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26 鏡の城
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鏡の城までの道は一本道でエネミーもいない。プレイヤーたちが片付けたのか、スポーンしないのか分からないが、手負いの今はものすごく助かった。ところが突然マップに出てしまった……と思った。
でもよく見ればマップではなかった。マップと同じ、明け方とも夕方ともつかない不思議な空と荒野。そこに、それらを反射しながら、美しいガラス……恐らく鏡なんだろう、城が聳え立っていた。城の前に沢山のプレイヤーが集まっている。
城の手前には広場があり、魔法陣のような大きなマルと複雑な模様が地面に描かれていて、中央に石か何かでできた祭壇がある。一目でなんらかの儀式を行うための場所だとわかった。その儀式とやらが、生贄を捧げるものだということも。
「サタン!」
人垣の真ん中にいたサタンはちょっとだけこちらを見ると、そっとその固そうな祭壇に身を横たえた。
「やめろって!」
「もう来るな、ござる。私は大丈夫」
何も考えず駆け寄ると、ルイが俺とサタンの間に立った。
「もうやめてください。彼女だって俺たちのために覚悟してくれたんです。あなたがここで混ぜ返す必要はない」
まあそうだ。仰る通りでございます。でもなあ……。
「楽に殺してあげますからね」
その時だった。不思議な音が響いた。地鳴りのような、鐘のような音だった。
「見て! 鏡の城の扉が」
閉ざされていた天まで届きそうな扉が大きく開く。中から何かが出てきた。みんな息を呑んでその何かを見た。
なんだあれは。
大きな時計、に一瞬見えた。でも文字盤に見える部分が瞬きしたので、何かの生き物なんだとわかった。
[滅ぼす者です]
「えっ!」
[生贄を受け取りに出てきたのですね]
あんなのが? ラスボスとしてはちんけなデザイン。誰かが何を思ったのかそいつに通常攻撃を打った。ギギ、と時計の針が動く。速度を上げて、目にも止まらないほどに速く回り出す。次の瞬間、白い一本の光がその文字盤の中央から、レーザーのように放たれて何人かを貫いた。
「?」
撃たれても体が切れるわけでもない。なんだろう……。
「あ、あ……」
一人が自分の手を見てうめいた。髪が瞬く間に白く変わる。まだ20代と思われた肌にはシワがより、しみが浮き出した。ほおがこけ、どんどん干からびてミイラのようになってついに崩れ落ち、骨が転がりながら粉になって飛び散った。他の二人も……。
「攻撃するな! 生贄を殺せー!」
叫んだ男に今度は黒いレーザーが当たる。見る間に男の体が縮み始め、子供になったと思ったらそのまま小さくなり続けて消えてしまった。
「滅ぼす者」って……
「時間?」
[正解です]
じりじりとそれは祭壇に近づいてくる。また激しく時計の針が回る。
「誰か生贄を……」
「逃げろー!」
プレイヤーたちは連発される即死攻撃を目の前にして、我先にと逃げ出した。サタンを祭壇にほったらかして。
サタンはまるで人形のように身動きひとつせず、硬く目を閉じている。円陣の中にはもう、横たわるサタンと「滅ぼす者」しかいない。その大時計が、サタンの方を見たような気がした。
反射的に体が動いた。カカカッと大時計の横っ腹に手裏剣が刺さる。
「こっちに来いよ! ラスボス野郎!」
大時計がキリキリと音を立ててこちらを向く。
「ござる! やめろ! こいつは倒せない! お前も逃げろ!」
