上 下
1 / 2

前編

しおりを挟む
 大公殿下を殺害しようとした娘の運命は貴族といえども同じであった。弑逆罪は陰謀のみの未遂であっても極刑しかなかったから。もっともそれは嵌められたものであったが・・・

 公爵家の令息と婚約した娘は完全に嫌われていた。令息の好みで無く政略結婚のために婚約した娘など興味はないばかりか、溺愛する幼馴染と結婚するのを邪魔していたと逆恨みしていた。だから確実に排除するため、そんな卑劣な罠をかけたわけだ。

 娘は処刑場につれて来られた。今回の場合、国王の恩赦により娘の親族に対する処罰は許され本人のみが処刑されるのみになった。しかも公開処刑でなく監獄の地下で執行されることになった。そこで、娘は毒が入った杯を渡され飲み干すように促された。両脇には屈強な男が控えており、拒絶する場合は無理やり飲ませる手筈だった。ただ男の出番はなかった。娘は観念して自ら飲み干した。

 冤罪という主張は誰にも受け入れてもらえなかった。もうどうする事も出来ない、次に生まれ変われるなら、いや時間が巻き戻るなら、こんな卑劣な罠に落とされる事がなければと、そう思い涙を流した。そして息をしなくなった娘は、着せられていた粗末な囚人服を脱がされ、まるでゴミでも捨てるように麻袋に乱暴に入れられ、墓地へと向かった。そのはずだった・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 娘が目覚めた、違和感の中で。ここはあの世? どこかの世界? そう思っていた。でも、全身に強い拘束感があった。まるで皮膚が圧迫されているかのように・・・

 「立ち上がったか人形!」


 娘は返事しようとしたが声が出なかった。そればかりか口に物が詰まっているように感じた。


 「お前は喋ることは出来ない、ただのメイド人形だからな。命令で動くだけの!」


 その声は老婆のようであったが、意味がわからなかった。でも、立ち上がるように命じられると身体は動いた。そして姿見の前に立つと自分の姿に驚愕した! それは怪しい輝きを放つ黒い人形の姿をしていた!


 「お前の死体を使い、人形を製造した! お前はこれから命令で動くだけのメイド人形だ! まあ、お前の肉体が朽ち果てるまで働け! いいな!

 それは死罪になるよりも恐ろしい刑罰を受けていた! 娘は働かされるだけの人形にされてしまった!

しおりを挟む

処理中です...