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公爵令嬢ジャンヌの苦悩

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 ジャンヌは公爵執務室に戻っていた。そこには秘書官のピエールが控えていた。彼は父ジョセフ8世の影の業務を取り仕切っていた。彼の業務は周辺諸国との秘密和平交渉であった。王国政府は周辺諸国と10年に及ぶ戦争をしていた。一般的には周辺諸国に対し戦況は優位に立っているとされていたが、実際は崩壊寸前だった。同盟国も離反の機会を伺っており、周辺諸国は一致団結して反転攻勢されるのは時間の問題だった。

 「父さんったら、あの叔父さんに騙されたかも・・・だから殺された?」

 ジャンヌは深いため息をついていた。叔父のジェイソンは軍部の重鎮の地位を悪用していた。その証拠集めをしていた最中に行方不明になった。ピエールの調査によれば、ジェイソン麾下の軍人に殺害された疑いがあった。でも、確実な証拠もないし、あったとしてもジェイソンに握りつぶされるといえた。

 「お嬢様、我々の力不足です。申し訳ございません。これからの事について打ち合わせさせてください・・・」

 そういって執務室の机に数多くの資料が並べられた。それらは交戦国からもたらされたものであった。王国政府の和平派の秘密のネットワーク経由であった。

 「やっぱり厳しい条件だね。占領地を全て返還したうえに賠償金を支払えなんて。失った人命は浮かばれないし、戦争を主導した者たちは消え去るしかないわね」

 「まあ、身から出た錆びといえますから…それよりもお嬢様、この公爵家も終わるかもしれません」

 ウォレス公爵家は王国政府から強制的に多額の戦時国債を引き受けていた。その国債は戦争に負ければ事実上踏み倒される可能性が高かった。もしそうなれば伯爵家は経済的に破綻するしかない! 

 「このことは叔父さんは知っているの?」

 「ジェイソン殿は知らないと思います。ジェイソン殿は軍隊の事しか考えませんから。経済音痴ですし元々公爵家の事に関わっていませんから。それなのに、全てを奪おうとしているのは、なんといえばいいものか」

 それを聞いたジャンヌはさらに溜息をついていた。もう公爵家は風前の灯火だと悟っていた。
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