氷の魔術師(引きこもり)のはずなのに、溺愛されても困ります。

入海月子

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どうして私?②

「手始めに、ちゃんと演習に出るようにしてくれ」
「魔術師団に属しているのに、本当に演習さえも出てないんですか? それって義務では?」
「義務に決まってるだろう」

 あきれたサナリに、魔術師団長はムッとして答えた。
 師団長の言うことを聞かないという噂は本当だったんだとサナリの顔が引き攣る。
 そんな人を手懐けることなどできるのかと疑問に思った。

「手始めにって、それ以上もあるってことですよね?」

 条件をしっかり決めないとなにをさせられるかわからないと思って、サナリはつっこんで聞いた。
 師団長は嫌な笑いを浮かべて明言を避ける。

「ごちゃごちゃ言う前に、まずは俺の役に立つんだな。話はそれからだ」
「……わかりました」

 あまり怒らせるとこの話自体を撤回されそうで、サナリは不本意ながらうなずいた。
 奪われた領地が取り戻せるなんて考えてもみなかったが、チャンスがあるなら、父や領民のために、とりあえずやってみようと思ったのだ。
 
「それでは、早速シーファのところに行くぞ」
「今からですか?」
「あぁ。私は忙しいんだ。時間が惜しい」

 サナリは拙速にことを運ぼうとする魔術師団長に連れられて、シーファの研究室へ行った。
 有能であるのと協調性がないのとで、彼には個室が与えられている。優遇されているのか、閉じ込められているのか微妙なところだ。
 シーファは魔物討伐がないときは、ひたすらここに引きこもって魔法陣を描いたり、魔具を研究したりしている。彼の作る防御魔法の魔法陣は強力で、騎士たちの取り合いになっているという。

「シーファ、いるんだろ?」

 ノックと同時にドアを開けた魔術師団長は、机の上の大きな石を見て、顔をしかめた。
 ひと抱えほどある石だった。

(なんでこんなところに石が? なにかの素材かしら?)

 不自然に大きな石の存在にサナリは首を傾げる。
 石の他には毒々しい色の液体が入った瓶や解体された魔具が所狭しと転がっていた。

「また石になってるのか! せっかくお前が要望したサナリ・トッレを連れてきてやったのに」

 いらだったように石に話しかけた団長に、サナリはますます首をひねる。
 でも、次の瞬間、ゴロッと石が勝手に動き出し、机から落ちた――と思ったら、そこには美麗な男性が佇んでいた。

(石が人に!? 石に変身してたの!?)

「シーファ・ガレッティ……」
「うん。こんにちは、サナリ」

 あ然としてサナリが彼の名をつぶやくと、夕闇色の瞳をきらめかせて、シーファは微笑んだ。
 その濃紺の瞳は吸い込まれそうに美しく、サナリの心拍数があがった。

「なっ、シーファが笑った……!」

 魔術師団長が驚愕して声をあげ、サナリも意外に思った。
 シーファは笑わないという噂だったからだ。

「案内、どうも。もう行っていいよ」

 シーファはサナリを見つめ、師団長には目もむけないまま、追い払うように言った。傍若無人とはこのことだった。
 師団長は青筋を立てたが、熱いまなざしでサナリを見つめるシーファの様子を見て、気を変えたようだ。

「ふん。うまくやるんだな」

 唇をゆがめて、師団長はサナリにそうささやくと、乱暴にドアを開けて出ていった。
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