「やってみなけりゃわからないだろ! こいつを倒したら、お前も助かってみんなでクリアなんだろ」
とはいうものの、手裏剣もその毒も効いているような気は全くしない。こっちももう実は足が回らなくなってきていた。毒がどんどん全身に染みているのがわかる。
「は……」
でも、この状況で……。
ただ逃げ帰るなんてできない。その時できることを、全部やらないと面白くないだろ……。
「サタン、ごめんな。俺は強いプレイヤーじゃない」
「何を言い出すんだよ! 早く……」
「でもやれるだけやらせてくれ」
「私を殺してくれ!」
腹の奥から血が込み上げてきた。わりとえげつない毒だな。
「『影下跳梁』」
後ろに飛んで太刀を突き刺してみる。完全に木の板を相手にしているような手応え。切っ先が少しだけ傷をつけるが、通らない。息が弾む。
「……厳しい……な」
ざっと斬りつけても傷さえつけることができない。突き刺すにしろ、何度繰り返せば穴を開けられるのか見当もつかない。ふっと足がふらつく。時計がこちらを向く。
「『妨げる者』!」
時計の針がわずかに速度を落とした。はっとして跳ぶ。助かった……。続けて黒い渦が時計の胴体に当たって弾けた。
「馬鹿野郎!」
「………ハ……サタン様……」
サタンの魔法でも傷がついていない。魔法が効かないタイプなのかも知れないな。また時計がこちらを向く。「妨げる者」はディレイ中だ。俺ももう、跳ぶことができない。体が勝手に膝をついた。
「いやだ!! ござる!!」
遠目にサタンが祭壇から降りてこちらに駆けてくるのが見えた。でもそれより先に、時計がビームを撃ってきた。ここまでか……。白い光が体を貫く。
「………」
「ござる!!」
サタンが俺に抱きつく。これたまにあるご褒美なんだけど、この後たいてい「サヨナラ」って来るんだよな。単純に喜べないことを学習した……。
[早く行動した方がいいですよ。無敵時間は5分間です]
は?
ニドの声で目を開けると、俺の体を金色の光が包んでいる。
「なにこれ!」
[私のスキルです。あなたの体力が5%を切ると発動します]
「お前、スキルなんか持ってたのかよ!」
[『身代わり』もスキルですよ。何度か使ったでしょう]
「早く言えよ!」
[聞かれませんでしたので]
「今までこんなの無かったじゃんか!」
[レベル38で最終形態に進化したので使えるようになったんです]
今は毒も効いていないようだ。時計はまたグルグルと針を回し始めている。何かできるなら今だけ。何ができる? このキャラで。プレイヤーが俺で。でも俺は誰よりもこのキャラを使い込んだはずだ。誰よりもよく知っている。あらゆる選択肢を。
時計野郎を見る。どんな攻撃も効かない? ならピュグマリオン様みたいに、何かを利用して一撃を喰らわせたい。あたりを改めて見回す。祭壇。キラキラと輝く荘厳な城。俺とサタンと時計の裏側が、いつの間にか閉まった大きな扉に映っている。「滅ぼす者は決して割れぬ鏡の城にいる」か。その通りだったな。なんの捻りもない……。
決して割れぬ鏡の城?
「サタン、離れろ。やってみる」
「……?」
サタンがそっと俺から手を離した。失敗したらそれで終わりだ。二人でここで死ぬしかない。少し自分が笑顔になったのがわかった。前にした約束は守れることになる。「一人にはしない」。
「『影下跳梁』」
時計の背中に立つ。みしみしと重そうに時計がこちらを向く。もっとちゃんとこっちを見ろ。真正面から俺を撃つがいい。時計の針はいよいよ早く回って、黒い光がその中心に集まった。今!
