【短編集】リアル・ラブドールの憂鬱

ジャン・幸田

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 私も何気ない事がきっかけで今の姿になる仕事の登録をしてしまった。本当のこの会社の目的が人体実験であるのは公然の秘密みたいなものだった。いったいなにかって? それは全て知らない事なので語れない事だ。

 ただ、現実に私の身体は人形化されているということだ。自分の意志では動かせないのだ。動くようにするにはシステムをダウンロードしてもらわないといけなかった。なんで、そんなシステムなんかって? 配達先のお客様のニーズに合ったラブドール状態にするプログラムの構築をいつも配達先でするからだ。これが店舗内だったら人形化措置の際にするんだけどね。

 「取りあえず、視覚モニターを起動させようか」

 その言葉に私は安心した。その時まで外からの情報といえば音声と触感だけだったからだ。しかも身体は動けないようにロックされていた。人形そのものになっていたんだから。

 「ラブドール・タイプ58視覚モニター起動しました」

 私を覆うラブドールスーツの人工音声はそう応答した。それは私の意志ではなく私を人形として制御するAIだ。キジネコ・サービスのラブドールは全てAIによる制御が優先され、「内臓」の自由意志は大きく制限されていた。制限が解除されるのは性的行為ぐらいなもので、それもお客様が満足するように持っていくようにリードされていた。AIが内臓を必要とするのは、機械仕掛けの人形よりも生物的な動きが出来て人間らしい性的興奮を表現させるためであった。

 「58! 今日はメイドらしくすること! 家事が面倒くさいのならAIに身体の制御を任せる事! それじゃあ、テスト!」

 そういうと私を覆う58の手足はバタバタと動いた。このテストの間は私はAIにさせるがままでいた。そういえばジャンヌさんがこんな冗談を言っていた。ダイエットの為に運動しない女はうちの人形化措置を受けてもらって強制的に運動させればいいと。


 「58、神経接続率は88パーセント。許容範囲ないです! それでは内臓に制御権を委任します!」

 そういうと、私の身体は自由に動けるようになった。もちろん目の前の二人には58のままであったけど。

 「それじゃあ、58の内臓の子! 気分はどうか?」

 「とりあえず問題ないわ。それにしても、いつも思うけど58というのはおかしくありませんか?」

 私はちょっと拗ねたような言い方をした。ラブドールの中にいるのは生身の人間だというのにと。

 「しかたないだろう、どこの誰が58の内臓になっているなんて分からないんだから! それよりもいつものストレッチ!」

 私はそう言われ「人形娘体操」と呼ばれるラジオ体操に似た動きをした。それをしたとき、私はラブドールの内臓なんだと認識せざるを得なかった。
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