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序章:あの人を忘れない
4.暑い風と共に!
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しばし私は祠の前で昔の出来事に想いを馳せていた。ここからみえる風景は大きく変わっていた。あの時は民家も数多くあったし、集落の真ん中には線路があり汽車が貨車や客車を牽引している姿があった。そして子供が遊ぶ姿があった。
今は線路は無くなり鬱蒼とした雑木林に覆われ、人々の暮らしも無くなってしまい自然の原野に戻っていた。そう私が住む家の周りは何もかも消えていた、あの人が生きていた証は!
祠の前で私たちは将来の夢について語った事を思い出した。それらは全て新婚夫婦の他愛のないものであったが、あることを思い出した。あの時、あの人がいったことを!
「奈津。もし俺が戻って来なかったらお前どうする」
和夫さんは生きて帰れない場合も考えていたのかもしれない。あの頃、お国のために死んでいくのが当たり前とされた時代だからそういうしかなかったもしれない。
「そうねえ、私いつまでも待つわ」
「待つって言ったって、まさかおばあさんになるまでか?」
「ええ、待つわ。だってそれが夫婦だし操を立てるって事じゃないかしら?」
私はその時も今も和夫さん以外の男と一緒になる事は想像も出来なかった。男は和夫さんだけど信じていたから。
「じゃあ、俺は迎えに来るぞ、お前を」
そういって和夫さんは私を抱きしめてくれた。その時の感覚が蘇ったのか私の身体はきつい何かを感じた。それは今にも迎えに来てくれるような気がして心臓がバクバクした。そんな表現を思うようになったのもライトノベルのせいだったかもしれない。もしライトノベルの世界だったらここで、いきなり死んで気が付けば別の世界という事になっているかもしれないが、そんなことは起きるはずはなかった。
私はふと家と畑の方を見た。その家も畑も半世紀も私の世界のほぼすべてだった。何度か息子の勝夫に誘われ東京の家に行った事もあるし、温泉やハワイにも連れて行ってもらったこともあった。しかし唯一行かなかったところがある。それはあの人と出会った神戸の街だった。そこに行けばあの人と再会できるかもしれないと思うことも有ったが、ついに足を延ばすことはなさそうだ。もうすぐ終わりの時が来る予感がしたから。
その時、はっとなった。悠亮のために戻らないといけないと。畑に寄ってトマトとスイカを採って来てあげよう、井戸水につけておけば夕食には美味しく食べれそうだと。それで私は畑のトマトの所に寄った。そのトマトを植えている辺りはあの人が出征するのを見送った場所だった。そう生きているあの人を最後に見た場所だ。それを思い出した私はあの人が立ち去っていった方向をボンヤリみつめていた。そこは戦死を知らされた後も幾度もなくたっていた場所だった。そこにいればあの人が帰ってきてくれるかもしれないと。そしてこういってくれるはずだと。 ”奈津、お前すっかり歳を重ねた” と・・・
それにしても、あの世とやらに行ったら私はあの人を探し出すことが出来るのだろうか? 十年ぐらい前に近所の年下の女に言ったらこういった冗談を言われたことがあった。”そんなに良い男だったら今頃あの世で誰かと結ばれて楽しく暮らしているんじゃないの?” なんて。確かにあの人を好きになる女はいても嫌いになる女はいなかったから、そうかもしれなかった。でも、私はあの人の事は忘れることは無かった。だって何度も再婚話が来ても決して応じなかったから!
トマトを採って駕籠に入れて家に戻ろうとしたとき、私の周りを暑い風が嘗め回すように纏わりついてきた。その風を感じた時、不意に意識が遠のいていくのを感じた。私はその場に静かに崩れ落ちて行った。私はどうなっていくものなのか・・・
今は線路は無くなり鬱蒼とした雑木林に覆われ、人々の暮らしも無くなってしまい自然の原野に戻っていた。そう私が住む家の周りは何もかも消えていた、あの人が生きていた証は!
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私はその時も今も和夫さん以外の男と一緒になる事は想像も出来なかった。男は和夫さんだけど信じていたから。
「じゃあ、俺は迎えに来るぞ、お前を」
そういって和夫さんは私を抱きしめてくれた。その時の感覚が蘇ったのか私の身体はきつい何かを感じた。それは今にも迎えに来てくれるような気がして心臓がバクバクした。そんな表現を思うようになったのもライトノベルのせいだったかもしれない。もしライトノベルの世界だったらここで、いきなり死んで気が付けば別の世界という事になっているかもしれないが、そんなことは起きるはずはなかった。
私はふと家と畑の方を見た。その家も畑も半世紀も私の世界のほぼすべてだった。何度か息子の勝夫に誘われ東京の家に行った事もあるし、温泉やハワイにも連れて行ってもらったこともあった。しかし唯一行かなかったところがある。それはあの人と出会った神戸の街だった。そこに行けばあの人と再会できるかもしれないと思うことも有ったが、ついに足を延ばすことはなさそうだ。もうすぐ終わりの時が来る予感がしたから。
その時、はっとなった。悠亮のために戻らないといけないと。畑に寄ってトマトとスイカを採って来てあげよう、井戸水につけておけば夕食には美味しく食べれそうだと。それで私は畑のトマトの所に寄った。そのトマトを植えている辺りはあの人が出征するのを見送った場所だった。そう生きているあの人を最後に見た場所だ。それを思い出した私はあの人が立ち去っていった方向をボンヤリみつめていた。そこは戦死を知らされた後も幾度もなくたっていた場所だった。そこにいればあの人が帰ってきてくれるかもしれないと。そしてこういってくれるはずだと。 ”奈津、お前すっかり歳を重ねた” と・・・
それにしても、あの世とやらに行ったら私はあの人を探し出すことが出来るのだろうか? 十年ぐらい前に近所の年下の女に言ったらこういった冗談を言われたことがあった。”そんなに良い男だったら今頃あの世で誰かと結ばれて楽しく暮らしているんじゃないの?” なんて。確かにあの人を好きになる女はいても嫌いになる女はいなかったから、そうかもしれなかった。でも、私はあの人の事は忘れることは無かった。だって何度も再婚話が来ても決して応じなかったから!
トマトを採って駕籠に入れて家に戻ろうとしたとき、私の周りを暑い風が嘗め回すように纏わりついてきた。その風を感じた時、不意に意識が遠のいていくのを感じた。私はその場に静かに崩れ落ちて行った。私はどうなっていくものなのか・・・
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