「『影下跳梁』!」
ビームがちょうど放たれた。くるりと体が宙に浮いた瞬間、その黒い光が鏡の城に反射し、時計野郎を貫いたのを逆さまに見た。
ざん、と着地する。早鐘のように心臓が脈打っている。これでだめなら……。
時計が動きを止めた。
「おっ、効いたか?」
俺にできるのはここまでだ。体力が5%を切っているなら、無敵が終わった瞬間俺は動けなくなるだろう。
ゴーン
時計から鐘の音が聞こえ始めた。ゴーン、ゴーン……鳴り続ける。ガラスが割れるような音が響き、鏡の城が砕け散った。
「やった! そんな感じしないか?」
「……これは思い付かなかった」
ゴウ、と俺の体を金色の風が取り巻く。レベルアップ。しかもレベル39を飛び越してカンストだ。
「ハハッ! これでクリアだろ! な?」
「……これだから人間というものは………」
まだ狂ったように鐘の音が鳴り響いている。ほっとした。さて、ログアウトというやつはどうやるのかな。
ルイたちにもわかったかな。終わったのが。
でもよく見ればマップではなかった。マップと同じ、明け方とも夕方ともつかない不思議な空と荒野。そこに、それらを反射しながら、美しいガラス……恐らく鏡なんだろう、城が聳え立っていた。城の前に沢山のプレイヤーが集まっている。
城の手前には広場があり、魔法陣のような大きなマルと複雑な模様が地面に描かれていて、中央に石か何かでできた祭壇がある。一目でなんらかの儀式を行うための場所だとわかった。その儀式とやらが、生贄を捧げるものだということも。
「サタン!」
人垣の真ん中にいたサタンはちょっとだけこちらを見ると、そっとその固そうな祭壇に身を横たえた。
「やめろって!」
「もう来るな、ござる。私は大丈夫」
何も考えず駆け寄ると、ルイが俺とサタンの間に立った。
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まあそうだ。仰る通りでございます。でもなあ……。
「楽に殺してあげますからね」
その時だった。不思議な音が響いた。地鳴りのような、鐘のような音だった。
「見て! 鏡の城の扉が」
閉ざされていた天まで届きそうな扉が大きく開く。中から何かが出てきた。みんな息を呑んでその何かを見た。
なんだあれは。
大きな時計、に一瞬見えた。でも文字盤に見える部分が瞬きしたので、何かの生き物なんだとわかった。
[滅ぼす者です]
「えっ!」
[生贄を受け取りに出てきたのですね]
あんなのが? ラスボスとしてはちんけなデザイン。誰かが何を思ったのかそいつに通常攻撃を打った。ギギ、と時計の針が動く。速度を上げて、目にも止まらないほどに速く回り出す。次の瞬間、白い一本の光がその文字盤の中央から、レーザーのように放たれて何人かを貫いた。
「?」
撃たれても体が切れるわけでもない。なんだろう……。
「あ、あ……」
一人が自分の手を見てうめいた。髪が瞬く間に白く変わる。まだ20代と思われた肌にはシワがより、しみが浮き出した。ほおがこけ、どんどん干からびてミイラのようになってついに崩れ落ち、骨が転がりながら粉になって飛び散った。他の二人も……。
「攻撃するな! 生贄を殺せー!」
叫んだ男に今度は黒いレーザーが当たる。見る間に男の体が縮み始め、子供になったと思ったらそのまま小さくなり続けて消えてしまった。
「滅ぼす者」って……
「時間?」
[正解です]
じりじりとそれは祭壇に近づいてくる。また激しく時計の針が回る。
「誰か生贄を……」
「逃げろー!」
プレイヤーたちは連発される即死攻撃を目の前にして、我先にと逃げ出した。サタンを祭壇にほったらかして。
サタンはまるで人形のように身動きひとつせず、硬く目を閉じている。円陣の中にはもう、横たわるサタンと「滅ぼす者」しかいない。その大時計が、サタンの方を見たような気がした。
反射的に体が動いた。カカカッと大時計の横っ腹に手裏剣が刺さる。
「こっちに来いよ! ラスボス野郎!」
大時計がキリキリと音を立ててこちらを向く。
「ござる! やめろ! こいつは倒せない! お前も逃げろ!」
「やってみなけりゃわからないだろ! こいつを倒したら、お前も助かってみんなでクリアなんだろ」
とはいうものの、手裏剣もその毒も効いているような気は全くしない。こっちももう実は足が回らなくなってきていた。毒がどんどん全身に染みているのがわかる。
