氷の魔術師(引きこもり)のはずなのに、溺愛されても困ります。

入海月子

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一方的な愛はいらない

「私は一方的な愛なんていらないんです」
「そっか、いらないか……」

 シーファは彼女の言葉にビクッと肩を震わせ、つらそうに目を伏せた。
 拒否されたと思ったらしい。
 力なく握っていた手を下ろした。
 そんな彼の手をもう一度握り、サナリは諭すように言った。

「シーファ、ちゃんと聞いてください。私は一方的な……『サナリのために』と自分のことを犠牲にするような愛はいらないんです。だって、私はシーファと一緒に幸せになりたいんですから」

 サナリがそう言うと、驚いたように顔をあげ、シーファが不思議そうに見てきた。

「僕と一緒に?」

 シーファの頭の中ではいつも自分の幸せは二の次で、サナリのことばかり考えているのが切なかった。
 サナリは言い聞かせるようにシーファに告げた。

「そうです。愛してると言ったでしょう? 私は愛してる人に無理をさせてまで幸せになりたくありません。そんなの幸せじゃありません。だから、シーファがなりたくないのに貴族になることはないんですよ?」
「でも、それじゃあ、サナリと結婚できない」
「シーファ、無理しなくていいんです。私が貴族に戻らないっていう手もあります。もうすっかり庶民の生活が身についちゃったし。そうすれば、ずっとシーファの世話係でいられます。お父様には伯爵家を継ぐ養子を取ってもらえばいいですし」

 きっと抵抗に遭うだろうが、シーファとともにいられるなら説得しようとサナリは心に決めた。
 でも、シーファはかぶりを振る。

「君のためなら僕はなんだってする。ねぇ、サナリ。答えてくれないってことはやっぱり僕じゃだめなのか? 僕と結婚まではしたくない? 世話係のほうが気が楽?」

 シーファは矢継ぎ早に聞いてきた。
 切迫した瞳のシーファに、サナリは慌てて首を横に振る。

「もう違います! だから、愛してるって言ってるでしょう? いい加減信じてください。そうじゃなくて、今のままで平民同士なら結婚できるってことです!」
「ってことは、サナリ?」
「私だってシーファと結婚したいです。ずっと一緒にいたいです」
「本当に、サナリ!?」

 暗い表情からぱぁっと喜びに顔を輝かせ、シーファが確かめた。
 額をつけて、覗き込んでくる。
 その綺麗な星空のような瞳に魅せられ、サナリはまた彼に囚われる。

「はい。あなたと会えなくなると思ったら、苦しくて涙が止まりませんでした。ずっとそばにいてください。私を離さないで、シーファ」
「ごめんね、サナリ。僕も苦しかった。もうサナリのためでも君を手放すことはしない。サナリをすごくすごく愛してるんだ」
「知ってます。でも、もう一方的なのはやめてくださいね」
「わかった。気をつける」

 しおらしくつぶやいたシーファの背中にサナリは手を回した。
 ようやくわかってくれたと笑顔がこぼれる。
 シーファも頬をゆるめて、ゆっくりと顔を近づけた。
 二人の唇が合わさった。
 久しぶりのキスに彼らは、幸せそうに笑い、また口づけた。
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