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序章:あの人を忘れない
1.過行くままに
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本当に暑い夏がやって来た。季節だけは強弱こそあれ必ずやってくるものである。しかし、それを迎える人間は絶えず変わってしまう。一年一年は大して変わっていないとしても年数が積み重なれば違っている。しかし、変わらないのは一人この世に残された未亡人という立場だ。
あれから何年たったというのだろうか。テレビで戦後七十年なんていっている。テレビはそういっても、あの戦争を体験した者でないのが伝えているのだから実感なんかないどろう。本当の事をいえば。
あの戦争では目の前で敵国の爆撃機が造船所に爆撃しているのに遭遇したし、憎きグラマンに機銃掃射を受けて死にかけたこともある。そう、私は何度も本当に死にかけた。しかし最も悲しいのは、主人を戦争で亡くした事だ。
あの人とは偶々神戸で女学生だった時に知り合った店員で、大恋愛の末に結ばれたまではよかったけど、赤紙一つで連れ去られて、そのまま南方のジャングルに消えてしまった。戦争が終わってから何十年も帰ってくるのを待っていたけど無駄だった。なんど戻ってくるのを願い涙したのだろうか忘れてしまうほどであった。
あの人との愛の結晶だった息子は都会で就職したきり帰ってこなかったので、半世紀近くも田舎で一人暮らしだ! だから歳を重ね身体は老い衰えていくだけであるが、それは枯れ木のようになっていくだけの歳月だった。あの人とその歳月を重ねられる事がもしあれば、どんな人生だったんだろうか? その答えは永遠にでないだろう。もし許されるのなら出会った時からやり直したかった。もし出来ないのなら別の世界で叶えたいと神仏に願った事もあった。
「西内さん! 郵便ですよ!」
通ってくるのは郵便配達だけという小さな家で、あの人だけを思い暮らすのも飽きていた。そのせいか、最近夢であの人が出てくる!
夢の中の私は若くてあの人とデートしたりエッチしたり・・・そういえばエッチしたのはあの人だけよ! それはそうと戦後は息子を育てるために身を粉にして働いたというのに息子は本当に困った奴だ。まあ、結婚していまは孫までいるから幸せなんだろうけど。
そんな息子たちが盆や正月などに帰って来た時に夫婦同士でいるのをみると、言葉にしないけど嫉妬していた。私だってあの人が帰ってきてくれたら年寄りになるまであんなふうにいちゃついていたというのに、本当!
そんな追慕と嫉妬を抱えて私はもう齢九十を超えていた。身体のあちらこちらにガタがきているので、もうすぐあの人の元に行けると思うと嬉しくてたまらなかった。もし、あの世というものがあれば再会できるはずだと。そんな時、孫の一人の悠亮が遊びに来た。高校生の悠亮は夏休みに日本一周自転車旅行の途中だという事だった。でも、本当は私が気になって来たという事だった。
「ばあちゃん! たまには親父のところに来ないの?」
悠亮からそう言われたが、あまり嫁と相手するのが億劫なので敬遠していたけど、九〇を過ぎて電車に一人で乗るのは、もっと億劫だった。それに飛行機は・・・あまりいい気持ちしなかった。なんだって若い時に銃撃された敵国の飛行機にのるのも嫌だった。
「わしは足が悪いんじゃよ! 汽車に半日も乗っていけんよ」
「汽車ってなに?」
しまった! いまどき汽車なんて言わないんだった! 年寄りだから仕方ないよ! 本当に!
