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外に出る訓練
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「ねぇ、食堂に行ってみませんか?」
「ムリ」
気を取り直したサナリが誘うと、シーファは即答した。
それでも彼女は精一杯、シーファを誘惑しようとする。
「焼き立てのホットケーキを食べたくないですか? バターとハチミツが蕩けるとびきり美味しいのを。たっぷりのホイップクリームを添えてもいいですね」
甘いもの好きなシーファがゴクリとツバを吞む。
これはいけるかもとサナリが期待する。
「ホットケーキ……。先生がいたときに何度か食べたことがある。すごくおいしかった」
「食堂でですか?」
「ううん、先生が持ってきてくれた。サナリみたいに」
「そうですか。食堂の出来立てのホットケーキはもっとおいしいですよ?」
「だけど、僕は猫舌だし、熱くなくていいよ……」
惹かれた様子のシーファだったが、はっと気づいて、また首を横に振る。
もうひと押しと、サナリはどうにかハードルを下げようとする。
「今の時間なら、食堂にそんなに人はいないですよ? 行きましょうよ」
そう言ってサナリが手を差し出すと、シーファは迷うようにその手をじっと凝視する。
しばらく手を出していたけど、彼が動こうとしなかったので、やっぱり無理かとサナリはあきらめかけた。そのとき、そろそろと彼の手が上がり、彼女の手を握った。
にっこり笑ったサナリはシーファを引っ張って、部屋を出た。
廊下に出たシーファは研究室では見せない硬い表情を顔に貼りつけて、サナリのあとをついてきた。
ぎゅっと握った手が幼い子のようで、サナリは微笑ましく感じる。
シーファはひょろっと背が高く、頭ひとつサナリより大きいのだが。
幸い、ほとんど人とすれ違うこともなく、食堂に着く。
そして、食堂の中も人はまばらで、シーファはほっとしたようだった。
「すみません。ホットケーキを二枚お願いします」
「はいよ」
サナリが注文すると、シーファが彼女の袖を引き、小さな声で要求した。
「ホイップクリームも欲しい」
「わかりました」
(しっかり聞いていたのね)
ふふっと笑って、サナリは追加の注文をする。
「一枚にはホイップクリームをたっぷりつけてください」
ホットケーキが焼けるまで、二人はすみの席に座り、待っていた。
シーファが落ち着きなく周囲をきょろきょろしているので、サナリは食堂のデザートメニューを彼に教えてあげる。
「いつもシーファに持ってきてる焼き菓子もあるし、ゼリーやプリンもあります。日替わりで作ってくれるから楽しみですよね? シーファはなにが一番好きですか?」
大好きなスイーツの話をすると、シーファは目を輝かせて、サナリを見た。
今まで食べたものを思い浮かべて、真剣に悩んでいる。
「う~ん、なにかな? プリンも好きだし、チョコも好きだし、この間、サナリが持ってきてくれたシュークリームもおいしかった。……サナリはなにが好きなの?」
決めきれなかったようで、シーファが逆にサナリに質問してきた。
それほど甘いものに興味はない彼女はなんの気なしに答える。
「そうですね。甘いものもいいのですが、私はチーズが好きです」
「チーズ? チーズケーキじゃなくて?」
「そうです。普通のチーズが好きなんです」
そう言うと、シーファは信じられないとばかりに、目を丸くした。
彼の驚愕の表情に、サナリのほうも驚く。
シーファは叫んだ。
「チーズはデザートじゃないよ!」
「えっ?」
「だって、甘くないじゃん。僕、おやつにチーズが出てきたら暴れる!」
その場面を想像したらしいシーファがとても不満そうに言うので、サナリは噴き出した。
「暴れるんですか?」
「うん」
「今まで、おやつにチーズを持っていかなくてよかったです」
サナリの笑い声に、シーファも釣られて笑いだした。
めったに見かけないシーファの姿にひそかに注目していた人々がざわめく。
彼の笑顔に目を疑っていた。
美味しそうな匂いが漂ってきて、ホットケーキが焼けたのだとわかる。
早速、取りに行こうと立ち上がったサナリに置いていかれまいとシーファも慌てて席を立った。
二人はホットケーキの載った皿を持ち、席に戻る。
シーファの皿には注文通り、ホイップクリームが山になっていた。
「本当においしいね、サナリ」
クリームをたっぷりつけたホットケーキを口に頬張り、幸せそうにシーファは目を細めた。
サナリはバターを塗って食べる。
食堂のお菓子がおいしくて、よかったと思いながら。
こうした調子で、演習に備えて、サナリは何度かシーファを部屋から連れ出した。
最初は渋っていたシーファも、だんだん食堂に行くことには慣れていった。
