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演習後②
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魔術師団長が怒って部屋を出ていってから、改めてサナリは彼のもとへ呼び出された。
「あいつをもっとコントロールしないか!」
師団長の執務室に入るなり、サナリは怒鳴られた。
彼の怒りはまだ治まっておらず、イライラと指で机を叩いている。
「そんなこと言われても、シーファは私の言うことを聞きませんよ」
そう返したサナリに、師団長は歪んだ笑みを見せた。
「聞くさ。ベタ惚れみたいじゃないか。お前がその気になったら、ああいう男は勝手にお前のために動いてくれるようになる」
「そんなわけないじゃないですか!」
傍から見るとそんなふうに見えたのかと、顔を赤くしてサナリは否定するけれど、師団長は取り合わなかった。
「今回だって、あのシーファを連れてきたじゃないか。次回からはちゃんと最初から参加させるんだな。二週間後だ」
「最初から? 自信ありませんが……」
「やるんだ。キスの一つでもしてお願いすれば聞いてくれるさ」
「そんなことできません!」
サナリは激しくかぶりを振った。
そんなことをするつもりはなかったし、それでシーファが動くとはとても思えなかった。
(彼が動くとしたら……)
サナリはシーファの行動パターンを思い浮かべた。
その思考を遮るように師団長が言う。
「するさ、お前は」
そう言って、師団長はポンッと机の上に、書類の束を放った。
読んでみろと言われて、サナリは書類を取り上げた。
――このたびの増税につきまして、困窮した私どもをどうか憐れに思い、侯爵閣下がご慈悲をかけて下さりますよう、切にお願い申し上げます。
「これは……」
サナリは手にした書類をまじまじと見る。
それは嘆願書だった。
今年は嵐の直撃に遭い、収穫直前のブドウが駄目になった地域も多く、かつてないほどの不作になった。そのうえ、いつもより重い税をかけられて、アルザラス地方の農民が困窮していると書いてある。
このままでは冬も越せないので、増税分を考え直してほしいという訴えだった。
「増税は来年だったんじゃないんですか!?」
「そんなの父上の勝手だろ。かわいそうにな。なんとかしてやりたいよな?」
ニヤニヤと笑って見てくる師団長に腹が立って、サナリは唇を噛んだ。
かつての領民を守りたいという気持ちと、シーファに色じかけをしろと言われた反発とで、サナリは悔しさでいっぱいになる。
「俺はシーファを演習に参加させろと至極まともなことを言ってるだけだ。そうだろ?」
「そう、ですけど……」
色じかけより、きっとシーファはサナリが困ったことになっていると告げれば、嫌々でも演習に参加してくれる気がしていた。
この間みたいに、サナリが他の魔術師の担当にされるかもしれないと言えば。
(でも……)
演習の参加はサナリの想定内だった。しかし、嘆願書まで出してきて自分を追い詰めようとする師団長に、彼の要求がそれで終わるとは思えず、不気味に思えた。
彼がいったい自分になにをさせようとしているのかを考えると、このまま彼の言うことを聞いていいのかとサナリはためらうのだった。
「あいつをもっとコントロールしないか!」
師団長の執務室に入るなり、サナリは怒鳴られた。
彼の怒りはまだ治まっておらず、イライラと指で机を叩いている。
「そんなこと言われても、シーファは私の言うことを聞きませんよ」
そう返したサナリに、師団長は歪んだ笑みを見せた。
「聞くさ。ベタ惚れみたいじゃないか。お前がその気になったら、ああいう男は勝手にお前のために動いてくれるようになる」
「そんなわけないじゃないですか!」
傍から見るとそんなふうに見えたのかと、顔を赤くしてサナリは否定するけれど、師団長は取り合わなかった。
「今回だって、あのシーファを連れてきたじゃないか。次回からはちゃんと最初から参加させるんだな。二週間後だ」
「最初から? 自信ありませんが……」
「やるんだ。キスの一つでもしてお願いすれば聞いてくれるさ」
「そんなことできません!」
サナリは激しくかぶりを振った。
そんなことをするつもりはなかったし、それでシーファが動くとはとても思えなかった。
(彼が動くとしたら……)
サナリはシーファの行動パターンを思い浮かべた。
その思考を遮るように師団長が言う。
「するさ、お前は」
そう言って、師団長はポンッと机の上に、書類の束を放った。
読んでみろと言われて、サナリは書類を取り上げた。
――このたびの増税につきまして、困窮した私どもをどうか憐れに思い、侯爵閣下がご慈悲をかけて下さりますよう、切にお願い申し上げます。
「これは……」
サナリは手にした書類をまじまじと見る。
それは嘆願書だった。
今年は嵐の直撃に遭い、収穫直前のブドウが駄目になった地域も多く、かつてないほどの不作になった。そのうえ、いつもより重い税をかけられて、アルザラス地方の農民が困窮していると書いてある。
このままでは冬も越せないので、増税分を考え直してほしいという訴えだった。
「増税は来年だったんじゃないんですか!?」
「そんなの父上の勝手だろ。かわいそうにな。なんとかしてやりたいよな?」
ニヤニヤと笑って見てくる師団長に腹が立って、サナリは唇を噛んだ。
かつての領民を守りたいという気持ちと、シーファに色じかけをしろと言われた反発とで、サナリは悔しさでいっぱいになる。
「俺はシーファを演習に参加させろと至極まともなことを言ってるだけだ。そうだろ?」
「そう、ですけど……」
色じかけより、きっとシーファはサナリが困ったことになっていると告げれば、嫌々でも演習に参加してくれる気がしていた。
この間みたいに、サナリが他の魔術師の担当にされるかもしれないと言えば。
(でも……)
演習の参加はサナリの想定内だった。しかし、嘆願書まで出してきて自分を追い詰めようとする師団長に、彼の要求がそれで終わるとは思えず、不気味に思えた。
彼がいったい自分になにをさせようとしているのかを考えると、このまま彼の言うことを聞いていいのかとサナリはためらうのだった。
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