「汽車っていうのは、ほら、SLのことさ、むかしそこの潰れた鉄道が走らせていたんじゃ、今じゃ草ぼうぼうだけどさ!」
「ここって鉄道があったの? こんな山奥にも!」
「そうじゃ、しかたないだろう。このあたりは人が住まんようになっているんだからさ、仕方ねえさ!」
悠亮はしばらく泊まるということなので、布団の準備をしようとしたけど、さすがに足が悪いので自分の分はやってくれということで手伝ってもらった。ひと段落したところで悠亮のバックの中から一冊の本の表紙が見えた。
「転生したらメイドにされたので愛人になった! なんだね、そりゃ?」
「それはねえ、ライトノベルなんだよ。結構面白いんだから!」
私は何故かそれに引き寄せられた。それが何を引き起こすのかを知らぬままに。
あれから何年たったというのだろうか。テレビで戦後七十年なんていっている。テレビはそういっても、あの戦争を体験した者でないのが伝えているのだから実感なんかないどろう。本当の事をいえば。
あの戦争では目の前で敵国の爆撃機が造船所に爆撃しているのに遭遇したし、憎きグラマンに機銃掃射を受けて死にかけたこともある。そう、私は何度も本当に死にかけた。しかし最も悲しいのは、主人を戦争で亡くした事だ。
あの人とは偶々神戸で女学生だった時に知り合った店員で、大恋愛の末に結ばれたまではよかったけど、赤紙一つで連れ去られて、そのまま南方のジャングルに消えてしまった。戦争が終わってから何十年も帰ってくるのを待っていたけど無駄だった。なんど戻ってくるのを願い涙したのだろうか忘れてしまうほどであった。
あの人との愛の結晶だった息子は都会で就職したきり帰ってこなかったので、半世紀近くも田舎で一人暮らしだ! だから歳を重ね身体は老い衰えていくだけであるが、それは枯れ木のようになっていくだけの歳月だった。あの人とその歳月を重ねられる事がもしあれば、どんな人生だったんだろうか? その答えは永遠にでないだろう。もし許されるのなら出会った時からやり直したかった。もし出来ないのなら別の世界で叶えたいと神仏に願った事もあった。
「西内さん! 郵便ですよ!」
通ってくるのは郵便配達だけという小さな家で、あの人だけを思い暮らすのも飽きていた。そのせいか、最近夢であの人が出てくる!
夢の中の私は若くてあの人とデートしたりエッチしたり・・・そういえばエッチしたのはあの人だけよ! それはそうと戦後は息子を育てるために身を粉にして働いたというのに息子は本当に困った奴だ。まあ、結婚していまは孫までいるから幸せなんだろうけど。
そんな息子たちが盆や正月などに帰って来た時に夫婦同士でいるのをみると、言葉にしないけど嫉妬していた。私だってあの人が帰ってきてくれたら年寄りになるまであんなふうにいちゃついていたというのに、本当!
そんな追慕と嫉妬を抱えて私はもう齢九十を超えていた。身体のあちらこちらにガタがきているので、もうすぐあの人の元に行けると思うと嬉しくてたまらなかった。もし、あの世というものがあれば再会できるはずだと。そんな時、孫の一人の悠亮が遊びに来た。高校生の悠亮は夏休みに日本一周自転車旅行の途中だという事だった。でも、本当は私が気になって来たという事だった。
「ばあちゃん! たまには親父のところに来ないの?」
悠亮からそう言われたが、あまり嫁と相手するのが億劫なので敬遠していたけど、九〇を過ぎて電車に一人で乗るのは、もっと億劫だった。それに飛行機は・・・あまりいい気持ちしなかった。なんだって若い時に銃撃された敵国の飛行機にのるのも嫌だった。
「わしは足が悪いんじゃよ! 汽車に半日も乗っていけんよ」
「汽車ってなに?」
しまった! いまどき汽車なんて言わないんだった! 年寄りだから仕方ないよ! 本当に!
「汽車っていうのは、ほら、SLのことさ、むかしそこの潰れた鉄道が走らせていたんじゃ、今じゃ草ぼうぼうだけどさ!」
「ここって鉄道があったの? こんな山奥にも!」
「そうじゃ、しかたないだろう。このあたりは人が住まんようになっているんだからさ、仕方ねえさ!」
悠亮はしばらく泊まるということなので、布団の準備をしようとしたけど、さすがに足が悪いので自分の分はやってくれということで手伝ってもらった。ひと段落したところで悠亮のバックの中から一冊の本の表紙が見えた。
「転生したらメイドにされたので愛人になった! なんだね、そりゃ?」
「それはねえ、ライトノベルなんだよ。結構面白いんだから!」
私は何故かそれに引き寄せられた。それが何を引き起こすのかを知らぬままに。
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