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第壱章:下克上国王親娘とロートル魔道士
序:古き書物
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嵐の中、深い森に覆われた山道を急ぐ二つの馬車があった。その馬車は王族専用の豪奢な装飾をしていたがどこか古さがあった。馬車はガタガタの山道の振動をまともに受けて軋みの叫びをあげていたが、御者はそんなのお構いなしに路を急いでいた。事態は急を要していたから。
後ろを走る馬車には親子が乗っていた。父の方は50歳近い老境に差し掛かろうとしていたが、その肉体は鋼のように鍛えられていた。ただ表情は気弱な憂いを漂わせていた。そして娘は17歳の誕生日を迎えたばかりで、銀色の長い髪をして整合の取れた美人ではあったが、絹の白い手袋で隠したその手は農作業による無数の傷が隠されていた。二人は少し前まで農民だった。
だが今や二人は馬車に国王とその王太子として乗っていた。農民から王族になれたのは血縁によるものに加え、いまこの世界で起きている非常事態によるものであった。その非常事態など起きなければありえないことが起きていた。
王太子の地位にある娘は、これから向かう魔道士と合う前に必要であると、王国宰相代理の男から渡された古き書物を読んでいた。その書物は高価な羊皮紙に筆記されたもので、王朝の最高幹部以上しか閲覧できないとされていた秘書であった。それは、この世界を救って来た魔道士によって召喚されし救世主たちの列伝だった。この世界で非常事態が起きた場合は、異世界から救世主を召喚することで危機を脱してきたのだ。
王太子は救世主たちの姿に感銘を受けた後、魔道士に依頼するための次の条件を読んで難しい顔をしていた。それは次のような事に対してだ。
”異形の者たちが侵略する事態になれば異形の者たちがそれを撃退するであろう。
だが異形の救世主が現れぬ時はどうすればいいだろうか?
その時は古き偉大な魔導士を頼るがいいであろう!
だが、それに対価は必要である!
最良なのは処女の純潔もしくは銀貨10万枚だ!
前者は高貴な身分の娘でなければならないし、後者は領地でも構わない。
だが期待外れに終わる場合もある。なぜなら全てはなすがままにしかならぬことだから!”
「おやじい! これってつまりは、あたいに誰かに身体をあずけろということ?」
銀髪の王太子は気品ある服装に清楚な顔立ちに相応しくない言葉を吐いていた。彼女はほんの少し前まで片田舎で教養など必要としない生活をしていたから、仕方ない事であった。
「お前! いい加減にしろ! そんな口を利くんじゃない!」
おやじい、と呼ばれた中年の男はそれなりの服装であったが、全くもって似合っていなかった。彼女の父もまた、異界からの侵略者によってある日突然下克上を成し遂げたばかりであった。だが、その表情に疲労感が漂っていた。それはこれから起こることに対する不安からもたらされていた。
後ろを走る馬車には親子が乗っていた。父の方は50歳近い老境に差し掛かろうとしていたが、その肉体は鋼のように鍛えられていた。ただ表情は気弱な憂いを漂わせていた。そして娘は17歳の誕生日を迎えたばかりで、銀色の長い髪をして整合の取れた美人ではあったが、絹の白い手袋で隠したその手は農作業による無数の傷が隠されていた。二人は少し前まで農民だった。
だが今や二人は馬車に国王とその王太子として乗っていた。農民から王族になれたのは血縁によるものに加え、いまこの世界で起きている非常事態によるものであった。その非常事態など起きなければありえないことが起きていた。
王太子の地位にある娘は、これから向かう魔道士と合う前に必要であると、王国宰相代理の男から渡された古き書物を読んでいた。その書物は高価な羊皮紙に筆記されたもので、王朝の最高幹部以上しか閲覧できないとされていた秘書であった。それは、この世界を救って来た魔道士によって召喚されし救世主たちの列伝だった。この世界で非常事態が起きた場合は、異世界から救世主を召喚することで危機を脱してきたのだ。
王太子は救世主たちの姿に感銘を受けた後、魔道士に依頼するための次の条件を読んで難しい顔をしていた。それは次のような事に対してだ。
”異形の者たちが侵略する事態になれば異形の者たちがそれを撃退するであろう。
だが異形の救世主が現れぬ時はどうすればいいだろうか?
その時は古き偉大な魔導士を頼るがいいであろう!
だが、それに対価は必要である!
最良なのは処女の純潔もしくは銀貨10万枚だ!
前者は高貴な身分の娘でなければならないし、後者は領地でも構わない。
だが期待外れに終わる場合もある。なぜなら全てはなすがままにしかならぬことだから!”
「おやじい! これってつまりは、あたいに誰かに身体をあずけろということ?」
銀髪の王太子は気品ある服装に清楚な顔立ちに相応しくない言葉を吐いていた。彼女はほんの少し前まで片田舎で教養など必要としない生活をしていたから、仕方ない事であった。
「お前! いい加減にしろ! そんな口を利くんじゃない!」
おやじい、と呼ばれた中年の男はそれなりの服装であったが、全くもって似合っていなかった。彼女の父もまた、異界からの侵略者によってある日突然下克上を成し遂げたばかりであった。だが、その表情に疲労感が漂っていた。それはこれから起こることに対する不安からもたらされていた。
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