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今、お嬢様と言われた気がして恐る恐るジュリアンの顔を見れば懐かしむような表情で『私』を見ていた。
まさか、前の記憶があるというのか。
アルレートやオデットだけでなく、ジュリアンまでも。
「………目が覚めたときに、私はアミネ家にいました。一体何が起きたのかと思いましたよ。お嬢様が去った後、私もこの世を自ら去ったのですから。なのに、またここで目を覚ますなど何の悪夢かと思いました」
『私』と関わっていたから無事では済まなかったであろうことは予想できたが、まさか自ら去っていたとは予想外だ。
思わず握られていた手を握り返せば、その手を優しく包まれた。
「お嬢様の居ない、あの屋敷はただただ息の詰まる空間でしか私はなかったのです。いくらアルレート・アミネ様が近くにいらしてもあの方を私の主だとは認めたくありません。私が認めた主は貴女様だけなのです」
「その気持ちは大変嬉しいけれど、私は今、貴女を雇える立場でもなければお金も何もないわ」
『私』を知る人物で最期まで味方であったジュリアンを欺くことは出来ず、そう言いながら首を横に振ればジュリアンは困ったように笑った。
「分かっています。貴女様の噂を耳にして今は平民として暮らされているのだと知りました。バイトも始められたと情報を得ています。だからこそ、今回の話を利用しようとしたのです」
「今回の話?」
私が国王陛下や王妃様の依頼通り、ドミニク殿下と距離を詰めさせることだろうか。
「はい。私はドミニク殿下とお嬢様に仲睦まじくなって欲しいと心から望んでいるわけではありません。結果的にそうなれば良いと考えていますが、私の望みはそこではございません」
ジュリアンは真っ直ぐに私を見つめたまま、言った。
「私がアミネ家を出て貴女様をどんな形であれお仕えすること。それが私の望みです。この望みが叶うのであれば、たとえ、貴女様を捕らえた城で働くことですら耐えられるのです」
まさか、前の記憶があるというのか。
アルレートやオデットだけでなく、ジュリアンまでも。
「………目が覚めたときに、私はアミネ家にいました。一体何が起きたのかと思いましたよ。お嬢様が去った後、私もこの世を自ら去ったのですから。なのに、またここで目を覚ますなど何の悪夢かと思いました」
『私』と関わっていたから無事では済まなかったであろうことは予想できたが、まさか自ら去っていたとは予想外だ。
思わず握られていた手を握り返せば、その手を優しく包まれた。
「お嬢様の居ない、あの屋敷はただただ息の詰まる空間でしか私はなかったのです。いくらアルレート・アミネ様が近くにいらしてもあの方を私の主だとは認めたくありません。私が認めた主は貴女様だけなのです」
「その気持ちは大変嬉しいけれど、私は今、貴女を雇える立場でもなければお金も何もないわ」
『私』を知る人物で最期まで味方であったジュリアンを欺くことは出来ず、そう言いながら首を横に振ればジュリアンは困ったように笑った。
「分かっています。貴女様の噂を耳にして今は平民として暮らされているのだと知りました。バイトも始められたと情報を得ています。だからこそ、今回の話を利用しようとしたのです」
「今回の話?」
私が国王陛下や王妃様の依頼通り、ドミニク殿下と距離を詰めさせることだろうか。
「はい。私はドミニク殿下とお嬢様に仲睦まじくなって欲しいと心から望んでいるわけではありません。結果的にそうなれば良いと考えていますが、私の望みはそこではございません」
ジュリアンは真っ直ぐに私を見つめたまま、言った。
「私がアミネ家を出て貴女様をどんな形であれお仕えすること。それが私の望みです。この望みが叶うのであれば、たとえ、貴女様を捕らえた城で働くことですら耐えられるのです」
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