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公爵家を狙うもの者たち

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 ウォレス公爵領へ向かう馬車があった。その馬車にはトーマスとシンシアが乗っていた。父親のジェイソンも公務が終わり次第向かうことになっており、ジャンヌから全てを奪う準備はできていた。ウォレス公爵領は王国南東部に位置しており馬車で三日の旅程であった。

 二人とも本当なら先代のウォレス公爵の葬儀に参列すべきであるのに行かなかった。二人ともウォレス公爵領が嫌いだった。理由は王都に比べたら田舎というものだった。だから、二人ともウォレス公爵を継いだら領地のうち、王都に近い飛び地に公爵屋敷を移転したいなどといっていた。

 「ねえ、大丈夫かしら? うまくいく」

 「大丈夫さ、君の父上が考えてくれた事だから」

 二人は当主代行のジャンヌを婚約破棄に追い込み当主の座から追放するつもりだった。そのために必要な公文書を携帯していた。その公文書は一見すると正当にみえるものだが、ジェイソンが権力を濫用して入手したもので違法であった。だが違法であっても軍事的圧力の前では沈黙するのが、今の王国の実情だった。二人とも、そんなことを考える事はなかったが。

 「今夜は前祝として宿屋についたら晩さん会をしよう!」

 トーマスは笑顔だった。彼にとっては頭が良くて反感しかない婚約者がシンシアに代わるのが待ち遠しかった。あの婚約者のジャンヌさえいなくなればいいわけだ。

 「王都から出て毎日しているわ! そんなことで明日あいつに婚約破棄をたたきつけるのうまくいかないなんてナシよ!」

 シンシアは呆れていたが、全ては公爵夫人の座を得るための辛抱だった。父親が折角ウォレス家の当主になっても、将来の公爵夫人になるためには目の前の色男を掴み取って手を離さないようにしないようにしなければならなかった。頭が一般の中の下ぐらいの頭であっても、そこは妥協するポイントだった。

 馬車は着々と公爵領に近づきつつあった。全てジャンヌが手中にしていたモノを奪い尽くすために。
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