氷の魔術師(引きこもり)のはずなのに、溺愛されても困ります。

入海月子

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シーファの過去②

「人に触れられるのが嫌いなんですよね?」
「だから、なんで触れられるのが嫌なのかっていう理由だよ」

(幼い頃に虐待されていたからじゃないの?)

 勝手にそう考えていたサナリは、それを口にしていいかどうか迷って、シーファを見た。
 彼は血の気の引いた顔で、師団長をにらみつけている。

「言うな!」

 シーファがそう言ったにも関わらず、にやにや笑って師団長は言葉を続ける。

「こいつは孤児院でシスターに襲われたんだ。子どもの頃。それで誰かに触れられるのが怖いのさ」
「えっ? 襲われた?」

 言葉の意味がうまく飲み込めなくて、サナリはまじまじと師団長を見返した。
 彼はひどく楽しそうで、人の不幸を喜ぶ態度にやはりこの人が嫌いだとサナリは改めて感じ、師団長に冷たい視線を向けた。
 それをせせら笑って師団長は聞いてもいないことを告げてくる。
 
「パニックになったシーファは、魔力を暴走させた。大変だったらしいぜ? 発見されたときには二人とも裸で、なにがあったのか一目瞭然だった。孤児院が氷漬けになって、襲ったシスターは重症。一命はとりとめたが、手は凍傷で使いものにならなくなったそうだ。それで、事態の収拾に当たった俺の前任者がシーファを引き取ったんだ」

 ハッとサナリがシーファを見ると、当時を思い出したのか、彼は真っ青になって、自分で自分の腕を掴み、震えている。その様子は痛々しく、彼がその事件で心に深い傷を負ったことを表していた。

「シーファ、大丈夫ですか?」

 サナリが心配して、彼の肩に手をかけた。
 ビクリと体を震わせたものの、シーファはその手の上に自分の手を重ねた。すがりつくように彼女の手をギュッと握りしめる。

「ほら、サナリなら、いいんだろ? 今までみんな拒否してきたくせに。ここらでトラウマを解消したらどうだ?」
「違う! サナリはそういうんじゃない!」
「まぁいい。しっかり働いてくれ。出発は夕方だ」

 尚も否定するシーファに、師団長は肩をすくめた。
 そして、すっとサナリの耳もとに口を寄せるとささやいた。

「サナリ、かわいそうなシーファに補給してやれ。心の傷を癒してやれよ。それがだ」
「っ!」

(領地を返してもらう条件……。この人はシーファに討伐を休まれるのは困るから、補給できる人を探していたのね)

 ようやく師団長の意図がわかって、サナリは悔しげに彼をにらんだが、師団長は笑って、部屋を出ていった。
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