リクシオンの耳飾りを贈れたなら

ねこまんま

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第二十話 ロイとの生活

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そうして始まった彼らとの生活。それは今までの日常と大きく異なっていた。

「ティアラ、今日は朝から授業が詰まっている。昼には一緒に食事をしよう」

いつもであればアンナが一日のスケジュールを伝えるが、その立ち位置にロイが居る。傍に置くとはまさに言葉通りで、寝室やバスルームを除き、彼は一日の大半を私と過ごすようになった。
宰相家から王家の人間へと身分を変えたロイは、王城に専用の宮が与えられ、父王の補佐の傍ら私の世話まで焼いている。

「さすがに抱えすぎじゃない? お父様の補佐をするだけでも大変でしょう?」

だから私に気を遣わなくていいのよ、と伝えるとロイはすぐに首を横に振る。

「君との時間が失われたら意味がない。それに新しい学びはとても新鮮で、疲れなんて感じないよ」

曇りのない瞳で囁き、彼は私の頬に口づけを落とした。過度なスキンシップに戸惑うも、ロイはすでに私の婚約者である。今までとは違って当然だと慣れていくしかない。

「姫様、あのですね、御髪はどのようにされますか?」

私の傍で髪を梳かすアンナは、緊張した面持ちで鏡面に映り込んでいる。王女の部屋に男が入室するのも、こうやって間近でロイと対面することもなかった。私ですら実感が湧かないのだから当然の反応だろう。

「アンナ、僕が届けたリボンを使ってくれないか?」

ロイが青のリボンを手渡すと、彼女は頬を染めてそれを受け取る。令嬢の間でロイは人気が高く、彼のリクシオンの耳飾りを狙っていた者も多い。そう考えればアンナの反応も納得できる。
リボンを頭頂部に結い、立ち上がるとすぐにロイの手が差し出された。

「さあ、行こうか」

エスコートされて歩く姿は、まさにお伽話のよう。姫と貴公子の姿は周りにそんな印象を与えていると感じる。ロイの耳にはピンクダイヤが輝き、彼のすべてが私のものになった。
隣で彼を観察すると今まで気に留めなかったところが見えてくる。背の高さ、顔つきは、もう大人のそれで昔のような愛らしさはない。蒼を基調とした洋服は襟から袖口に至るまで、しっかりと整えられている。彼に似合いのサファイアは無くなったが、そんな宝石などなくても彼は充分美しかった。

「ティアラ、どうしたの?」

熱い視線に気付いたのか、ロイは困ったようにこちらの顔を覗き込む。とても恥ずかしい気持ちになって目を逸らすと、彼の腕が伸びて私の腰を抱いていた。

「ロイ、それはちょっと…困る」

首元に彼の唇が当たっている。何も言わずただ強く抱きしめられ、とても居たたまれない気持ちになる。ロイの胸元に手を添えて軽く押し上げると、名残惜しそうに抱擁は解かれた。

「さあ、授業の時間だ。また後で迎えに行くよ」

そう言って彼は優雅に礼をし、元来た道へと帰っていく。
家庭教師の元に送られて、どっと疲れが増した気がする。そうなると授業の合間も彼が頭から離れない。教師が講義を行う中、本に視線を落としながら違う事を考えている。

「「ロイ・モデレオン」」

王家の姓を名乗り、王城に宮を構えた。彼の存在は未来の王配として、着実に周りの認知を強めている。ロイにその気がなくても、計算されつくした振舞いは警戒心を生む。彼の純粋な気持ちを信じたいと思うけれど、もし私が王女でなければ彼は見向きもしなかったのでは、と勘繰ってしまう。
そして心配の種はもうひとつ。
平民から公妾となったフェリドの存在だ。誰もが不自然なほど彼の名前を口にしようとしない。ロイと同じく耳飾りを与えられた者であるが、姿をもう何日も見ていない。父王の元を去ったあの日から、ぱったりと姿を消してしまった。

――フェリドに会いたい。

満足に弁解もできないで避けられるのは辛い。彼が貴族を嫌う理由すら分からない。ちゃんと向き合いたいと思えば居ても立ってもいられなくなる。どうすれば目の前の授業を抜け出せるか、フェリドに会いたい一心で策を巡らす。

「今日はお父様に呼ばれているの。少しの間、離席しても宜しいかしら?」

さらりと嘘がでて、目の前の教師も疑うことなく受け入れてくれる。上手くいきそうだが、大切なのはロイが来る時間までに戻ること。こういった悪だくみは昔から通用した試しがない。彼には何故かことごとく見破られるのだ。

「では、少し離れますが昼までには戻りますので」

すばやく席を立ち、誰の目もないことを確認してから扉を出る。教師は疑う様子もなく、ただ頷いて見送ってくれている。
廊下に出れば裾をめくりあげ、フェリドの宮に向かって静かに歩き出した。
うまく王宮を抜け出し、庭園を歩けば宮が見えてくる。焼けたバラ園以外は普通に往来ができ、ある程度自由に歩き回れるようになっていた。

「ここ、よね?」

記憶を頼りにフェリドの宮に行きついたが、とてもうっそうとしている。ロイの宮に比べて庭も整備されていないし、下働きの姿も見えない。どこか荒れ果てた印象の建物である。
敷地に足を踏み入れると、伸びた草が靴に絡まる。しゃりしゃりと音を立てながら進み、人の気配がない宮に入る。すると乱雑に転がる工具が目を飛び込んできた。無動作に置かれた園芸用品は使い込まれた品のようで、一目で彼の愛用品だと分かった。

「フェリド? いるの?」

声を掛けてみるが返事はない。おそるおそる奥まで進んでいくと、大きなソファーに項垂れて座るフェリドの姿があった。
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