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愛情と拒絶②
話の向かう先がわからず、サナリはただシーファを見つめた。
一瞬、二人の視線が合うが、すぐシーファは目を伏せて、早口でつぶやいた。
「サナリの相手はちゃんとした貴族がいいのはわかってるんだ。僕みたいな引きこもりじゃなくて。サナリのお父さんもそう言ってた。貴族に戻ったなら、僕なんかじゃなく、いくらでもいい相手はいるって。サナリを幸せにできる男を探すって言ってた」
シーファはつらそうに息をついた。
サナリが謁見の間を退出した後、彼らは彼女の今後のことについて話したらしい。
(お父様がそんなことを? もうっ、みんな、人のことを勝手に決めつけるんだから!)
腹立たしく思ったサナリだったが、シーファが言葉を続けたので、彼に意識を戻した。
「僕はそれでいいと思ってた。サナリが幸せなら。でも、僕は……」
いったん言葉を切ると、シーファは顔を上げ、サナリを狂わしく恋い焦がれるように見た。
その熱っぽい視線はサナリの心をざわつかせる。
告げられた彼の孤独や絶望を思うたびにそばに寄り添いたくなる。
どうしようもなく彼を愛していると思う。
「君は僕がいなくても大丈夫なのはわかってるんだ。他の人のほうが幸せにできる。でも、僕はサナリがいないと生きていけない……」
夜空色の瞳に見つめられ、訴えかけられて、サナリは茫然とした。
これは愛の言葉ではないかと思って。
(私を必要だと言ってくれているのかしら?)
シーファの言葉はいつもわかりにくい。
言われた内容を吟味すると、彼女は期待と怒りを同時に覚えた。
「だから、どうして勝手に人の幸せを決めつけるんですか! そう思うなら簡単に手を放さないで、一緒にいられる努力をしてくださいよ!」
「簡単じゃなかったよ! 苦しくて切なくて身を切られる思いだった。でも、サナリにアルザラス地方を取り戻してあげたかったんだ……」
本当に苦しそうにシーファは自分の胸を掴んだ。
彼の熱い想いにサナリの心は温かくなる。結局、シーファはサナリのことしか考えていないのだ。そして、自分の価値に気づいていない。
(私の幸せのためにはシーファが必要なのに、本当にわかってないのね)
サナリは彼の手に自分の手を重ねた。
なんでもすると言うのなら、と願いを口にする。
「シーファ、私を幸せにしたいなら、そばにいて。シーファが私を幸せにしてください。私の人生にはあなたが必要なんです」
「サナリ……僕でいいのか?」
伏せていた目を上げ、シーファは目を丸くしてサナリを見た。
彼女は微笑んできっぱりと言う。
「あなたがいいんです」
その言葉を聞いたシーファはサナリの手を握り返して、勢い込んで告げた。
「……サナリ、僕は貴族になるよ!」
「え?」
「爵位を継ぐことにする」
話が急に跳んで、サナリは戸惑い、目を瞬いた。
シーファは本当にマイペースで振り回されてしまう。
(陛下がおっしゃっていた案に乗るってこと?)
「孤児だった僕が公爵なんていいのかなって思ってたけど、僕は王家の血を引く者なんだって。先生もそうだったけど、王家にはたまに強力な魔力を有する者が現れるんだ。それにこの髪も特徴的だそうだ」
美しい銀色の髪をつまんで、シーファは言った。
そう言われてみると、国王も同じ銀髪だった。
(王家の血?)
また話が大きくなって、サナリはあ然とする。
でも、彼女のために貴族になると言っているように感じ、確かめた。
「でも、シーファは貴族は嫌なんでしょう?」
「サナリと一緒にいられるなら、僕はなんでもいい。ねぇ、サナリ。僕が公爵になったら、結婚してくれる?」
「シーファ……」
今度は彼が両手でサナリの手を握る。その手は瞳と同じく熱い。
彼の唐突なプロポーズにサナリはためらった。
プロポーズはもちろん、とてもうれしい。飛び上がるくらい、うれしい。だが、素直にうなずけなかった。本当にシーファはそれでいいのかと疑問に思ったからだ。
「でも、シーファ」
サナリはシーファを見つめ、真摯に告げた。
今こそ、彼女の想いを伝えようと考えたのだ。
一瞬、二人の視線が合うが、すぐシーファは目を伏せて、早口でつぶやいた。
「サナリの相手はちゃんとした貴族がいいのはわかってるんだ。僕みたいな引きこもりじゃなくて。サナリのお父さんもそう言ってた。貴族に戻ったなら、僕なんかじゃなく、いくらでもいい相手はいるって。サナリを幸せにできる男を探すって言ってた」
シーファはつらそうに息をついた。
サナリが謁見の間を退出した後、彼らは彼女の今後のことについて話したらしい。
(お父様がそんなことを? もうっ、みんな、人のことを勝手に決めつけるんだから!)
腹立たしく思ったサナリだったが、シーファが言葉を続けたので、彼に意識を戻した。
「僕はそれでいいと思ってた。サナリが幸せなら。でも、僕は……」
いったん言葉を切ると、シーファは顔を上げ、サナリを狂わしく恋い焦がれるように見た。
その熱っぽい視線はサナリの心をざわつかせる。
告げられた彼の孤独や絶望を思うたびにそばに寄り添いたくなる。
どうしようもなく彼を愛していると思う。
「君は僕がいなくても大丈夫なのはわかってるんだ。他の人のほうが幸せにできる。でも、僕はサナリがいないと生きていけない……」
夜空色の瞳に見つめられ、訴えかけられて、サナリは茫然とした。
これは愛の言葉ではないかと思って。
(私を必要だと言ってくれているのかしら?)
シーファの言葉はいつもわかりにくい。
言われた内容を吟味すると、彼女は期待と怒りを同時に覚えた。
「だから、どうして勝手に人の幸せを決めつけるんですか! そう思うなら簡単に手を放さないで、一緒にいられる努力をしてくださいよ!」
「簡単じゃなかったよ! 苦しくて切なくて身を切られる思いだった。でも、サナリにアルザラス地方を取り戻してあげたかったんだ……」
本当に苦しそうにシーファは自分の胸を掴んだ。
彼の熱い想いにサナリの心は温かくなる。結局、シーファはサナリのことしか考えていないのだ。そして、自分の価値に気づいていない。
(私の幸せのためにはシーファが必要なのに、本当にわかってないのね)
サナリは彼の手に自分の手を重ねた。
なんでもすると言うのなら、と願いを口にする。
「シーファ、私を幸せにしたいなら、そばにいて。シーファが私を幸せにしてください。私の人生にはあなたが必要なんです」
「サナリ……僕でいいのか?」
伏せていた目を上げ、シーファは目を丸くしてサナリを見た。
彼女は微笑んできっぱりと言う。
「あなたがいいんです」
その言葉を聞いたシーファはサナリの手を握り返して、勢い込んで告げた。
「……サナリ、僕は貴族になるよ!」
「え?」
「爵位を継ぐことにする」
話が急に跳んで、サナリは戸惑い、目を瞬いた。
シーファは本当にマイペースで振り回されてしまう。
(陛下がおっしゃっていた案に乗るってこと?)
「孤児だった僕が公爵なんていいのかなって思ってたけど、僕は王家の血を引く者なんだって。先生もそうだったけど、王家にはたまに強力な魔力を有する者が現れるんだ。それにこの髪も特徴的だそうだ」
美しい銀色の髪をつまんで、シーファは言った。
そう言われてみると、国王も同じ銀髪だった。
(王家の血?)
また話が大きくなって、サナリはあ然とする。
でも、彼女のために貴族になると言っているように感じ、確かめた。
「でも、シーファは貴族は嫌なんでしょう?」
「サナリと一緒にいられるなら、僕はなんでもいい。ねぇ、サナリ。僕が公爵になったら、結婚してくれる?」
「シーファ……」
今度は彼が両手でサナリの手を握る。その手は瞳と同じく熱い。
彼の唐突なプロポーズにサナリはためらった。
プロポーズはもちろん、とてもうれしい。飛び上がるくらい、うれしい。だが、素直にうなずけなかった。本当にシーファはそれでいいのかと疑問に思ったからだ。
「でも、シーファ」
サナリはシーファを見つめ、真摯に告げた。
今こそ、彼女の想いを伝えようと考えたのだ。
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