しかし、その努力も必要ないものになってしまった。
「ムリ」
気を取り直したサナリが誘うと、シーファは即答した。
それでも彼女は精一杯、シーファを誘惑しようとする。
「焼き立てのホットケーキを食べたくないですか? バターとハチミツが蕩けるとびきり美味しいのを。たっぷりのホイップクリームを添えてもいいですね」
甘いもの好きなシーファがゴクリとツバを吞む。
これはいけるかもとサナリが期待する。
「ホットケーキ……。先生がいたときに何度か食べたことがある。すごくおいしかった」
「食堂でですか?」
「ううん、先生が持ってきてくれた。サナリみたいに」
「そうですか。食堂の出来立てのホットケーキはもっとおいしいですよ?」
「だけど、僕は猫舌だし、熱くなくていいよ……」
惹かれた様子のシーファだったが、はっと気づいて、また首を横に振る。
もうひと押しと、サナリはどうにかハードルを下げようとする。
「今の時間なら、食堂にそんなに人はいないですよ? 行きましょうよ」
そう言ってサナリが手を差し出すと、シーファは迷うようにその手をじっと凝視する。
しばらく手を出していたけど、彼が動こうとしなかったので、やっぱり無理かとサナリはあきらめかけた。そのとき、そろそろと彼の手が上がり、彼女の手を握った。
にっこり笑ったサナリはシーファを引っ張って、部屋を出た。
廊下に出たシーファは研究室では見せない硬い表情を顔に貼りつけて、サナリのあとをついてきた。
ぎゅっと握った手が幼い子のようで、サナリは微笑ましく感じる。
シーファはひょろっと背が高く、頭ひとつサナリより大きいのだが。
幸い、ほとんど人とすれ違うこともなく、食堂に着く。
そして、食堂の中も人はまばらで、シーファはほっとしたようだった。
「すみません。ホットケーキを二枚お願いします」
「はいよ」
サナリが注文すると、シーファが彼女の袖を引き、小さな声で要求した。
「ホイップクリームも欲しい」
「わかりました」
(しっかり聞いていたのね)
ふふっと笑って、サナリは追加の注文をする。
「一枚にはホイップクリームをたっぷりつけてください」
ホットケーキが焼けるまで、二人はすみの席に座り、待っていた。
シーファが落ち着きなく周囲をきょろきょろしているので、サナリは食堂のデザートメニューを彼に教えてあげる。
「いつもシーファに持ってきてる焼き菓子もあるし、ゼリーやプリンもあります。日替わりで作ってくれるから楽しみですよね? シーファはなにが一番好きですか?」
大好きなスイーツの話をすると、シーファは目を輝かせて、サナリを見た。
今まで食べたものを思い浮かべて、真剣に悩んでいる。
「う~ん、なにかな? プリンも好きだし、チョコも好きだし、この間、サナリが持ってきてくれたシュークリームもおいしかった。……サナリはなにが好きなの?」
決めきれなかったようで、シーファが逆にサナリに質問してきた。
それほど甘いものに興味はない彼女はなんの気なしに答える。
「そうですね。甘いものもいいのですが、私はチーズが好きです」
「チーズ? チーズケーキじゃなくて?」
「そうです。普通のチーズが好きなんです」
そう言うと、シーファは信じられないとばかりに、目を丸くした。
彼の驚愕の表情に、サナリのほうも驚く。
シーファは叫んだ。
「チーズはデザートじゃないよ!」
「えっ?」
「だって、甘くないじゃん。僕、おやつにチーズが出てきたら暴れる!」
その場面を想像したらしいシーファがとても不満そうに言うので、サナリは噴き出した。
「暴れるんですか?」
「うん」
「今まで、おやつにチーズを持っていかなくてよかったです」
サナリの笑い声に、シーファも釣られて笑いだした。
めったに見かけないシーファの姿にひそかに注目していた人々がざわめく。
彼の笑顔に目を疑っていた。
美味しそうな匂いが漂ってきて、ホットケーキが焼けたのだとわかる。
早速、取りに行こうと立ち上がったサナリに置いていかれまいとシーファも慌てて席を立った。
二人はホットケーキの載った皿を持ち、席に戻る。
シーファの皿には注文通り、ホイップクリームが山になっていた。
「本当においしいね、サナリ」
クリームをたっぷりつけたホットケーキを口に頬張り、幸せそうにシーファは目を細めた。
サナリはバターを塗って食べる。
食堂のお菓子がおいしくて、よかったと思いながら。
こうした調子で、演習に備えて、サナリは何度かシーファを部屋から連れ出した。
最初は渋っていたシーファも、だんだん食堂に行くことには慣れていった。
しかし、その努力も必要ないものになってしまった。
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