13 / 36
反省とは?④
しおりを挟む
ゆっくり歩きながら、黒瀬さんが聞いてくる。
「そういえば、有本さんはどうして設計士になりたいと思ったんだ?」
「ベイエリアのシータウンがあるでしょう? そこに初めて行ったとき――」
のんびりとした雰囲気に開放的な気分になっていた私は、素直に高校生のときの想いを話す。
黒瀬さんも茶化すことなく真面目に聞いてくれた。でも途中から、今までに見たことのない表情をしていた。額に片手を当て、なにかを我慢しているように口もとを引き結んでいる。
なんだろう。照れくさそう?
首をかしげて彼を見ると、なんでもないと首を振るので、私は初心を思い出して、気合いを入れなおした。
考えてみたら、今そのころの憧れの仕事をしている。もっと頑張らなくては!
「私、もっといろんなことに目を向けて設計しますね!」
決意表明した私を見て、黒瀬さんはニヤッと笑った。
「わかったなら、早く帰って、とっとと図面を進めてくれ」
「ここに連れてきたのは黒瀬さんでしょう!」
まるで私が無駄な時間を使ったように言われて、口を尖らせる。
でも、ここに来てよかったと思った。
おばあさんたちが焼いたというマドレーヌやクッキーをもらって、私たちは事務所に戻った。
それから私は素直に黒瀬さんの言葉に耳を傾けられるようになった。
彼のもとで働くのは本当に勉強になる。こんな機会を得られたなんて、私は幸運だと思う。
昂建設計にいたままでは気づきもしなかっただろうことがたくさんあった。
繊細に注意深く設計しているから、黒瀬さんの作るものは一本筋の通った美しさがあるのだろう。
才能だけではなく、努力を惜しまない人だというのも見えてしまった。
一緒に働くうちに、彼への印象が変わっていく。
ふと垣間見えた真剣な顔を、素敵だとさえ思ってしまう。
「なんだ? 俺に見とれてないで、手を動かせ」
「み、見とれてなんていません!」
言動は相変わらず軽いけどね。
「そういえば、有本さんはどうして設計士になりたいと思ったんだ?」
「ベイエリアのシータウンがあるでしょう? そこに初めて行ったとき――」
のんびりとした雰囲気に開放的な気分になっていた私は、素直に高校生のときの想いを話す。
黒瀬さんも茶化すことなく真面目に聞いてくれた。でも途中から、今までに見たことのない表情をしていた。額に片手を当て、なにかを我慢しているように口もとを引き結んでいる。
なんだろう。照れくさそう?
首をかしげて彼を見ると、なんでもないと首を振るので、私は初心を思い出して、気合いを入れなおした。
考えてみたら、今そのころの憧れの仕事をしている。もっと頑張らなくては!
「私、もっといろんなことに目を向けて設計しますね!」
決意表明した私を見て、黒瀬さんはニヤッと笑った。
「わかったなら、早く帰って、とっとと図面を進めてくれ」
「ここに連れてきたのは黒瀬さんでしょう!」
まるで私が無駄な時間を使ったように言われて、口を尖らせる。
でも、ここに来てよかったと思った。
おばあさんたちが焼いたというマドレーヌやクッキーをもらって、私たちは事務所に戻った。
それから私は素直に黒瀬さんの言葉に耳を傾けられるようになった。
彼のもとで働くのは本当に勉強になる。こんな機会を得られたなんて、私は幸運だと思う。
昂建設計にいたままでは気づきもしなかっただろうことがたくさんあった。
繊細に注意深く設計しているから、黒瀬さんの作るものは一本筋の通った美しさがあるのだろう。
才能だけではなく、努力を惜しまない人だというのも見えてしまった。
一緒に働くうちに、彼への印象が変わっていく。
ふと垣間見えた真剣な顔を、素敵だとさえ思ってしまう。
「なんだ? 俺に見とれてないで、手を動かせ」
「み、見とれてなんていません!」
言動は相変わらず軽いけどね。
70
あなたにおすすめの小説
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
ブラック企業に勤めていた私、深夜帰宅途中にトラックにはねられ異世界転生、転生先がホワイト貴族すぎて困惑しております
さら
恋愛
ブラック企業で心身をすり減らしていた私。
深夜残業の帰り道、トラックにはねられて目覚めた先は――まさかの異世界。
しかも転生先は「ホワイト貴族の領地」!?
毎日が定時退社、三食昼寝つき、村人たちは優しく、領主様はとんでもなくイケメンで……。
「働きすぎて倒れる世界」しか知らなかった私には、甘すぎる環境にただただ困惑するばかり。
けれど、領主レオンハルトはまっすぐに告げる。
「あなたを守りたい。隣に立ってほしい」
血筋も財産もない庶民の私が、彼に選ばれるなんてあり得ない――そう思っていたのに。
やがて王都の舞踏会、王や王妃との対面、数々の試練を経て、私たちは互いの覚悟を誓う。
社畜人生から一転、異世界で見つけたのは「愛されて生きる喜び」。
――これは、ブラックからホワイトへ、過労死寸前OLが掴む異世界恋愛譚。
初恋に見切りをつけたら「氷の騎士」が手ぐすね引いて待っていた~それは非常に重い愛でした~
ひとみん
恋愛
メイリフローラは初恋の相手ユアンが大好きだ。振り向いてほしくて会う度求婚するも、困った様にほほ笑まれ受け入れてもらえない。
それが十年続いた。
だから成人した事を機に勝負に出たが惨敗。そして彼女は初恋を捨てた。今までたった 一人しか見ていなかった視野を広げようと。
そう思っていたのに、巷で「氷の騎士」と言われているレイモンドと出会う。
好きな人を追いかけるだけだった令嬢が、両手いっぱいに重い愛を抱えた令息にあっという間に捕まってしまう、そんなお話です。
ツッコミどころ満載の5話完結です。
初恋をこじらせたやさぐれメイドは、振られたはずの騎士さまに求婚されました。
石河 翠
恋愛
騎士団の寮でメイドとして働いている主人公。彼女にちょっかいをかけてくる騎士がいるものの、彼女は彼をあっさりといなしていた。それというのも、彼女は5年前に彼に振られてしまっていたからだ。ところが、彼女を振ったはずの騎士から突然求婚されてしまう。しかも彼は、「振ったつもりはなかった」のだと言い始めて……。
色気たっぷりのイケメンのくせに、大事な部分がポンコツなダメンズ騎士と、初恋をこじらせたあげくやさぐれてしまったメイドの恋物語。
*この作品のヒーローはダメンズ、ヒロインはダメンズ好きです。苦手な方はご注意ください
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
五年越しの再会と、揺れる恋心
柴田はつみ
恋愛
春山千尋24歳は五年前に広瀬洋介27歳に振られたと思い込み洋介から離れた。
千尋は今大手の商事会社に副社長の秘書として働いている。
ある日振られたと思い込んでいる千尋の前に洋介が社長として現れた。
だが千尋には今中田和也26歳と付き合っている。
千尋の気持ちは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる