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公爵令嬢ジャンヌの苦悩

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 ジャンヌは父親を見送った。残された父親の遺体は僅かしかなく、死んだと聞かされても信じる事は出来なかった。もしかすると、これは悪夢で目を覚ませば父親が戻ってきている、そんな事も考えたが悪夢は現実であり、その現実の中でしか生き続けないといけなかった。

 葬儀はウォレス公爵領内最大の教会で執り行われた。式には領民の参列も多く盛大なものとなったが、ジャンヌの心の隙間は大きくなってしまった。本来参列すべき親しいはずの人々がそばにいなかったから。

 母親のビクトリアは出席しなかった。数年前に原因不明の病の後遺症で正気を失っていたからだ。書類上は離縁した両親であったが、状態が良くないのに”元”夫の死を知らせると不測の事態が懸念されるという、主治医の判断によるものだ。それで諦めざるを得なかった。

 そしてもう一人が婚約者だ。婚約者は娘婿としてウォレス公爵家に入ると決まっており、将来の義父の葬儀に出席すべきなのにである。なのに都合が悪いなどという事で来ていなかった。でも、本当の理由をジャンヌは後で知ることになったが、それはジャンヌの事は何も思っていなかったためだ。

 大勢の参列者の目の前を、殆ど中身がない父親の棺が荷馬車に乗せられ移動していった。その列の本来喪主がいるべき位置には叔父がいた。彼がしゃしゃり出ていた。叔父は軍人であり、隣国と戦争をしている現状では大きな顔をしているのは当然なのかもしれない、そう人々は思っていた。しかし、本当は叔父がウォレス家の全てを奪うつもりだった。その叔父は実兄の死を大して悼んでいないようにしか見えなかった。

 そんな、身の回りの親しいはずの人々に対しジャンヌは気付いていた。近いうちに自分は排除されるのだろうと。全て奪われたうえで・・・

 父の子供はジャンヌ一人であったので、推定相続人第一位であった。王国の貴族法によれば、貴族位を相続できるのはその家の男系子孫のみであった。また女子も可能であるが中継ぎの位置づけなので、その子が相続する条件は、婚姻相手を同じ男系を祖とする貴族の家系から迎える必要があった。ウォレス家は家祖が王族なので、王家を祖先にもつ家から婿を取ればよかったが・・・ジャンヌの婚約者は劣等生といっていいほど無能だった。
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