氷の魔術師(引きこもり)のはずなのに、溺愛されても困ります。

入海月子

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アルザラス地方へ②

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 馬車に乗り込むと、シーファは甘えるようにサナリの手を取る。
 二人は肩を寄せ合い、馬車に揺られた。
 ハイム地方から魔物が現れたアルザラス地方の外れまでは近く、一時間ぐらいで着いた。
 
「サナリ様!」
 
 馬車を降りるなり、呼びかけられて、サナリは振り向いた。
 そこに見覚えのある顔を発見して、驚き、声をあげる。
 
「トーヴェ! リタ! どうしてここに?」

 一緒にブドウ踏みをした領民たちだった。
 でも、彼らの住処はもっと遠いはずだ。
 不思議そうにするサナリに対し、トーヴェが答えた。
 
「ブドウ畑を守るために少しでも役に立てないかと思って。サナリ様は? 魔術師様を連れてきてくれたんですか?」
「私はもう貴族じゃないから、ただのサナリでいいわよ」
「じゃあ、サナリ! 会いたかったぜ。ガスマン侯爵はもう最悪で……」
 
 喜びでトーヴェが興奮して、サナリの手を握った。
 それを邪魔するかのように、シーファが後ろからサナリを抱き寄せる。
 いきなり現れた美貌の人に冷たくにらまれて、トーヴェはタジタジとなって、手を離した。
 
「もう、シーファ!」
 
 自分のものだというように無言で主張する彼を咎めつつも、サナリは所有欲を示されて、うれしく思ってしまう。
 彼の腕に手を添え、トーヴェたちに紹介した。
 
「彼はシーファ。王宮一の魔術師なのよ。きっとブドウ畑を守ってくれるわ」
「うん。サナリの大事なものは必ず守るよ」
 
 サナリの言葉に、シーファは力強く約束してくれる。
 トーヴェもリタも感謝のまなざしでシーファを見た。

「さすがサナリ様。そんなすごい魔術師様をこんなにメロメロにするなんて」

 リタが変な感心の仕方をするので、サナリは顔を赤らめた。
 トーヴェはおもしろくない様子でいたけれど、ふいに話題を変えた。
 
「ところで、サナリ、今回の魔物騒動は、ガルス地方のせいかもしれないって話を知ってるか?」
 
 声をひそめてトーヴェが言う。
 聞いたことも想像したこともない話にサナリは呆然とした。
 ちらっと魔術師団長のほうを見て、離れているのを確認する。そして、小声で聞き返した。

「ガルス地方のせい? どういうこと?」
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