氷の魔術師(引きこもり)のはずなのに、溺愛されても困ります。

入海月子

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新たな魔物の出現

「シーファはいるか?」

 ガンガンと乱暴なノックの音とともにドアが開いた。
 ベランダに出ていたサナリは急いで部屋に戻る。

「今、寝てます」

 伝令にそう伝えて帰ってもらおうと思ったのに、それを聞いた伝令はズカズカと中に入ってきて、仮眠室のドアを開けた。

「シーファ、起きろ。また魔物だ。今度はハイ厶地方だ」

 怒鳴るような伝令の声に顔をしかめながら、シーファは目を開いた。
 身を起こし、真冬の夜空のような冷たいまなざしで伝令を見る。

「僕は行かない」

 そっけなく返したシーファに、伝令は目を剥く。

「なんでだ!? 補給はできたんだろ?」

 ちらりとサナリを見て、伝令はとがめるように言った。
 サナリも意外そうにシーファを見た。
 遠征に行けないほどまだ調子が戻ってないのかと心配にもなった。
 しかし、シーファはマイペースに返事する。

「行かないと言ったら行かない。魔術師団長にそう伝えてくれ」

 とりつく島もないシーファの応対に、伝令は睨んだが、どこ吹く風というような態度に溜め息をついた。こうなったらシーファは梃子でも動かないと知っているようだ。

「わかった。でも、また怒鳴られても知らないぞ?」
「僕だって知らない」

 師団長の怒りなど、どうでもいいと平然としているシーファをあきれたように見てから、伝令はやれやれと肩をすくめ、去っていった。
 そんな対応で大丈夫かと心配しながらもサナリは魔物のほうが気になり、シーファに尋ねる。

「こんなに頻繁に魔物って出るものなんですか?」
「うーん、重なるときは重なるね」
「今度はハイム地方だなんて……」

 顔を曇らせたサナリを見て、その理由に思い当たり、シーファは言った。

「アルザラス地方に近いね」
「そうなんです。隣だから心配です。もちろん、ハイム地方にも被害がないといいのですが」

 サナリは両手を胸の前で握りしめた。
 ハイム地方はアルザラス地方とガスマン侯爵の領地であるガルス地方に挟まれた小さな地域だった。三つの地域はそれぞれ接していた。
 魔物がハイム地方を通りすぎて、ブドウ畑を襲ったら、どうなってしまうのだろうとサナリは気が気でなかったのだ。
 幸運にもアルザラス地方に魔物が現れたことはここ十年以上なかった。
 ハイム地方でよかったとは思わないが、アルザラス地方まで来る前に、早く討伐されますようにと祈った。

「大丈夫だよ。この間の遠征では半数しか出撃してないから、今回は残り半分が行くんじゃない? すぐ倒してくるよ」

 シーファは自分が行かなくても、他の騎士と魔術師が倒してくれるから大丈夫だとサナリをなぐさめた。
 そこに足音高く魔術師団長がやってきた。
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