に分かる。
元々綺麗な顔をしているから真顔になると迫力があるものだ。
「俺の大事な友人が意味不明な言動で突き飛ばされたのだが、謝罪は必要ないよな?」
再度確かめるようにローランドがそう言い、私の片方の肩に手を置き、もう片方の手は私の目の前に差し出された。
「………不要だ。これに関しては完全にこちらに非があるからな。そちらの者から何を言われてもこちらは言い返せん」
ローランドの手に私の手を差し出せば、ゆっくりと立ち上がらせてくれた。
その後、ローランドに肩を寄せられ、ローランドを一度見てから正面を見ればアルレートの真後ろからドミニク殿下が頭を抱えていらっしゃった。
いつからこの二人が居たのかは分からないが、二人は成り行きを見ていたような口ぶりだ。
「あぁ!ローランド、あんた朝はよくも!」
状況が全く分かっていないのだろうアルレートは私の隣にいるローランドを指差し、怒り出したがローランドが無表情のままそちらを見たことでアルレートも流石に何か察したのか口を閉じた。
「アルレート、お前は俺のことを言う前に自分の行いを反省しろ。いいな」
アルレートは何か言い出しそうになったが、それをドミニク殿下が止め、私とローランドに先に行くようにと告げられた。
「ドミニク、次、彼女にアルレートが何かをしたならば、俺はアルレートを許さない。良いな?」
お前の返事は聞く気はないけどな、とそう言ってローランドは私の肩を寄せながら歩き、保健室へと向かうことになった。
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