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指名の理由①
魔術師団長を見送ったサナリは、シーファに目を戻す。
彼はじっと彼女を見つめていた。
(なんでこの人はこんな目で私を見るんだろう?)
「あの、サナリ・トッレです。あなたとお会いしたこと、ありましたか?」
「来てくれて、うれしいよ、サナリ。とりあえず、ここに座って。ココア飲む?」
サナリの質問には答えず、シーファはにこやかにソファーを指し示した。
シーファ・ガレッティは超絶美形だけど、人嫌いで、不遜で、いつも無表情。氷魔法が得意で、魔物を氷漬けにすることから『氷柱の貴公子』と呼ばれてる、はずだった。少なくとも、サナリが聞いてた噂ではそうだった。
サナリは、隣に座り、蕩けるような笑みを浮かべたシーファをしげしげと眺める。
(師団長も驚いてたから、これが通常の彼ってわけでもなさそうよね?)
間をもたせるために、シーファが手ずから作ってくれたココアを一口飲む。べらぼうに甘かった。砂糖を山盛り三杯も入れていたから当然だった。
「あの、それで、あなたの世話係をするように言われたんですが、私はなにをしたらいいでしょうか?」
とりあえず、乱雑に散らかった研究室を片づけねばと思いながら、サナリは聞いた。
今、サナリが使っているカップも机の上に放置されてたのを洗ったものだったし、ソファーも本や荷物が乗っていたのをどかして座ったぐらいだった。
サナリの当然の質問に、シーファは首を傾げた。
さらりと紫がかった美しい銀髪が揺れる。
「ん~、べつになにも?」
「なにも?」
「あっ、朝にココアを作って欲しいな。朝弱いんだ」
「それだけですか?」
「うん、今思いつくのはそれくらいかな」
大真面目にうなずいたシーファに、サナリは肩透かしを食った。
わざわざ自分を世話係に指名しておいて、なにもないとはどういうことだと思う。
(そうだ! その謎も解けてなかったわ!)
「ガレッティさん、どうして私を――」
「シーファって呼んでよ。僕もサナリって呼んでいい?」
さっきから勝手にそう呼んでたくせに、シーファはサナリの言葉に被せるように言った。
人の話を聞かないのは噂通りかも、とサナリは溜め息をついた。
貴族でなくなって、はや三年。今さら敬称をつけてもらいたいとも思わない。
サナリはうなずいて、質問を続けようとした。
「はい。なんとでも呼んでください。それで、シーファさん」
「シーファ」
「……シーファ、どうして私を世話係に指名したんですか?」
ようやく遮られずに質問を言い切れたサナリだったが、彼の返事にさらに困惑した。
「サナリだから」
まったくもって理由になっていない回答だった。
だからといって、彼はごまかそうとしているわけではないようで、なんでも聞いてというように、にこにこと彼女を見つめている。
「私だからって、どういうことですか?」
「癒やされるんだ」
「癒やされる? どうして?」
「どうしてって言われても、わからない。ただ君を見ると心がほわっと温かくなる」
そう言って浮かべた彼の表情こそ人を蕩けさせるほど輝かしいものだった。
サナリは思わず目を奪われてしまう。
そんな美形に癒やされると言われるのはまんざらでもない。しかし、自分が指名された理由としてはやはりフワッとしすぎている。納得できなかったサナリは質問を重ねた。
「そうですか……。じゃあ、どこで私を知ったんですか?」
「廊下ですれ違った」
「すれ違った? それだけですか?」
「甘い魔力の香りがしたんだ」
「魔力が甘い、ですか?」
「うん。ちなみにさっきの魔術師団長の魔力は苦い」
天才と呼ばれる魔術師の言うことはさっぱりわからないとサナリは肩をすくめた。
人は皆、なんらかの魔力を持っているけど、それを使えるのは魔術師だけだ。でも、魔力に香りがあるなんて話は聞いたことがなかった。
彼はじっと彼女を見つめていた。
(なんでこの人はこんな目で私を見るんだろう?)
「あの、サナリ・トッレです。あなたとお会いしたこと、ありましたか?」
「来てくれて、うれしいよ、サナリ。とりあえず、ここに座って。ココア飲む?」
サナリの質問には答えず、シーファはにこやかにソファーを指し示した。
シーファ・ガレッティは超絶美形だけど、人嫌いで、不遜で、いつも無表情。氷魔法が得意で、魔物を氷漬けにすることから『氷柱の貴公子』と呼ばれてる、はずだった。少なくとも、サナリが聞いてた噂ではそうだった。
サナリは、隣に座り、蕩けるような笑みを浮かべたシーファをしげしげと眺める。
(師団長も驚いてたから、これが通常の彼ってわけでもなさそうよね?)
間をもたせるために、シーファが手ずから作ってくれたココアを一口飲む。べらぼうに甘かった。砂糖を山盛り三杯も入れていたから当然だった。
「あの、それで、あなたの世話係をするように言われたんですが、私はなにをしたらいいでしょうか?」
とりあえず、乱雑に散らかった研究室を片づけねばと思いながら、サナリは聞いた。
今、サナリが使っているカップも机の上に放置されてたのを洗ったものだったし、ソファーも本や荷物が乗っていたのをどかして座ったぐらいだった。
サナリの当然の質問に、シーファは首を傾げた。
さらりと紫がかった美しい銀髪が揺れる。
「ん~、べつになにも?」
「なにも?」
「あっ、朝にココアを作って欲しいな。朝弱いんだ」
「それだけですか?」
「うん、今思いつくのはそれくらいかな」
大真面目にうなずいたシーファに、サナリは肩透かしを食った。
わざわざ自分を世話係に指名しておいて、なにもないとはどういうことだと思う。
(そうだ! その謎も解けてなかったわ!)
「ガレッティさん、どうして私を――」
「シーファって呼んでよ。僕もサナリって呼んでいい?」
さっきから勝手にそう呼んでたくせに、シーファはサナリの言葉に被せるように言った。
人の話を聞かないのは噂通りかも、とサナリは溜め息をついた。
貴族でなくなって、はや三年。今さら敬称をつけてもらいたいとも思わない。
サナリはうなずいて、質問を続けようとした。
「はい。なんとでも呼んでください。それで、シーファさん」
「シーファ」
「……シーファ、どうして私を世話係に指名したんですか?」
ようやく遮られずに質問を言い切れたサナリだったが、彼の返事にさらに困惑した。
「サナリだから」
まったくもって理由になっていない回答だった。
だからといって、彼はごまかそうとしているわけではないようで、なんでも聞いてというように、にこにこと彼女を見つめている。
「私だからって、どういうことですか?」
「癒やされるんだ」
「癒やされる? どうして?」
「どうしてって言われても、わからない。ただ君を見ると心がほわっと温かくなる」
そう言って浮かべた彼の表情こそ人を蕩けさせるほど輝かしいものだった。
サナリは思わず目を奪われてしまう。
そんな美形に癒やされると言われるのはまんざらでもない。しかし、自分が指名された理由としてはやはりフワッとしすぎている。納得できなかったサナリは質問を重ねた。
「そうですか……。じゃあ、どこで私を知ったんですか?」
「廊下ですれ違った」
「すれ違った? それだけですか?」
「甘い魔力の香りがしたんだ」
「魔力が甘い、ですか?」
「うん。ちなみにさっきの魔術師団長の魔力は苦い」
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