「は……」
でも、この状況で……。
ただ逃げ帰るなんてできない。その時できることを、全部やらないと面白くないだろ……。
「サタン、ごめんな。俺は強いプレイヤーじゃない」
「何を言い出すんだよ! 早く……」
「でもやれるだけやらせてくれ」
「私を殺してくれ!」
腹の奥から血が込み上げてきた。わりとえげつない毒だな。
「『影下跳梁』」
後ろに飛んで太刀を突き刺してみる。完全に木の板を相手にしているような手応え。切っ先が少しだけ傷をつけるが、通らない。息が弾む。
「……厳しい……な」
ざっと斬りつけても傷さえつけることができない。突き刺すにしろ、何度繰り返せば穴を開けられるのか見当もつかない。ふっと足がふらつく。時計がこちらを向く。
「『妨げる者』!」
時計の針がわずかに速度を落とした。はっとして跳ぶ。助かった……。続けて黒い渦が時計の胴体に当たって弾けた。
「馬鹿野郎!」
「………ハ……サタン様……」
サタンの魔法でも傷がついていない。魔法が効かないタイプなのかも知れないな。また時計がこちらを向く。「妨げる者」はディレイ中だ。俺ももう、跳ぶことができない。体が勝手に膝をついた。
「いやだ!! ござる!!」
遠目にサタンが祭壇から降りてこちらに駆けてくるのが見えた。でもそれより先に、時計がビームを撃ってきた。ここまでか……。白い光が体を貫く。
「………」
「ござる!!」
サタンが俺に抱きつく。これたまにあるご褒美なんだけど、この後たいてい「サヨナラ」って来るんだよな。単純に喜べないことを学習した……。
[早く行動した方がいいですよ。無敵時間は5分間です]
は?
ニドの声で目を開けると、俺の体を金色の光が包んでいる。
「なにこれ!」
[私のスキルです。あなたの体力が5%を切ると発動します]
「お前、スキルなんか持ってたのかよ!」
[『身代わり』もスキルですよ。何度か使ったでしょう]
「早く言えよ!」
[聞かれませんでしたので]
「今までこんなの無かったじゃんか!」
[レベル38で最終形態に進化したので使えるようになったんです]
今は毒も効いていないようだ。時計はまたグルグルと針を回し始めている。何かできるなら今だけ。何ができる? このキャラで。プレイヤーが俺で。でも俺は誰よりもこのキャラを使い込んだはずだ。誰よりもよく知っている。あらゆる選択肢を。
時計野郎を見る。どんな攻撃も効かない? ならピュグマリオン様みたいに、何かを利用して一撃を喰らわせたい。あたりを改めて見回す。祭壇。キラキラと輝く荘厳な城。俺とサタンと時計の裏側が、いつの間にか閉まった大きな扉に映っている。「滅ぼす者は決して割れぬ鏡の城にいる」か。その通りだったな。なんの捻りもない……。
決して割れぬ鏡の城?
「サタン、離れろ。やってみる」
「……?」
サタンがそっと俺から手を離した。失敗したらそれで終わりだ。二人でここで死ぬしかない。少し自分が笑顔になったのがわかった。前にした約束は守れることになる。「一人にはしない」。
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時計の背中に立つ。みしみしと重そうに時計がこちらを向く。もっとちゃんとこっちを見ろ。真正面から俺を撃つがいい。時計の針はいよいよ早く回って、黒い光がその中心に集まった。今!
「『影下跳梁』!」
ビームがちょうど放たれた。くるりと体が宙に浮いた瞬間、その黒い光が鏡の城に反射し、時計野郎を貫いたのを逆さまに見た。
ざん、と着地する。早鐘のように心臓が脈打っている。これでだめなら……。
時計が動きを止めた。
「おっ、効いたか?」
俺にできるのはここまでだ。体力が5%を切っているなら、無敵が終わった瞬間俺は動けなくなるだろう。
ゴーン
時計から鐘の音が聞こえ始めた。ゴーン、ゴーン……鳴り続ける。ガラスが割れるような音が響き、鏡の城が砕け散った。
「やった! そんな感じしないか?」
「……これは思い付かなかった」
ゴウ、と俺の体を金色の風が取り巻く。レベルアップ。しかもレベル39を飛び越してカンストだ。
「ハハッ! これでクリアだろ! な?」
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