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(アフター・メタルノイド・シンドローム)

メタルノイド・シンドローム・アフター

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 最期の晩餐のあと、美優は家に戻ることにした。もうどうなっても良いと思ったからだ。

 「先生、人類を機械化してどうするのでしょうか?」

 美優は国府田に聞いた。彼の寿命は僅かしか残っていないようだった。

 「どこかに連れ去るのだろうよ。機械化されなかった老人だけになった地球文明は、崩壊さ! そして文明は風化して消え去るのさ、きっと。もしかすると知的生命体というモノはある段階を経ていくと生まれ育った惑星を離れていくのが宿命かもしれないな」

 彼が言わんとしている意味は分からなかったが、どっちにしても人類は消え去る運命だというのは伝わった。それに自分も、外に出れば人間ではなくなってしまい・・・美優という存在は消えるんだと。もし人間のままで死にたいのなら自ら命を絶てばいいだろうけど、そんなことは出来なかった。

 「月並みですが、私はこれで。さようなら!」

 振り切るかのように美優はビルを出た。ビルの外はさっきまでと違い静寂に包まれていた。電車や自動車は走っておらず、人間の営みの音は消え去りまるで映画のセットのようになっていた。

 その時、向こうから機械化人類の一団が行進してきた。その一団に気付いたとき、美優の運命は定まってしまった! とにかく走って逃げようとしたけど無駄だった。たちまち捕まった彼女は着ているものを全て脱がされ、どこからもなく現れてきた黒いカプセルの中に入れられてしまった!

 美優はその中はまるで母の胎内に戻ったような安らぎだと感じていた。身体がドロドロに溶けていくのを認識していたけど、そんな人間としての意識はどうでもよくなっていた。そして美優という人間は消失した!

 小一時間後、黒いカプセルの中から出てきたのは一体の女性型機械人類だった。他の機械化人類と同じ姿で、もう個性というモノは存在しなかった。機械化人類はアリなどのように全ては集団のためにしか存在しえないものだった。かつて美優だった機械化人類は集団の一体となって何処かに向っていた。そして「レムリア編集部」があったビルの前を通った時、一体だけそちらを見たが、すぐに前を見た。年老いた人類を置き去りにして何処かの世界へ旅立っていった。

 黒き箒星たちが地球軌道を離れた時、残された人類は自覚した。人類は若さを奪われ滅びる存在なのだと。

 - 完 -
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