氷の魔術師(引きこもり)のはずなのに、溺愛されても困ります。

入海月子

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単独行動①

「それで魔物がいるのはどこなの?」
「こっちだよ」

 トーヴェたちの先導で、サナリたちだけでなく近くにいた魔術師や騎士たちも移動し始めた。
 それに気づいた魔術師団長が怒鳴って止める。

「こらっ、勝手に行動するな!」

 その命令に皆は従ったが、シーファは一顧だにせず、歩き続けた。
 相変わらずの単独行動だ。

「待て、シーファ!」

 師団長が叫ぶが、シーファは無視で、それを見たトーヴェもシーファの案内を続ける。
 サナリは彼らを見比べて、慌ててシーファについていった。

 アルザラス地方は緑豊かな土地で、そこには草原が広がっている。
 普段は放牧された牛や羊や、野生の生き物がいるはずだが、魔物の出現のせいか、一匹も見当たらない。
 ここからだんだん緑が濃くなって、遠くにはガルス地方との境の森が見えるのだが、その手前に黒い影が広がっていた。
 轟々とした音が聞こえると思ったら、魔物たちの足音だった。
 
(これが魔物のスタンピード)

 あまりの数の多さにサナリは唖然とする。
 背後にはブドウ畑がある。
 ここで魔物を止めなくては、ブドウ畑は壊滅的だ。

(でも、こんな大群とシーファは戦うの?)

 不安になって見上げるとシーファはにこりと笑った。

「大丈夫。サナリのおかげで、今までで一番魔力がみなぎってるから」

 この光景を目にしても自信満々のシーファに安心していいのか、心配していいのか、サナリにはわからなかった。

「くれぐれも無理しないでくださいね。魔力が足りなくなったら……補給、しますから」

 やはり不安のほうが勝って、サナリはシーファの袖を引く。
 恥ずかしそうに付け加えられた言葉に、シーファが顔をほころばせた。

「ありがとう。その時は頼むよ。じゃあ、サナリたちはここで待っていてくれ」

 そう言って、魔物の群れに向き直ったシーファの顔は精悍に引き締まり、美しい瞳がすがめられた。彼は単独で魔物のほうへ歩き出そうとする。
 
 「他の団員を待ってからのほうが」と引き留めたサナリに「時間が惜しい」と答えて、シーファは歩を進めた。

 彼の姿が小さくなるほど離れ、その分、魔物に近づいたころ、シーファは周囲に分厚い氷の壁を築いていった。
 互い違いになった氷壁は、魔物たちが直進できないようになっている。
 そのころになって、ようやく他の魔術師や騎士たちが追いついてきた。
 氷の壁は隠れて攻撃できるようにもなっているようだ。
 魔術師と騎士のグループがそれぞれ氷の壁に配置され、戦闘準備を行っている。
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