氷の魔術師(引きこもり)のはずなのに、溺愛されても困ります。

入海月子

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こんなの、ひどいです・・・①

「お前の言ったとおりだったな、シーファ」

 表情を緩めた王がシーファに親しげに話しかける。なぜか子どもを褒めるように誇らしげだ。
 シーファは頭を下げた。

「陛下、このような場を設けていただき、ありがとうございました」
「めずらしくお前からのお願いとあれば、聞かないわけにはいかないだろう。それにガスマン侯爵の行動には目に余るものがあったから、こちらもちょうどよかったのだ。叩けばうんざりするほど埃が出るだろう」

 シーファは感謝してまた頭を下げた。
 国王に『お願い』をできるなんて、いったいシーファは何者なんだろうと、サナリは改めて思う。王に対する彼はいつもと違って、洗練された態度だった。
 その美しい横顔を見て、知らない人のように思えた。

「ところで、トッレ伯爵――」

 国王がサナリの父親に目を向け、話している間に、サナリはそっとシーファに話しかけた。

「すべてシーファが仕組んだことだったんですね。ありがとうございます」

 伝書や手紙のやり取りはやはり国王と交わされていたもののようだった。今回のことはすべてシーファが絵を描いたものだと悟って、サナリは感激した。感謝の眼差しで彼を見る。

「うまくいってよかったね、サナリ」

 そう言ってシーファはにこやかに笑ったが、その表情には愁いが見え隠れしていた。
 どうしてそんな顔をしているのだろうと思いかけて、サナリはハッと気づいた。

(貴族に戻ったら、私たち、どうなるの?)

 貴族に戻るということは、今までの生活はできない。
 当然、今後はシーファの世話を焼くこともない。

「もしかして、シーファ、私を手放そうとしてますか?」

 問いかけたサナリに、シーファは驚いた顔をした。
 暗い瞳で彼女を見て、すぐ視線を落とす。

「手放したいんじゃない! でも、前に言ってたじゃないか。ずっとこのままではいられないって。サナリが貴族に戻るならなおさら……」

 平民のシーファとは付き合うことさえできないのに気づき、サナリは愕然とした。
 領地を取り戻したいと思っていたが、その結果がシーファとの別れになるとは考えていなかったのだ。
 サナリは瞳を潤ませた。

「わかっていて、アルザラス地方を取り戻してくれたんですか?」
「だって、それがサナリの望みでしょう?」

 相変わらず、自分のことは後回しのシーファにサナリの胸は痛んだ。
 同時に、いつまでも一方的なシーファに腹を立てる。

(相談してくれてもよかったのに!)

 王宮に帰ってきてから、キスひとつしてくれなかったのはシーファなりのケジメだったのかもしれない。もしくはサナリと離れる準備か。
 そう思うと、サナリの心の中は嵐が吹き荒れた。

(最初からそのつもりだったんだ……)

 遠征の夜、甘い声で何度も『愛してる。忘れないで』とささやいたシーファの心情をようやく理解して、サナリの瞳にみるみる涙が溜まり、決壊した。
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