46 / 96
新たな魔物の出現
「シーファはいるか?」
ガンガンと乱暴なノックの音とともにドアが開いた。
ベランダに出ていたサナリは急いで部屋に戻る。
「今、寝てます」
伝令にそう伝えて帰ってもらおうと思ったのに、それを聞いた伝令はズカズカと中に入ってきて、仮眠室のドアを開けた。
「シーファ、起きろ。また魔物だ。今度はハイ厶地方だ」
怒鳴るような伝令の声に顔をしかめながら、シーファは目を開いた。
身を起こし、真冬の夜空のような冷たいまなざしで伝令を見る。
「僕は行かない」
そっけなく返したシーファに、伝令は目を剥く。
「なんでだ!? 補給はできたんだろ?」
ちらりとサナリを見て、伝令はとがめるように言った。
サナリも意外そうにシーファを見た。
遠征に行けないほどまだ調子が戻ってないのかと心配にもなった。
しかし、シーファはマイペースに返事する。
「行かないと言ったら行かない。魔術師団長にそう伝えてくれ」
とりつく島もないシーファの応対に、伝令は睨んだが、どこ吹く風というような態度に溜め息をついた。こうなったらシーファは梃子でも動かないと知っているようだ。
「わかった。でも、また怒鳴られても知らないぞ?」
「僕だって知らない」
師団長の怒りなど、どうでもいいと平然としているシーファをあきれたように見てから、伝令はやれやれと肩をすくめ、去っていった。
そんな対応で大丈夫かと心配しながらもサナリは魔物のほうが気になり、シーファに尋ねる。
「こんなに頻繁に魔物って出るものなんですか?」
「うーん、重なるときは重なるね」
「今度はハイム地方だなんて……」
顔を曇らせたサナリを見て、その理由に思い当たり、シーファは言った。
「アルザラス地方に近いね」
「そうなんです。隣だから心配です。もちろん、ハイム地方にも被害がないといいのですが」
サナリは両手を胸の前で握りしめた。
ハイム地方はアルザラス地方とガスマン侯爵の領地であるガルス地方に挟まれた小さな地域だった。三つの地域はそれぞれ接していた。
魔物がハイム地方を通りすぎて、ブドウ畑を襲ったら、どうなってしまうのだろうとサナリは気が気でなかったのだ。
幸運にもアルザラス地方に魔物が現れたことはここ十年以上なかった。
ハイム地方でよかったとは思わないが、アルザラス地方まで来る前に、早く討伐されますようにと祈った。
「大丈夫だよ。この間の遠征では半数しか出撃してないから、今回は残り半分が行くんじゃない? すぐ倒してくるよ」
シーファは自分が行かなくても、他の騎士と魔術師が倒してくれるから大丈夫だとサナリをなぐさめた。
そこに足音高く魔術師団長がやってきた。
ガンガンと乱暴なノックの音とともにドアが開いた。
ベランダに出ていたサナリは急いで部屋に戻る。
「今、寝てます」
伝令にそう伝えて帰ってもらおうと思ったのに、それを聞いた伝令はズカズカと中に入ってきて、仮眠室のドアを開けた。
「シーファ、起きろ。また魔物だ。今度はハイ厶地方だ」
怒鳴るような伝令の声に顔をしかめながら、シーファは目を開いた。
身を起こし、真冬の夜空のような冷たいまなざしで伝令を見る。
「僕は行かない」
そっけなく返したシーファに、伝令は目を剥く。
「なんでだ!? 補給はできたんだろ?」
ちらりとサナリを見て、伝令はとがめるように言った。
サナリも意外そうにシーファを見た。
遠征に行けないほどまだ調子が戻ってないのかと心配にもなった。
しかし、シーファはマイペースに返事する。
「行かないと言ったら行かない。魔術師団長にそう伝えてくれ」
とりつく島もないシーファの応対に、伝令は睨んだが、どこ吹く風というような態度に溜め息をついた。こうなったらシーファは梃子でも動かないと知っているようだ。
「わかった。でも、また怒鳴られても知らないぞ?」
「僕だって知らない」
師団長の怒りなど、どうでもいいと平然としているシーファをあきれたように見てから、伝令はやれやれと肩をすくめ、去っていった。
そんな対応で大丈夫かと心配しながらもサナリは魔物のほうが気になり、シーファに尋ねる。
「こんなに頻繁に魔物って出るものなんですか?」
「うーん、重なるときは重なるね」
「今度はハイム地方だなんて……」
顔を曇らせたサナリを見て、その理由に思い当たり、シーファは言った。
「アルザラス地方に近いね」
「そうなんです。隣だから心配です。もちろん、ハイム地方にも被害がないといいのですが」
サナリは両手を胸の前で握りしめた。
ハイム地方はアルザラス地方とガスマン侯爵の領地であるガルス地方に挟まれた小さな地域だった。三つの地域はそれぞれ接していた。
魔物がハイム地方を通りすぎて、ブドウ畑を襲ったら、どうなってしまうのだろうとサナリは気が気でなかったのだ。
幸運にもアルザラス地方に魔物が現れたことはここ十年以上なかった。
ハイム地方でよかったとは思わないが、アルザラス地方まで来る前に、早く討伐されますようにと祈った。
「大丈夫だよ。この間の遠征では半数しか出撃してないから、今回は残り半分が行くんじゃない? すぐ倒してくるよ」
シーファは自分が行かなくても、他の騎士と魔術師が倒してくれるから大丈夫だとサナリをなぐさめた。
そこに足音高く魔術師団長がやってきた。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花*Q−73@文フリ東京5/4
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした
こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】
伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。
しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。
そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。
運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた――
けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった――
※「小説家になろう」にも投稿しています。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